「PELUSO P-280」製品レビュー:真空管/FETコンビネーション・アンプを採用したコンデンサー・マイク

PELUSOが新たに発売するマイク「P-280」

 PELUSOは、ビンテージ・マイクのリペアで長年の実績があるジョン・ペルーソ氏が2002年にアメリカのバージニア州で立ち上げたマイクロフォン・メーカー。筆者はNEUMANN U47やU67にインスパイアされた2247SEやP-67を何度か使用したが、なかなか優秀だったと記憶している。そのPELUSOから、真空管とFETのコンビネーション・アンプ・ステージを採用した新開発のマイクロフォンP-280が届いた。早速スタジオで試してみよう。

34mm径の金蒸着ダイアフラム
無指向性から双指向性まで9段階で切り替え可能

 P-280は、アルミニウム外装のフライト・ケースに収められている。中には、本体を収納する豪華な木製ケースのほか、PELUSOと刻印された8ピンのマイク・ケーブルや電源ケーブル、ショック・マウント、セッティングの自由度を上げるハード・マウント、パワー・サプライ、そして“丁寧に扱いなさいよ!”と言わんばかりに綿の白手袋などを同梱する。

アルミニウム外装のフライトケースの中には、木製のケースに入ったP-280 本体、PELUSOの刻印入りの8ピン・マイク・ケーブル、電源ケーブル、ショック・マウント、ハード・マウント、パワー・サプライ、PELUSOのロゴ入りポーチ、綿の白手袋が入っている

アルミニウム外装のフライトケースの中には、木製のケースに入ったP-280本体、PELUSOの刻印入りの8ピン・マイク・ケーブル、電源ケーブル、ショック・マウント、ハード・マウント、パワー・サプライ、PELUSOのロゴ入りポーチ、綿の白手袋が入っている

 P-280はU47を二回り程小さくしたサイズ感で、ボディは重厚感がある真ちゅう製のブラックのマット塗装。

本体は真ちゅう製で、ブラックのマットな塗装が施されている。真空管とFETのコンビネーション・アンプ・ステージを採用。PELUSOのロゴが入った面が正面となっている

本体は真ちゅう製で、ブラックのマットな塗装が施されている。真空管とFETのコンビネーション・アンプ・ステージを採用。PELUSOのロゴが入った面が正面となっている

 ダイアフラムは34mm径の金蒸着、最大音圧レベルは149dBで、真空管はPELUSOによって選別されたGEの5654W。内部基盤の設計もとても奇麗で、フィルム・コンデンサーには音質で定評のあるWIMA製、TDKEPC(EPCOS)製など細部にわたって厳選された部品が使われ、PELUSOのポリシーを感じる。パワー・サプライMX-56は、オールドNEUMANNの電源ボックスのような外見でビンテージ感を醸し出す。

 

パワー・サプライMX-56には、無指向から双指向まで、9段階で指向性を切り替えられるスイッチを搭載。裏面には、電圧の切り替えスイッチと電源オン/オフ・スイッチを備える

パワー・サプライMX-56には、無指向から双指向まで、9段階で指向性を切り替えられるスイッチを搭載。裏面には、電圧の切り替えスイッチと電源オン/オフ・スイッチを備える

 電源のオン/オフ・スイッチ、115/230V切り替えスイッチ、そして無指向性から双指向性まで9段階で切り替えられるスイッチを搭載。パワー・サプライ側で指向性が切り替えられる機能は、現場ではとても便利である。このスイッチも適度なトルクがあり、スイッチ類の“ 感触”が大切であることをよく理解した作りに感心した。

中低域の倍音表現を得意とする滑らかな音
大音量でも余裕感のあるSN比の良さ

 では、実際に音を聴いてみよう。セッティングをお願いしたアシスタントから、“正面(指向面)はどっちですか?”と。確かにボディには正面を示すマーキングが無い。声で試してみると、下に“Peluso”と刻印のある方が正面だった。付属のサスペンションは剛性感が高く、外部からの振動を確実に吸収してくれそうだ。角度を調整するノブも大きく、細かい調整も可能でとてもセッティングしやすい。

 

 まずは中低域が魅力の男性ボーカリストでのテストである。第一印象は、とてもクリアで伸びやかな音色。若干、中高域がキツく感じられる一面もあるが、それはこの個体が新品であるからだろう。パワーはあまり感じられないが、その歌声は滑らか。積極的に前に踏み出すボーカルは、どの音域にもこもりやにじみが無く、すっきりとした抜けの良さを感じる。倍音成分の多いバック・トラックの中でも埋もれることは無く、オケの中でしっかりとした立ち位置を表現。力強いフェイクでもひずまずに表現される。

 

 続いてアルト・サックス。これもとてもクリアな印象だ。そして、レスポンスがとても良い。若干の腰高感はあるものの、オケの中での存在感は十分。楽器数の多いバック・トラックでもスッと浮き立つような音像定位が得られる。ブロウ奏法でも音がつぶれる印象は一切なく、余裕すら感じる。これは、真空管とFETのコンビネーション・アンプの恩恵なのだろうか。

 

 次は、バイオリンのソロ・パート。弦を擦る音、タップする音、ピチカート……どれもバランス良くスムーズ。若干倍音が少ない印象を受けたが、肌触りが自然な音調で、前にしっかりと定位する印象は同様である。同時にチェロのソロ・パートでも試してみたが、こちらはしっかりとした倍音が感じられた。どうやら、中低域にまとわりつくような倍音表現を得意とするようで、音の鳴りが生き生きとしている。低域が膨らむこともなく、オケの中に奇麗に収まった。ここで指向性を無指向性にしたところ、実音と部屋に拡散された響きが奇麗に入ってきて、ゆったりと安定した印象のチェロの音になった。

 

 電源を入れてヒーティングを済ませ、ゲインを上げたときに感じたのはSN比の良さ。ノイズ・フロアが明らかに低く、大音量でも余裕感があり、音の天井が詰まる感じが無い。ここに真空管とFETのコンビネーション・アンプ・ステージの実力を感じた。

 

 P-280は“どのマイクの音に似ているか?”と問われると、どれでもない……としか答えられない。PELUSOと言えば、過去の数々の名機からインスパイアされたレジェンダリーな音作りのマイク・ブランドというイメージだったが、P-280には独自の音を感じる。録音機器の性能が上がり、音の表現のち密さが格段に上がっている昨今、いわゆるビンテージ・マイクでは何かもの足り無さを感じるときがある。これは、ビンテージ・マイクを絶妙にリイシューしたマイクも同様。そういったときに、このような独自の音を持つマイクで収録してみるとオケの中でのポジションが作りやすいという場面がたびたびある。

 

 P-280は味や個性はあまり感じないものの、現代の音にしっかりと対応してくれるマイクではないだろうか。それは、数々の名機の音を存分に理解しているPELUSOの集大成の音作りなのかもと想像した。いろいろなシーンで、そして長い時間をかけて付き合ってみたいマイクロフォンだと感じた。

 

山内"Dr."隆義
【Profile】井上鑑氏や本間昭光氏、服部隆之氏らがプロデュース/編曲する作品に従事し、長きにわたりJポップを支えるレコーディング・エンジニア。近年はその経験を生かした80’sサウンドに傾倒中。

 

PELUSO P-280

238,000円

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SPECIFICATIONS 
▪形式:コンデンサー ▪カプセル:34mm径 ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪指向性:無指向性から双指向性 まで9段階で切り替え可能 ▪出力感度:27mV/Pa ▪出力インピーダンス:200Ω ▪最大SPL:149dB ▪等価ノイズ・レベル:6dB ▪真空管:5654W(EF95) ▪電源:専用パワー・サプライ(115/230V AC) ▪外径寸法:51(φ)×205(H) mm ▪重量:640 g ▪付属品;マイク用木製ボックス、8ピン・マイク・ケーブル、パワー・サプライ、ショック・マウント、ハード・マウント、フライト・ケース、ポーチ、手袋

 

P-280の製品情報

 

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