
1980年代半ばまで生産されていた
スタジオ定番の一つを機能も含めて再現
まず、NEUMANN U87Iとはどんなマイクなのだろうか。U47、M49と受け継がれてきたNEUMANNのラージ・ダイアフラム真空管コンデンサー・マイク・ラインは、1960年、U67の登場をもって一つの完成形を見る。しかし真空管からトランジスターへという時代の流れには逆らえず、1967年、U67のソリッド・ステート•バージョンとして、後継機U87が発売。マルチパターン•ラージ・ダイアフラム、音響特性に優れたデザイン、−10dB PADなどの基本性能はそのまま踏襲しつつ、FET(電界効果トランジスター)化するにあたり内部は大きく変化している。このU87は当初の7ピン仕様からXLR端子に置き換わったU87Iとなり、約20年間製造。1986年には感度向上などの目的から中身をモディファイしたU87AIへ進化し、30年たった現在でも販売されている。U87AIはNEUMANNらしいしっかりとした中域の表現力と、低域から高域まで素直で脚色の少ないその周波数特性を持ち、ハイプレッシャーにも強いその性能ゆえ“迷ったらU87!”と言われるくらいどんな音源にも使える万能なマイク。ボーカル、ピアノ、ストリングス、木管、金管、パーカッション、アコースティック・ギター、エレキギター、各種ルーム・マイク……と枚挙にいとまが無い。
実はU87IとU87AIでは音色キャラクターが若干違う。U87AIの方がよりレスポンス良く張りがあり、やや硬めのはっきりした音色傾向にある。そのため、録音現場でも“別物”として使い分けられていることが多い。今回のP-87は、30年前に生産終了となった柔らかい音色を持つU87Iを元にしているのだ。
P-87はPELUSOらしくシルバー一色のボディで、墨入れの無い刻印だけのシンプルなデザインを採用。筐体はU87より28mmほど長く、下部が少し細くなっている。3段階の指向性切り換え、−10dB PAD、ハイパス・フィルターのスイッチはオリジナルと同じ位置に配置。各スイッチの精度も高く、持った感じもずっしりとしており、作りの良さがうかがえる。
明るく張りのある音色だが硬くなく
どんな音源でも間違いの無い万能マイク
実際の音色チェックに移ろう。FOCUSRITE ISA 430MKIIのマイクプリを使い、アコースティック・ギターに立ててみると、パッと聴いただけでその明りょう度の高さに驚かされる。とても明るく張りがある音色なのだが、硬いわけではない。低域から高域までストレス無くすっと抜けていく。ギターの音をナチュラルに、かなりリアルにとらえている印象だ。細かく分析してみると、低域は150Hz辺りにやや膨らみを持つものの、200〜300Hz辺りを上手にまとめている。そのためブーミーな感じやもたついた感じも無く、太さや豊かさが表現されている。その上の500Hz辺りにもわずかな張り出しがあり、音源の持つキャラクター表現に一役買っているように思う。中域は1.5kHzという“芯”の部分がしっかりしており、音像のフォーカスが定まる。高域は5kHz、10kHz辺りの主張はあるのだが、7kHz近辺の収まりの良さのおかげでチリチリした感じがなく、素直で伸びやかな明るさとして表現されている。トランジスターらしい反応のシャープさも見受けられ、“抜けはいいけれど硬くない”という理想的な音色傾向だ。
続いて男性ボーカルで試してみる。アコースティック・ギターと同様、明るくクリアな音。中域がしっかりしているので声が聴き取りやすく、しっかりと音像が前に来る。ギラツキは少なく、子音などもそれほど目立たない。近接効果のコントロールもしやすく、少しだけマイクに近付いて太めに録るということも可能だ。
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こうした音色傾向と扱いやすさから、やはりU87Iと同様、どんな音源に立てても間違いは無い万能マイクと言えるだろう。“ナチュラルで抜けが良い”と言うのは簡単だが、P-87にはそう聴かせるために相当の工夫と作り込みが成されていることは想像にかたくない。明りょう度の高さと、硬くない(=柔らかい)という両面を併せ持っていることが、P-87の最大の特徴であろう。


製品サイト:https://www.electori.co.jp/peluso/p-87.html
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年6月号より)