
JJP Drumsで素早く目的の音にたどり着く
僕はエンジニアではなくコンポーザー/アレンジャーなので、やっぱりその目線でプラグインを選び、使っているんです。最近のイチ押しはWAVES JJP Drums。U2やレディー・ガガ、ザ・ローリング・ストーンズらの作品を手掛けてきたエンジニア=ジャック・ジョセフ・プイグの音作りをプラグイン化したもので、ドラムの処理に向いています。コンプやEQを組み合わせたような効果が単体で得られ、例えばKICK INセクション(後述)のPUNCHスライダーを上げると、キックの低域成分とアタック成分が強調された、文字通りパンチのある音がすぐ手に入ります。
これを使い始めるまでは、キック一つを処理するのにも幾つかのエフェクトを組み合わせて試行錯誤していたのですが、好みの音へたどり着くのに時間を要していました。音楽を作るときに一番大事にしたいのは、頭の中に描いているイメージをできるだけ速く、冷めないうちに表現するスピード感なので、簡単な操作で目的の効果を得られるJJP Drumsがとても役に立っています。
一例として、キックへのかけ方を紹介しましょう。JJP Drumsには、KICK INやKICK OUT、SNR TOPにSNR BOT、それからTOMSの5つのセクションが用意されており、例えばKICK INにはキックの胴の内部で録った音(=胴鳴り〜アタック成分を主体とするキック音)に適したパラメーターが備わっています。僕はキックの素材としてオーディオのサンプルを使っているのですが、素の態ではオケ中で低域がボワついたりすることもしばしばです。また曲によっては、低域以外の部分も課題に……。そこでJJP Drums/KICK INを活用するわけです。
処理の手順としては、まず画面左のトーン・コントロール(ハイ/ロー)で素材の周波数特性をざっくりと整えます。その上で“もう少しパンチが欲しいな”と思えばPUNCHスライダーを上げる形。僕はクラブなどでパフォーマンスすることが多く、キックのインパクトを大事にしているので、PUNCHが最もよく使うパラメーターとなっています。またSUBというスライダーも便利で、手軽かつ良い感じに低域を持ち上げることが可能。そして、ミックス全体のバランスを崩すことなく素材の存在感を強調できるのもJJP Drumsの特徴だと思います。
キックのほかには、スネアやハイハット、シンバル類にもJJP Drumsを愛用しています。例えばスネア用のセクションSNR TOPにはVERBという特徴的なパラメーターがあり、素材の残響を調整することが可能。この通り各打楽器にマッチしたパラメーターで直感的に音作りできる上、CPU負荷も低いので活用しまくっています。

【TOPIC】JJP Drumsのテクノロジーについて
サカモト教授さんは、JJP DrumsのKICK INモードにあるPUNCHスライダーについて“低域を上げつつもパンチを出せる”とおっしゃっていましたが、なぜこういう効果が得られるのかと言うと、入力された音(ダイレクト音)にパラレルでエフェクト音をミックスし出力しているからです。具体的には、低域のイコライジングに加えリミッティングを行っています。
JJP Drumsでは、オーディオ・スペクトラムの倍音を特に重視してプロセッシングしています。倍音の付加と合わせて正確なコンプレッションを施すことで、ミックス内のほかの要素と同じように、ドラムをひとまとまりのサウンドとして処理できるのです。サカモト教授さんが“ミックス・バランスを崩すことなくドラムの存在感を強められる”と言っていたのは、こうした仕組みからですね。
(解説:WAVES インターナショナル・マーケティング ウディ・ヘニス氏/Udi Henis氏)
スマホ時代のベース処理にはMaxxBass
続いてはベースの音作りについて解説します。僕はスマートフォン用ゲームの音楽なども手掛けており、仕上がりをスマホの内蔵スピーカーで鳴らしてチェックすることもあるのですが、お察しの通り低域がばっさりと切れて聴こえる場合も多いです。それで、EQを使ってブーストするなどの試行錯誤をしてきたものの、最も素早く解決できる手段としてWAVES MaxxBassを使い始めました。
MaxxBassは低域用のエンハンサーで、基音を持ち上げるのではなく倍音を足すことにより、キックやベースを聴こえやすくするというものです。先ほどのJJP Drumsと同じく、ミックス・バランスを崩さずに目的の音の存在感を強めることが可能。僕はベースに使うことが多く、特にスマホで聴かれることを前提とした音楽には効果てきめんだと思います。また最近はストリーミング・サービスの利用者が増え、スマホやパソコンの内蔵スピーカーでリスニングされる機会も多いと思うので、どのような環境でもベースを抜け良く聴かせたい場合に有用です。
使用する主なパラメーターはOriginalBass(原音の音量)とMaxxBass(倍音の音量)の2本のスライダー。これらを上げ下げしながら、モニター・スピーカーを通して聴感上のベースの大きさを決めていきます。画面中央やや左の横フェーダーでは、付加する倍音の帯域を調整可能。設定する値は原音の周波数特性によるのですが、例えば低域成分が多い場合はデフォルトから右にズラし、高めの倍音を加えるとよいでしょう。

トータルの周波数処理に効くプラグイン2種
ここまではリズム隊の音作りを見てきましたが、気分を変えてマスタリングの手法を紹介しましょう。僕は曲全体のステレオ感を重視していて、常々、空間的な広がりを意識しながら音作りをしています。それに欠かせないのがWAVES H-EQ。5バンド・パラメトリックEQ+ハイパス/ローパス・フィルターのプラグインで、M/Sモードを重宝しています。このモードをアクティブにすれば、ステレオ音声をMid(真ん中)とSide(左右)の2つの成分に分けて扱えるように。
よくやるのは、マスターに挿してSide成分の高域を上げるという処理です。これにより、左右で鳴っているハイハットやシェイカーが際立つようになり、空間的な広がりが感じられるようになります。どれくらい持ち上げるかは曲にもよりますが、3〜5kHz辺りをハイシェルビングEQで5dBほどブーストするのが自分好みです。ただし、あまりやり過ぎると曲全体のパンチ感が弱くなってしまうので要注意です。

このH-EQと組み合わせて、マスターで使っているのがNUGEN AUDIO Monofilter。ステレオ・フィールドにおいて低域のみをモノラル化できるプラグインです。オケの中で音を増やしていくと、低域がモワついてしまいがちです。その結果トータルの音圧を上げづらくなったりするのですが、マスターで低域をモノラル化して位相を正し、音像を絞ればリミッターなどが効きやすくなります。
例えば管弦楽系の曲を作るとき。オーケストラ音源などを使用することと思いますが、往々にして空間の鳴りも含まれているので、そのまま音数を増やしていくと全体の低域が混雑します。そこでMonofilterをマスターにインサート。100Hz辺りから下をモノラル化すると、一気にスッキリします。元のステレオからどのくらいモノラルに近付けるかを調整できるので、モノラルに寄せ過ぎて物足りなくなってしまった場合は少し戻してみましょう。僕はオーケストラ系の曲の場合、完全なモノラルではなく少し広げた状態にしています。他方ダンス・ミュージックでは、70〜80Hz以下を完全にモノラル化。これはキックをド真ん中で鳴らしたいからですね。

OneKnob Pumperで即ダッキング!
さて最後に、一瞬でダッキングの効果を得る方法を紹介しておきます。例えばキックのタイミングで他パートをダッキングしたいときは、サイド・チェイン・コンプを使うことが多いでしょう。しかしサイド・チェイン・コンプはルーティングやコンプのパラメーター設定に手間を要するため、あれこれやっているうちにクリエイティビティが冷めてしまいがち。そんなときに役立つのがWAVES OneKnob Pumperです。規則正しいダッキングが行えるプラグインで、画面左下のRateから周期=1/4を選択すれば、4つ打ちのキックをトリガーとしたサイド・チェイン・コンプのような効果が得られます。かかり具合は中央のノブ一つで調整でき、さらにはダッキングのアタック/リリース・タイミングも良い感じなので、細かい調整はできないものの重宝しています。

音のクオリティを高める上で一番手っ取り早いのは、“プロと同じ道具を使うこと”だと思います。ここではプロ御用達のWAVESプラグインを多数取り上げましたが、まだ使ったことがない人は、同社の基本的なプラグイン10種を同梱したPower Pack辺りから入門するとよいでしょう。気になる人はチェックしてみてください。