「TASCAM US-4X4HR」製品レビュー:音楽配信向き機能が強化された4イン/4アウトのUSBオーディオI/O

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 TASCAMのオーディオ/MIDIインターフェース、USシリーズに、さらにパワーアップしたUS-HRが3機種加わった。マイク入力1系統で2イン/2アウトのUS-1X2HRと、マイク入力2系統で2イン/2アウトのUS-2X2HR。そして、今回チェックするUS-4X4HRは4イン/4アウトで、4系統のマイク・インの使用時もUSBバス・パワー駆動が可能だ。しかもTASCAMが正式に、配信ソフトとしてシェアの高いOBS OBS StudioにMac/Windowsで対応と表明している。詳しくレビューしていこう。

USBバス・パワー駆動でループバック機能も搭載
最高24ビット/192kHzに対応

 従来より配信に特化したオーディオI/OのTASCAM MiniStudioシリーズが好評だったが、昨年から入力数の多いオーディオI/Oを使う配信のニーズが急増。以前のモデルUS-4X4に、新機能を搭載したUS-HRシリーズが発売されたのだ。US-4X4HRは、外形寸法と重量がUS-4X4と同じ。4基のマイクプリ、コンピューターへ伝送前の信号を分岐するダイレクト・モニタリング機能などは引き継いだが、内部はアップデートされている。

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US-HRシリーズは、従来のUSシリーズのデザインを踏襲しつつ、サイドが赤×黒となった

 まずUSB端子はUSB-Cで、USB-A to Cケーブルが付属。USB 2.0 High Speed(480Mbps)によるコンピューターとAPPLE iPad/iPhoneの接続に対応し、コンピューター側がUSB 3.0端子でも動作可能。もし、バスパワー使用時に電源供給に問題があると、フロント左側のファンタム電源インジケーターが点滅する。その場合ファンタム電源を要するコンデンサー・マイクは使えないので、付属のACアダプターを使おう。あるいはUSB-Cからの給電ならば、機種によってコンデンサー・マイクがバス・パワーで使えるので検討したい。

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リア・パネル。左から4系統のライン出力(TRSフォーン)、MIDI IN、OUT、USB-C端子

 本機はUSB Audio Class 2.0に対応しており、MacやiOSではつなぐだけで認識される。最高24ビット/192kHz対応で、DAWでは4イン/4アウトのオーディオ/MIDIインターフェースとして使用可能。筆者のMac環境ではサンプリング・レートが48kHzのときに、バッファー・サイズは最小16サンプルから選択できた。USシリーズ専用ソフトのSettings Panelを使うと、各インプットのダイレクト・モニタリングにおける定位をIN 1-2、IN 3-4それぞれモノラル/ステレオに切り替えできる。

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USシリーズ専用ソフトのSettings Panel。ケーブル類を挿したまま任意のオーディオ入力信号を切ることができる。右側ではループバック先のソフトに対して最適な出力を設定可能

 またWindowsでは自社開発のドライバーにより各種動作が最適化。バッファー・サイズは16サンプル以下も設定が可能だ。これまで同社のSoftware MixerでWindowsのみに提供されたループバック機能が、US-HRシリーズではハードウェアに実装されたので、Mac環境でも別途ソフトを追加せずに使用可能になった。

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Windows上のSettingsPanelではバッファー・サイズ4サンプルが選択可能。CPU負荷は高くなるが、DAWからのソフトウェア・モニタリングの状態でも、ほとんど遅延無くモニターできた

中低域が豊かでSN比の良いマイクプリ
スピード感を保って録れるので後処理しやすい

 実際にAPPLE MacBook Proに接続してみると、パワフルな音色のヘッドフォン出力が印象的だ。テスト環境のmacOS High Sierraでも中低域がしっかりと聴こえる太めな音。インピーダンスが300Ωのヘッドフォンはもちろん、470Ωの機種でも余裕を持って駆動できた。USBバス・パワーでも音色の変化がほとんど無い。また、今回USBバス・パワーに対応したことで、消費電力がUS-4X4と比べて5Wから2.25Wと省電力化を達成している。ACアダプター使用時はスタンドアローンでも使えるので、キーボードなどの音を出すのにコンピューターの立ち上がりを待つ必要が無い。

 

 マイク入力のSN比が、101dBから110dBへ大幅に向上しているのも見逃せない。まずSHURE SM57で声を録音してみると、ゲインを大幅に上げた状態でもヒス・ノイズが気にならない。マイクプリの規定入力レベルは−7dBuでゲイン幅は56dBもあるので、感度が低いリボン・マイクでもしっかりと対応できた。録り音も中低域が充実しているロック寄りの音色で、雰囲気良くまとまってくれるのがよい。ペンシル型コンデンサー・マイクでアコギを録音しても、SN比が良いので安っぽくならない。ラージ・ダイアフラムのコンデンサー・マイクで声を録音した際には、不快な超低域を拾わずに太めな仕上がりになるのが使いやすい。192kHzでの録音ではこれに高域の伸びが加わるが、決して細くならないのがうれしい。さすがに最近の機種は、低価格帯でもハイレートにしっかりとアジャストされているなという印象を持った。

 

 対照的にライン入力は、シャープな音色。リズム・マシンやシンセ音源のスピード感を保って録れて、後処理がしやすい。INST入力はパッシブのエレキギターでも程良い高域が得られる上に中域も充実しておりロックなサウンドに合う。Windows 10やiPadにもつないだが同様の音色傾向だった。

 

 最後にOBS Studioを使って配信を録画してみた。DAWの簡単なステレオ・トラックに合わせてナレーションやカメラ映像、写真をレイアウトして動画にしてみたところ、OBS Studio上での声の定位をSettings Panelでモノラルにできるため、問題無く作業できた。なおUS-HRシリーズでは、スタンドアローン・モードは最後に設定されていた状態を保持するなど、従来とは仕様が異なる部分もある。詳細は説明書を見比べていただきたい。

 

 US-HRシリーズのドライバーは随時更新されるそうで、執筆時にはレイテンシー3msの動作も確認されているそうだ。ドライバーの改良で今後どう進化するのか楽しみである。

 

原口宏
【Profile】ムーンライダーズ、細野晴臣、忌野清志郎らを手掛けてきたエンジニア。TASCAMにはTEAC 144やMS-16からお世話になってきた世代。執筆時はムーンライダーズのライブ・ミックス中。

 

TASCAM US-4X4HR

オープン・プライス

(市場予想価格:26,800円前後)

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SPECIFICATIONS
▪ビット/サンプリング・レート:24ビット/44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz ▪入力インピーダンス:2.2kΩ(マイク)、1MΩ以上(INST)、10kΩ(ライン) ▪周波数特性:20Hz~20kHz(44.1/48kHz)、20Hz~40kHz(88.2/96kHz) ▪SN比:110dB(マイク入力/ライン出力)、108dB(ライン入力) ▪消費電力:2.25W ▪外径寸法:296(W)×65(H)×160(D)mm ▪重量:1.6kg ▪付属品:ACアダプター、USBケーブル

REQUIREMENTS
▪対応コンピューター:USB2.0を装備 ▪CPU:クロック:2GHz以上 ▪メモリー:2GB以上 ▪ドライバー:Core Audio(Mac/iOS/iPadOS)、Core MIDI(Mac)、ASIO2.0、WDM、MIDI(Windows)

 

製品情報

tascam.jp

 

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