今春に発売されたBOSEの新たなPA用ポータブル・ラインアレイ・システム=L1 Pro。東京のPAカンパニー、オアシスサウンドデザインが導入したL1 Pro16(写真)は、2インチ径ドライバー×16個から成るラインアレイに15インチ相当のサブウーファーを組み合わせたモデルだ。遠達性を伴うクリアなサウンドや42Hzまでカバーする低域特性などを特徴とするが、その実力やいかに? オアシスサウンドデザインが運営する天王洲アイルのライブ・ハウスKIWAにて、代表の金森祥之氏に聞く。
Photo:Hiroki Obara Cooperation:KIWA
【動画】BOSE L1シリーズの新星「L1 Pro」を語る!
BOSE L1 Pro〜PA用ポータブル・ラインアレイの新星
16個の2インチ径ネオジム・ドライバーを縦に配置したラインアレイ+15インチ相当の楕円形サブウーファーから成るポータブルPAシステム。DJ、シンガー・ソングライター、小規模編成バンドなどのメイン・スピーカーとして、最大300人クラスの会場での使用を想定している。パワー・アンプやミキサーを内蔵し、中小規模PAに必要な機能をカバー。可搬性も重視した設計だ。シリーズ製品としてL1 Pro8(2インチ×8個のラインアレイ+12インチ相当のサブウーファー)、L1 Pro32(2インチ×32個のラインアレイ)、L1 Pro32との併用に向けたサブウーファーSub1とSub2をラインナップ。
SPECIFICATIONS
■水平指向角:180° ■クロスオーバー周波数:200Hz ■低域特性:42Hz(-3dB) ■内蔵アンプ出力:最大1,250W ■最大出力レベル:124dB SPL(ピーク) ■外形寸法:355(W)×2,012(H)×456(D)mm ■重量:22.9kg ■価格:220,000円(1台)
全帯域のつながりが良く余裕のある出音
2003年に発売されたL1(国内は2008年)、そのコンパクト・モデルとして2009年に登場したL1 Compact。両機種を導入し、活用してきたオアシスサウンドデザインにとって、L1 Pro16はPAの現場により即した仕上がりのようだ。「内蔵パワー・アンプなどの性能も劇的に向上しているのでしょう。SN比が良くてクリアな音だし、ピーク・マージンに余裕を感じます」と金森氏は語る。
「音量を上げていったときに、ひずんでしまうポイントが従来よりもはるかに上なんです。サイズや用途を考えると、大音量ソースを許容できること以上に、パルシブな音やダイナミック・レンジが広いソースにも余裕を持って対応できるところに魅力を感じています。その結果、アコースティック楽器の演奏やスピーチを十分な音圧感で鳴らせる。これは進歩だと思いますし、汎用性が高くなりましたよね」
金森氏は、ラインアレイ部とサブウーファー部の“つながりの良さ”も高く評価している。
「まずは、ラインアレイ部のドライバーがよくできています。と言うのも、クロスオーバー周波数が200Hzと極めて低いんです。つまりラインアレイ部が200Hzまで担っているわけで、2インチ径ドライバーの低域特性としては驚くべき設計。音色の違いを感じさせたり、コードを認識できる下限辺りまでの帯域……つまり音楽ソースにとって重要な部分をこのドライバー群だけで鳴らせるので、ナチュラルなサウンドが得られます。一方、サブウーファー部は200Hz以下を担いますが、そのうち上の方は音色にかかわる帯域です。そこの作りがしっかりとしているからこそ、ラインアレイ部との音色的なつながりが良いんですね。チャンネルごとの低域と高域はTone EQで調整できるものの、標準的なバランスで十分に音楽ソースを良い状態で鳴らせます」
L1 Pro16のサブウーファーは、10インチ×18インチの縦に長い楕円形ドライバーを採用。筐体の横幅をスリムにすることで、体に寄せて持ち運べるようにしている。「運搬時に太ももにばんばん当たらなくて良いですね」と、その可搬性を金森氏も評価している。
“遠達性”を高い水準で実現している
L1 Pro16は、8月に新国立劇場で行われた渋谷慶一郎のオペラ『Super Angels』の現場に投入された。
「歌手の声とオーケストラの演奏を舞台に返すためのサイドフィル・モニターとして使用しました。新国立劇場の舞台は間口が広く、奥行きも深いんですよ。また渋谷さんの電子音であったり、ピン・マイクで増幅した声を鑑みると、オーケストラの音をきちんと聴こえる状態で返すにはラインアレイの遠達性が必要だと。小径ユニットを縦一列に密接させつつ並べて遠達性を高める、というのがラインアレイの線状音源理論ですが、L1 Pro16はこれを高い水準で実現していると思うんです。新国立劇場ではピントの合った音で返せましたし、180°という水平指向角の広さも奏功しました。興味深かったのは、舞台袖で次の場面の準備などをしている大道具のスタッフの方々にご評価いただけたこと。“普段よりも音がよく聴こえたから進行がよく分かった”と言ってもらえたんです。遠達性の高さを象徴するエピソードですよね」
さて、オアシスサウンドデザインはKIWAに“フルBOSE”と言うべきスピーカー・システムを構築している。メインL/C/RとリアL/RのShowMatchをはじめ、メインの補助に使われるRMU108、リバーブ成分をフォローするDS16S、メインを使わない弦楽コンサートなどに用いるMSA12X、歌を返すためのPanaray 802 III、フロア・モニターとして活用中のAMMシリーズといった布陣だ。
「AMMシリーズを導入したのは、メインのShowMatchとコンプレッション・ドライバーのチューニングが共通しているからなんです。これらのコンビネーションにより、FOHとモニターの両ポイントで、中~高域を同じ感覚で聴けるようになります。KIWAは卓返し……つまり一台のコンソールでソトとナカを賄っているので、ミュージシャンと同様の基準で音作りできるのはありがたい。ディスカッションも進めやすく、信頼関係にもつながると思います」
スピーカーの台数を増やし、イマーシブ・サウンドやライブ配信にもより注力していきたいそう。BOSEスピーカーを駆使したサウンド・デザインから、今後も目が離せない。
天王洲アイルKIWA
KIWAの運営母体は、1950年に創業し、1970年代より美術品や貴重品の保管事業を基幹ビジネスとしている寺田倉庫だ。ミュージアムやアート・スペースのプロデュースも手掛け、天王洲アイルから文化を創造/発信し続ける同社だからこそ、イベント・スペース運営事業へのスタンスも先進的。オアシスサウンドデザインとタッグを組み、音響設備の充実化やライブ配信など常に新たな取り組みを行っている。
「世の中のさまざまなコンテンツにおいてアナログとデジタルの融合が進む中、私たちの事業も例外ではなく、顧客が預けたものをスマートフォンひとつで管理できるようサービスを拡充したり、倉庫のクラウド化を前提とした新しいサービスを開発したりするなど、時代に寄り添いながら歩を進めています。弊社のイベント・スペース運営事業についても、“会場に足を運ぶこと”がアナログで、足を運ばずともライブを視聴できる“配信”をデジタルとするならば、アナログとデジタルの融合を加速度的に進めるべき局面を迎えており、金森さん率いるオアシスサウンドデザインとともに、一層のシナジーを発揮していきたいですね」
【KIWA】 〒140-0002 東京都品川区東品川2-1-3 03-6433-1485(受付時間13:00~21:00)