WAVES NX Germano Studios New York レビュー:著名スタジオのコントロール・ルームをヘッドフォン上で再現するプラグイン

WAVES NX Germano Studios New York レビュー:著名スタジオのコントロール・ルームをヘッドフォン上で再現するプラグイン

 ザ・ヒット・ファクトリーは、デヴィッド・ボウイ、マイケル・ジャクソン、トラヴィス・スコット、ケンドリック・ラマー、リアーナ、ポスト・マローン、カニエ・ウェストなど、多くの著名アーティストたちから選ばれてきた伝説的なスタジオで、2008年からはゲルマノ・スタジオとして運営されています。今回紹介するWAVES NX Germano Studios New Yorkは、そんなスタジオのモニター・システムをヘッドフォン上に再現するプラグイン。Mac/Windows対応で、AAX/AU/VST/VST3をサポートし、WAVES Super Rack、Studio Rack、eMotionでも使用可能です。

ステレオのみならず5.1chサラウンド・モニタリングにも対応

 NX Germano Studios New Yorkには、ヘッドフォン上に疑似的な3D音響空間を構築できるというWAVES独自のNXテクノロジーが用いられており、ほかにもオーシャン・ウェイ・ナッシュビル・スタジオのモニター環境を再現するNX Ocean Way Nashvilleや、クリス・ロード=アルジ氏が所有するスタジオMix LAのモニター環境を再現するCLA NXなどがリリースされています。

 これらはWebカメラやWAVES NX Head Tracker(別売り)と併用することで、顔の向きや傾きに応じて音像が変わるヘッド・トラッキングに対応。つまりユーザーが横を向くと、仮想スタジオ内で横を向いたときの聴こえ方に変化するため、ヘッドフォン上の音像もそれに連動します。結果として、そのスタジオのミキシング・ルームにいるかのような体験を味わうことができるのです。

 NX Germano Studios New Yorkがモデリングするのは、ザ・ヒット・ファクトリーにあるスタジオ1のコントロール・ルームのモニター・システム。ラージにはEXIGY S412G、ニアフィールドにはYAMAHA NS-10MとGERMANO ACOUSTICS A2Sを備え、NX Germano Studios New Yorkではこれらをボタン一つで自由に切り替えることが可能です。またステレオのみならず、5台のA2S+サブ・ウーファー構成による5.1chサラウンド・モニタリング・システムをヘッドフォン上で再現することもできます。

 NX Germano Studios New Yorkの画面を見てみましょう。上半分はスタジオ・ビューとなっています。画面中段には、左から3種類のモニター・スピーカーを切り替えるSTUDIO MONITORS、左右に動かすことによってスタジオ内を360度見渡せるSTUDIO ROTATE、スタジオのアンビエンス量を調整するAMBIENCE、全体のレベルを調節するLEVELがあります。

 画面左下はヘッド・トラッキングに関するセクションで、設定やキャリブレート機能などを装備。一方の画面右下は、使用ヘッドフォンに合わせた補正EQプリセットの選択メニューや、バイノーラル効果を計算するために必要な頭部の外周や、左の耳穴から右の耳穴までの半円周を入力するセクションなどが備わっています。

まるでコントロール・ルームにいるかのような音

 NX Germano Studios New Yorkは、基本的にマスターの最終段に挿入して用います。挿入すると、ヘッド・トラッキングに用いるデバイスを接続するためのアプリ、WavesHeadTrackerが自動で立ち上がるので、そこでWebカメラやNX Head Trackerを設定可能です。

 筆者としては、プラグインとは別にWavesHeadTrackerアプリが立ち上がることや、ヘッド・トラッキング用にWebカメラやNX Head Trackerを用いるといったことから、NX Germano Studios New YorkはWAVESのプラグイン群の中でもちょっと変わった製品でとっつきにくいように感じていました。しかし、実際に試してみるとWavesHeadTrackerアプリが立ち上がるところから、ヘッド・トラッキングが始まるところまでがすべて自動で行われて、この使いやすさは老舗ブランドのWAVESならでは!と感動。とっつきにくいという先入観は一瞬で払拭されたのです。

 トラッキングの精度が上がれば上がるほど、よりリアルな使用感を得られるでしょう。先述した通りヘッドフォンに関する詳細設定は画面右下部分で行えますが、ここでは頭部の外周と左の耳穴から右の耳穴までの半円周の距離を、実際に測って入力することをお勧めします。

 またヘッドフォンに合わせた補正EQプリセット数は12種類を搭載。この点においてはもう少し種類があるとうれしいなと思いますが、筆者の場合は手近にあったSENNHEISER HD600が対応していたので、こちらを使用しました。モニター環境の再現度については、筆者はその場に立ったことがないため言及できないものの、別の大規模スタジオにあるコントロール・ルームで作業をしたときの感覚に近いものを感じました。

NX Germano Studios New Yorkが収録するヘッドフォンEQプリセット・メニュー。12種類のヘッドフォン・モデル名が記載されている

NX Germano Studios New Yorkが収録するヘッドフォンEQプリセット・メニュー。12種類のヘッドフォン・モデル名が記載されている

 NX Germano Studios New Yorkは、ヘッド・トラッキングを搭載することによって他社のプラグイン群とは一線を画し、音響特性という点においては非常に便利なツールです。今やラージ・モニターはなかなかお目にかかれないものですし、歴史も実績もあるスタジオのモニター・システムを宅録環境で再現できるのも大きな利点。ヘッドフォンに合わせた補正EQプリセットの数が限られているのは残念ですが、これに合わせて対応ヘッドフォンを新規導入しても“損はしないんじゃないか”と思ったほどです! ぜひ試してください。

 

SUI
【Profile】作曲、トラック・メイクからボーカルのディレクション、ミックス・ダウン、マスタリングまで手掛ける作家/プロデューシング・エンジニア。近年は劇伴やCM音楽にも活躍のフィールドを広げている。

 

WAVES NX Germano Studios New York

26,400円

WAVES NX Germano Studios New York

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14.6/10.15.7/11.6.2/12.1、INTEL Core I5/I7/I9/Xeon/APPLE M1
▪Windows:Windows 10(64ビット版/バージョン2004以上)、Windows 11(Build 22000.194)、INTEL Core I5/I7/I9/XeonもしくはAMDのクアッド・コアCPU
▪共通項目:8GBのRAM、16GB以上のディスク空き容量、解像度1,024×768pix以上のディスプレイ(1,280×1,024または1,600×1,024を推奨)

製品情報

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