SE ELECTRONICSの真空管マイクを追え 〜創業者シウェイ・ゾウに聞くマイク作りの理念とは?

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2000年に創業し、自社工場でのハンド・メイドにこだわった製品を手掛けているSE ELECTRONICS。高いコスト・パフォーマンスと確かな実力で、幅広いユーザーから人気を博している。多岐にわたるマイクのラインナップで、フラッグシップ機として存在感を放つのが真空管マイクのRNT。今回は同じく真空管マイクのGemini IIとZ5600A IIとともに、その実力に迫っていく。

Photo:Hiroki Obara(メイン)

Interview
シウェイ・ゾウ[Siwei Zou|President of SE ELECTRONICS]

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 SE ELECTRONICSの創業者かつ会長であるシウェイ・ゾウ氏にメール・インタビューを敢行し、どのような理念で真空管マイクを作っているかに迫ろう。氏がマイクを作ろうとした理由から、多様なラインナップに対しての思い、そしてルパート・ニーヴ氏とのコラボレーション・モデルの開発などについても伺った。SE ELECTRONICS製マイクの購入を検討している方をはじめ、既に愛好している方にもぜひシウェイ氏のマイクに対する情熱を感じてほしい。

 

OMEではクオリティに満足できず
自社工場を構えて理想のマイクを実現した

まずはSE ELECTRONICSの設立経緯を知りたいと思っています。もともとシウェイさんはクラシック音楽家であり、オーケストラの録音のためにマイクを手掛けるようになったと聞きました。既存の製品ではなく、何を求めてマイクの事業を手掛けるようになったのですか?ーまずはSE ELECTRONICSの設立経緯を知りたいと思っています。もともとシウェイさんはクラシック音楽家であり、オーケストラの録音のためにマイクを手掛けるようになったと聞きました。既存の製品ではなく、何を求めてマイクの事業を手掛けるようになったのですか?

シウェイ・ゾウ(以下シウェイ) おっしゃる通り私は作曲家や指揮者をしていて、音楽の制作やレコーディングに携わる機会が多くありました。まだそのころマイクは気軽に入手できる価格帯のモデルが少なく、特にコンデンサー・マイクは非常に高価でした。私はそこにビジネス・チャンスと情熱を見出して、20年以上に及ぶ起業家としてのエキサイティングな旅に出たのです。

 

SE ELECTRONICSの“SE”は何の略称なのですか?

シウェイ サウンド・エンジニアリングの略称です。

 

SE ELECTRONICSのマイクは、どのようなサウンドを目指しているのでしょうか?

シウェイ 私たちは楽器と同じような発想で、マイクの開発を進めているんです。さまざまな楽器が個性的なサウンドを奏でているのと同じように、マイクも独自の特性と音色を持っています。マイクはただの冷たい道具ではない、というふうに考えているんです。

 

自社工場で製造するメリットを教えてください。

シウェイ 当時はマイクをOEMで作れる工場がたくさんありましたので、楽な道を歩むのであれば発注する選択肢もありました。でも私の中にある良いマイクの基準や期待を満たせるマイクをどこも作れなかったんです。だから自分が理想とするクオリティのマイクを生産するべく、自社工場を設立しました。簡単な道のりではありませんでしたが、一度も後悔したことはありません。

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ワッシャーに穴を開けるところから自社工場で行っている。左右には作業済みのワッシャーが重ねられているのが確認できる

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カプセル組み立ての様子。大量のネジが手元にセッティングされていて、組み上がったカプセルは奥に整列している

真空管マイクのRNTやGemini II、Z5600A IIといったハイグレードなモデルがある一方で、SE2200のような低価格のコンデンサー・マイクもあります。これらにはどのような差があるのでしょうか? また、どのような点が同じなのでしょう?

シウェイ SE ELECTRONICSは経験豊富なプロフェッショナルだけでなく、自宅で制作を行う若いミュージシャンやミュージシャン志望者のためにも、常に高品質な製品を製造するよう努めてきました。さまざまな予算に対応できるようラインナップをそろえていますが、すべての製品に共通しているのは、同じように高い品質基準を持っていること。今日の市場において、SE ELECTRONICSは最高のコスト・パフォーマンスを提供しているという評判をいただいていて、それを強く誇りに思っているんです。もちろんフラッグシップ・モデルのRNTやGemini II、あるいは少し安価なZ5600A IIに搭載されている技術は、SE2200などの手ごろな価格帯の製品よりもはるかに洗練されています。しかし、そのような理由だけで低価格帯のマイクを過小評価しないでください。実際にエイミー・ワインハウスのようなスターは、オリジナルのSE2200で収録した作品でグラミー賞を獲得したこともあるのです。

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カーディオイドのコンデンサー・マイクSE2200。PAD(−10/−20dB)とローカット・フィルター(80/160Hz)を備える。SE ELECTRONICSのロングセラーだ

真空管マイクRNTはルパート・ニーヴ氏と
SE ELECTRONICSが持つ専門知識の結晶

RUPERT NEVE DESIGNSとのコラボレーションが始まった経緯を教えてください

シウェイ 私の良き友人であり、専門家として非常に尊敬するルパート・ニーヴ氏は、これ以上紹介する必要の無いレジェンドです。映画監督デズモンド・レスリー氏のために最初のコンソールを作ったことから、NEVEやFOCUSRITEの設立、AMEKコンソールへのコンサルティング、TAYLOR GUITARSのESピックアップ・システムとK4プリアンプの設計など、彼が手掛けた製品はさまざまで、非常に充実したキャリアを歩んできました。しかし、そんな彼が行っていなかったことの一つにマイクの設計があります。私はたまたま適切なタイミングで適切な場所に居たので、それがきっかけで一緒にマイクを企画し始めることができたのです。

 

RNTは、どのように開発されたのですか?

シウェイ 私とルパート・ニーヴ氏が5年もの歳月をかけた、非常に長期にわたるプロジェクトでした。その間にリボン・マイクのRNR1とスモール・ダイアフラム搭載のコンデンサー・マイクRN17も発表しています。この世界最高峰の真空管マイクは、ルパート・ニーヴ氏の生涯で得た経験と、SE ELECTRONICSのエンジニアリング・チームが持つカプセルの専門知識の結晶です。

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アクティブ・リボン・マイクのRNR1。開発チームはRNR1を特別な存在とするべく、手に入るすべての素材でリボンの試作モデルを作ったという

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スモール・ダイアフラム搭載のコンデンサー・マイクRN17を持つルパート・ニーヴ氏と、シウェイ・ゾウ氏。ニーヴ氏の右手に収まっているボディ部分には、ニーヴ氏がRN17のために開発したカスタム・トランスが内蔵されている。ペンシル型マイクの異端とも言える一本だ

アーティストが思い描くサウンドを
忠実に再現するのが良いマイクだと思う

マイクだけではなく、Reflextion Filterなどのアクセサリーも日本では人気があります。Reflextion Filterはどういった経緯で開発されたのでしょうか?

シウェイ 手に入りやすいマイク、高品質なオーディオI/O、そして進化したDAWのおかげで、レコーディング・スタジオへ行かずともプライベート・スタジオで高品位なレコーディングが行えるようになりました。レコーディングやミックスのために完ぺきな環境を持つ人も居ますが、大多数は寝室や地下室、オフィスでの昼休みにレコーディングをしています。想像できると思いますが、これらのスペースのほとんどは適切なルーム・チューニングが施されていません。そこで私は、そのような環境で初期反射をマイクに干渉させない方法を考え始めました。そうしてReflexion Filterは生まれたのです。今やReflexion Filterはポピュラーな名称になっていますが、SE ELECTRONICSの商標なんです。

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Reflexion Filterも自社工場内で組み立てられている

最後に、シウェイさんが考える良いマイクとは?

シウェイ アーティストが思い描いている音を可能な限りベストな方法でとらえ、忠実に再現するマイクです。多くの人にとって私たちのマイクがそうであることを願っています。

 

SE ELECTRONICS 製品情報

hookup.co.jp

www.digimart.net

 

製品レポート「SE ELECTRONICSの真空管マイクを追え」

www.snrec.jp

 

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