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担当者が語るDolby Atmos Music〜Dolby Atmosはアーティストとリスナーがより親密につながる手段です

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Dolby Atmosはアーティストとリスナーがより親密につながる手段

 

昨年スタートしたDolby Atmos Music。エルトン・ジョン「ロケットマン」、ザ・ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』『アビイ・ロード』などの旧譜リミックスはもとより、コールドプレイ、リゾ、アリアナ・グランデ、ポスト・マローンなどの新作タイトルも多数、Dolby AtmosでAmazon Music HDやTIDAL(日本未展開)からストリーミング配信されている。ここではDolby Atmos Musicのディレクターであるティム・プライド氏にインタビュー。海外におけるアーティストの反応や、DOLBY LABORATORIES社がこの試みに対してやってきたことなどを話していただいた。

(サウンド&レコーディング・マガジン2020年4月号より)

取材協力:Dolby Japan

 

映像無しのDolby Atmosの試み

 
ーまず、Dolby Atmos Musicを御社ではどのように定義しているのでしょうか。

 プライド  Dolby Atmos Musicは、アーティストが作る作品によって定義されると考えています。我々はそのためのテクノロジーを提供していますが、その技術によって、アーティストが新しい表現をするためのお手伝いをしている立場だと思っています。


ーということは、Dolby Atmos CinemaやHomeとは、若干ニュアンスが異なる言葉だということですね。

 プライド  そうです。Dolby Atmos CinemaやHomeは映像を伴ったもので、映像コンテンツのサウンドの臨場感を我々の技術によって高めるものです。それに対して音楽は、映像が無い分、音自体のクリエイティビティに寄るところが大きい。その点で全く異なるものだと思っています。


ー2017年から、クラブでDolby Atmos再生をする試みを始めていたと思います。それと、昨年からスタートしたストリーミングでのDolby Atmos Musicとは、どう関係しているのでしょうか?

 プライド  クラブでの試みは、映像無しのDolby Atmosでの音楽は受け入れられるものなのか、どのような反応が得られるのか、アーティストはどうやって使いこなすのかを知るために行ったものです。最初はロンドンのミニストリー・オブ・サウンドやシカゴのサウンド・バーなどで始め、日本ではageHaでもDJにパフォーマンスしてもらいました。反応も良く、DJたちももっと掘り下げてみたいと言ってくれました。そして、クラブのオーディエンスだけでなく、もっと先の音楽リスナーにまで届けたいという声が高まってきた結果、昨年からのストリーミング・サービスへの展開に至っています。

デッドマウスやソーラーストーン、メトリック、サブ・フォーカスら、クラブでのDolby Atmosを使ったDJプレイに参加したアーティストたちが出演するトレイラー・ムービー


ー現在、Dolby Atmos Musicとしてストリーミング・サービスに登録されている曲数は?

 プライド  日ごとに増えていっていますし、レーベルとストリーミング・サービス間の契約なので、実は我々は把握していないのです。我々がそれを申し上げる立場にはありません。ただ、パッケージを含めて、Dolby Atmosでミックスされた楽曲は何千とあるということは言えます。


ー大まかなにどのくらいかも分かりませんか?

 プライド  申し上げたように、我々としては正確な数を把握していません。例えばAmazon Music HDで一つ一つ数えれば可能ではありますが。ただ、Amazon Music HDもTIDALも、レーベル側も積極的にDolby Atmos Musicの楽曲を配信したいという意向があるのは確かです。

 

ベッドルーム・クリエイターまでカバー


ーDolby Atmosミックスは、どのような形式でストリーミング・サービスへ納品されるのでしょうか?

 プライド  Dolby Atmos CinemaやHomeのワークフローで作成するのと同じ、Dolby Atmos Rendererで出力したADM BWF形式で納品することになります。もちろん配信に必要なメタデータなども添付する必要があるのは、ステレオの場合と同じです。

 

ー配信用として多くのDolby Atmos Musicをミックスするために、Dolby Atmos Home対応のスタジオも急増したのではないですか?

プライド  それは良い質問です。現在、世界には100以上のDolby Atmos対応スタジオがあり、急激にその数は増えています。それらのスタジオ用途はCinema、Home、Gamingとさまざまですが、それらでDolby Atmos Musicミックスが行えるようにするのは簡単です。ただ、ポストプロダクションと音楽制作のワークフローは異なるので、アーティストとのやり取りの中で、ポストプロダクション用の設備で音楽制作を行うための知見が蓄積されてきました。また、Dolby Atmos Rendererを使って、ベッドルーム・プロデューサーがヘッドフォンでDolby Atmos制作することも可能になり、スタジオに入らなくても制作を始めることもできます。つまり、最高のスタジオ環境からベッドルーム・クリエイターまで、いろいろなレンジでの制作をカバーできるようになった、ということです。そうした制作環境のレンジの広さに対して、我々はエンジニアにトレーニングを提供して、彼らがDolby Atmosでミックスができるようにさまざまなサポートをしています。

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Dolby Atmos対応スタジオは世界的に増加傾向にある。写真はDOLBY社内スタジオで、AVID S6を設置。アメリカのキャピトルではミックス専用スタジオのStudio Cやブラックバード・スタジオのStudioCがDolby Atmos Homeに対応、イギリスのアビイ・ロードはシネマ用ミックス・ステージのほか、ザ・ビートルズのDolby Atmosミックスで使われたペントハウスなど、複数のDolby Atmos対応スタジオを構えている


ートレーニングでは具体的にどのようなことをしているのでしょうか?

 プライド  技術的なこと以上に、イマーシブ・サウンドの考え方を提供しています。長年にわたってステレオ・ミックスをしてきた人たちに、どうやってパートを振り分けたらいいのか……その具体的な方法というよりも、考えやすくするためのチュートリアルですね。


ー新作の場合、アーティストやプロデューサーがDolby Atmosで制作したいと考えるのがまず最初だと思います。Dolby Atmos MusicのWebサイトでは、コールドプレイやリゾなどのアーティストが紹介されていますが、彼らに対してはどのようにアプローチしたのでしょうか?

 プライド  すごく楽しい取り組みでした。何をしたかと言えば、シンプルに、Dolby Atmosでミックスされた楽曲を聴いてもらったんです。アーティストたちはお互いにさまざまな情報交換をしていて、ほかのアーティストが言うことをとても信用しています。実際に聴いたアーティストが“やってみたい”と言ってくれて、それがほかのアーティストにも波及していった、というのが実際のところです。Dolby Atmosで最初にミックスされた曲の一つが、エルトン・ジョン「ロケットマン」ですが、聴いたアーティストはみんな、とても良い反応をしてくれます。リゾの場合、彼女は暗い中で涙を流しながらこの曲を聴いていました。実は、彼女の父親が大好きだった曲だそうです。しかし、そうした個人的な思い出以上に、今までのステレオとは違う形で、エルトン・ジョンとつながることができた……エルトンの意図や思いがステレオよりもはるかに伝わってきたと彼女は語っていました。

music.dolby.com


ーおっしゃるように、アーティストが自分が表現したいものをリスナーにより良く伝える。あるいはリスナーから見ればアーティストの意図がより伝わる。そうした体験を提供するのが、Dolby Atmos Musicの目的ということですね。

 プライド  音楽を通じて、アーティストとリスナーが通じ合っていくこと重要だと思います。より親密な形で実現する手段として、その可能性をDolby Atmosという技術からアーティスト自身が感じ取っているんです。“こんな形で音楽を聴いたことはない。私の楽曲もDolby Atmosでリリースしたい”とアーティスト自身が言ってくれる。それは私たちが考えていたことを、証明してくれる言葉だと思います。


ー現在のところ、ユニバーサルとワーナーミュージックが多くのタイトルをリリースしていますが、インディペンデントのアーティストでもDolby Atmos Music作品を制作/リリースすることは可能なのでしょうか?

 プライド  はい。Dolby Atmosの制作は、レーベル/アーティストを問いません。実際のところ、アリシア・キーズやカルロス・サンタナのようなソニー・ミュージックの契約アーティストもDolby Atmosに取り組んでいます。誰でも取り組むことができます。


今までのステレオの概念を取り払う

 

ー日本ではTIDALが展開されていませんし、Amazon Music HDもEcho Studioでしか聴けません。それ以外のサービスでの展開を期待したいところです。

 プライド  ありえる話ですし、私たちはほかのストリーミング・サービスとも話をしています。各サービスは他社とどう差別化していくかが重要だと考えています。映像の世界でもさまざまなストリーミング・サービスがありますが、ほとんどがDolby VisionとDolby Atmosを採用しています。映像の世界がそうであるように、音楽のサービスもそうなっていく流れになるのではないでしょうか?


ーそうした映像サービスの流れに合わせて、スマートフォンやデバイスのDolby Atmos対応が進むと、音楽サービスもDolby Atmosに対応していく流れが生まれそうですね。

 プライド  既にたくさんのデバイスがDolby Atmosに対応していることが、音楽ストリーミング・サービスにとって大きなアドバンテージですね。技術的には可能ですから。


ー日本のアーティストに期待することはありますか?

 プライド  やはり、まずDolby Atmosの音楽作品を聴いてほしいです。今までのステレオの概念を取り払うものになると思いますから、次の新しいクリエイティビティにつなげてほしいですね。私自身、インディー・ロックを中心に30年間音楽活動をしているのですが、4年前にDolby Atmosミックスされた音楽を聴いて、そう感じました。実は今、弊社で自由にデモ音源として使えるDolby Atmos Music楽曲を自分で作っているところです(笑)。


ーなるほど。ところで仕事を通じて、自分が好きだったアーティストに会えたこともあるのでしょうか?

 プライド  スティーヴィー・ワンダーやピーター・フランプトンなど、そうそうたるアーティストにお会いしています。優れたアーティストの共通していることは、どうやってもっとクリエイティブな作品を作るかを意識していることです。そんな彼らにDolby Atmosの作品を聴いてもらうと、みんな自分もやってみたいと言ってくれます。デッドマウスや、ブラッドリー・クーパーもそうでしたね。

 

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