
歌モノのダンス・ミュージックの制作は
どこから手を付ければよいのか?
皆さま初めまして! 今回から本連載を担当いたしますAJURIKAです。普段IMAGE-LINE FL Studioを使用して、ゲーム・ミュージックからダンス・ミュージック、また歌モノの制作などをしており、同社のWebサイトにFL Studioのパワー・ユーザーとして掲載していただいています。FL Studioは独特の構造を持ち、オートメーションやミキサーのルーティングにもいろいろな方法が存在するので、選択肢が多いゆえの難しさも抱えています。そこで本連載のために歌モノのダンス・ミュージックを新たに作り、その工程を通してFL Studioの機能とその使用方法を紹介します。今回はボーカルが入っていない段階のデモ音源を用意したので、サンレコのSoundCloud(https://soundcloud.com/sound-7/2017_fl-studio)にアップしました。本文と併せてご試聴ください。
純正のシンセ3X OSCなどで
まずは大まかに曲を構成する
音楽にはいろいろなジャンルや形態があり、その制作手法もさまざまです。歌モノのダンス・ミュージックでも人によりさまざまな作り方がありますが、ここでは私なりの手順を紹介します。普段ボーカル曲を制作する場合は、FL Studioに標準搭載のシンセ3X OSCをメロディ、コード、ベースの分の計3つ立ち上げ、テンプレートとして使っているキックやスネア、ハイハットを交えて大まかに曲を構成していきます。これを“下書き”と呼んでいます。以前はキックとベースの音作りから手を付け、そこにコードやメロディを乗せていました。バッキングが先にできているとメロディを作りやすいのですが、その反面構成の変更や転調をしたくなったときに対応が難しく、不自由さを感じていました。しかし最近は、下書きを先に作ることでメロディや展開の発想に制限が無くなり、思った方向へ曲を向けていけるようになりました。


3X OSCだけで簡単にメロディ、コード、ベースを組み展開を作ったら、次はそれぞれをより意図に合った音源に差し替え、フレーズの追加も行います。今回はメインのコードをピアノにしたかったので、サード・パーティ製のピアノ音源XLN AUDIO Addictive Keysを立ち上げました。このAddictive Keysは目的の音にたどり着くのが早く、最近のお気に入りです。
新しいフレーズの追加に際しては、専らサード・パーティ製のLENNARDIGITAL Sylenth1かFL Studio純正のHarmorを使用しています。昨今人気のXFER RECORDS SerumやREVEAL SOUND Spireも素晴らしいサード・パーティ製シンセなのでよく使うのですが、CPU消費が比較的大きいこともあり、下書き段階での登場は少ないです。この段階ではあまり細かく音作りせず、思うがままに音を足していきます。ちなみにキックとベースは、まだ最初の状態のままです。3X OSCでの下書きの後、先にキックとベースの音作りを進めてもよいのですが、まずはどのような楽器が鳴っているかの当たりを取り、その後曲の土台となるキックとベースを作り込んだ方が良い結果が出やすいと思います。

MIDIリージョンの切り張りや
内蔵アルペジエイターでフレーズ作成
ここでピアノ・トラックに注目。最初に作ったMIDIリージョンをスライス・ツールで切り刻み、それをコピー&ペーストし別のフレーズとして使用しています。ダンス・ミュージックの制作ではサンプル(オーディオ・データ)を切り張りすることが多いですが、MIDIデータの切り張りも普通とはまた違う表現になります。メロディなども単一のリージョンにノートを一つ一つ打ち込んで作るのが主ですが、その後にあえて切り刻み、別フレーズに組み替えるのも大変面白い結果を生みます。偶発的ですが、自分が作ったものを組み替えて新たなフレーズを生み出すのは、制作モチベーション的にも良いことだと思います。

この段階で使用しているFL Studioの機能としては、各チャンネルのセッティング・ページにあるLayerとArpeggiatorが挙げられます。Layerはその名の通り、複数の音源を重ねて鳴らす機能です。今回のデモ音源では後半に出てくるリード音に使用しており、シンセを3つ重ねています。このLayerは、リードやベースといった重要なパートでは必ず使っていて、音の立体感や存在感を出すのに有効です。デモ中盤に出てくるアルペジオのフレーズには、音源としてSylenth1を使っているのですが、アルペジオはFL StudioのArpeggiatorで作り出しています。シンセ個々にもアルペジエイターが備えられている場合があり、高機能なものも多いのですが、このArpeggiatorはどんな音源にも使えるので私の中ではファースト・チョイスとなっています。
次にリズム隊に手を付けます。今回はMIDIによる打ち込みではなく、ワンショットをプレイリスト(タイムライン)上に直接配置することでフレーズを構築します。生ドラムをシミュレートする際などに細かいニュアンスの違いを出すのであれば、幾つもパターンを作成し、FL Studioならではのパターン・ベースで組んだ方が良いと思いますが、ダンス・ミュージックの場合は大きな流れの中でリズムを組んだ方がイメージをつかみやすいでしょう。ただしハイハットは細かい演奏となるので、しっかりシーケンスを打ち込みMIDIのリージョンで鳴らしています。そのほかヒット音やホワイト・ノイズのスウィープ音、効果音などは既存のサンプルを適宜張っています。楽曲のキーやBPM、展開に合わせてオリジナルなものが必要になった場合は、後から作成するようにします。
以上のようにある程度フレーズを追加したら、次に各トラックをミキサーにルーティングしていきます。この段階で最終的な調整を見据え、大まかにドラム、ベース、オケ、ボーカル、そして全体といったバスを用意しました。この段階まで進み、書き出したものがサンレコWebにて聴けるデモ曲になります。


下書きを作成し音源差し替え、フレーズを追加しミキサー・チャンネルへの割り振りまで進みましたが、いかがでしたでしょうか? 次回は曲の根幹となるキックとベースの音作りについて解説します。お楽しみに!
FL Studio シリーズ・ラインナップ
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FL Studio 12 Producer Edition(24,000円)
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