「WESAUDIO NGBusComp」製品レビュー:プラグインでコントロール/リコール可能なアナログのVCAバス・コンプ

WESAUDIOから発売されたコンプレッサー「NGBusComp」

 WESAUDIOのバス・コンプというと、SSLのバス・コンプをリクリエイトした_Dioneが多くのユーザーから高い評価を受けていますね。今回レビューするNGBusCompは、VCAを4基パラレルで使ってマスタリング・グレードのスペックを実現する、高音質なバス・コンプとなっています。コンピューター(Mac/Windows)とUSBまたはイーサーネットで接続して、無償の専用プラグイン(AAX/AU/VST)からコントロールやリコールが行えることも大きな特徴です。

色を付けるTHDノブとCARNHILL製トランス
パラレル・コンプレッション用のミックス機能を実装

 まずは外観から見ていきましょう。黒をベースにした精かんな面構えで、SSLのバス・コンプに似たリダクション・メーターに安心感を覚えます。操作子のレイアウトに余裕があり、直感的な操作が行えそうです。ノブの回し心地は、プラグインのためのエンコーダーも兼ねているためか若干軽め。ですが、慣れてしまえば気になるほどではありません。

 

 スレッショルド、アタック・タイム、リリース・タイム、レシオ、メイクアップ・ゲインといった一般的なコンプのパラメーターに加えて、パラレル・コンプレッション用のMIX、倍音を付加するTHD、サイド・チェイン・フィルターといった機能も搭載。出力段にはCARNHILL製トランスフォーマーを搭載し、電子バランス出力とトランス・バランス出力を選択可能です。IRONスイッチを入れると出力部がトランス・バランスへ変更されます。MAKE UPノブでトランスへの入力レベルをコントロールし、IRON PADノブでトランス後段のパッシブ・アッテネーターを調節です。ほかにはチャンネル・リンクのオン/オフや、デュアル・モノ/ステレオ/M/Sの切り替え、3種類のプリセット(A/B/C)など、プラグインに搭載されているような便利な機能を使うこともできます。

各チャンネルには︎スレッショルド、アタック・タイム、リリース・タイム、メイクアップ・ゲインといったコンプの基本的なパラメーターをはじめ、倍音を付加するTHD、原音とエフェクト音をブレンドするMIX、出力部を電子バランスからトランスフォーマー・バランスに切り替えるIRONモードも備える。音色は3つ保存可能

各チャンネルには︎スレッショルド、アタック・タイム、リリース・タイム、メイクアップ・ゲインといったコンプの基本的なパラメーターをはじめ、倍音を付加するTHD、原音とエフェクト音をブレンドするMIX、出力部を電子バランスからトランスフォーマー・バランスに切り替えるIRONモードも備える。音色は3つ保存可能

リア・パネル左側にはコンピューターと接続するためのUSBとイーサーネット端子が用意されている。右側にはアナログ入出力L/R(XLR)に加え、サイド・チェイン入力L/R(TRSフォーン)もスタンバイ

リア・パネル左側にはコンピューターと接続するためのUSBとイーサーネット端子が用意されている。右側にはアナログ入出力L/R(XLR)に加え、サイド・チェイン入力L/R(TRSフォーン)もスタンバイ

 専用プラグインは同社Webサイトからダウンロード可能。プラグインをDAWに立ち上げたら、NGBusCompとコンピューター(Mac/Windows)をUSB接続するだけで使えます。非常に簡単ですね。イーサーネット接続にも対応しており、Wi-Fi経由のコントロールも可能です。

遠隔操作用のNGBusCompプラグイン。Mac/Windowsに対応し、AAX/AU/VSTに準拠する

遠隔操作用のNGBusCompプラグイン。Mac/Windowsに対応し、AAX/AU/VSTに準拠する

滑らかな効き具合でハイファイかつ濃い音色
深くかけても音が引っ込まずグルー効果も十分

 それでは実際のマスタリング作業で、音質や専用プラグインの使用感をチェックしていきましょう。使用するDAWはSTEINBERG WaveLab 10です。

 

 まずは専用プラグインからデフォルトの設定をリコール。ハイファイでSN比が良く、現代的なサウンドが耳に飛び込んできました。深めにゲイン・リダクションしても音が引っ込むことはなく、音の密度が上がって中高域に張りが出ます。バス・コンプとしてのグルー効果も十分で、ミックス全体にまとまりと明りょうさを与えることができました。SSLのバス・コンプと比べるとコンプレッションが滑らかで、ハイファイかつ濃密な音色。SSLのバス・コンプに触れたことがある方なら違和感無く音作りが行えると思います。

 

 IRONスイッチを入れると、重量感のある引き締まった中低域が得られました。トランス出力は一般的なトランスと同じく主に中低域の倍音が豊かになる一方、THD機能は全帯域に倍音が加わります。幅広く音作りが行えますね。

 

 高級感のあるサウンドの要因を探るべく、NGBusCompの残留ノイズを簡易的に測定。すると、ほぼ全可聴帯域において−120dB以下にノイズが抑えられていて、マスタリング・グレードの高品位な設計であることを数値でも確認できました。

 

 専用プラグインは実機とほぼ同じグラフィカル・ユーザー・インターフェースとなっていて、プラグイン内のノブと本体の操作子が連動します。パラメーター変更のレスポンスは良好。プラグインではパラメーターの数値が表示されるため、日ごろプラグインに慣れているユーザーは、プラグインで操作した方が快適かもしれません。

 

 幾つかのパラメーターは、変更時に小さな音切れが発生しました。筆者が使った限りでは、バイパスとIRONのボタン、リリースとIRON PAD、THDのノブで確認できました。NGBusCompをDAWからオートメーションすることを考えているユーザーは、これを考慮する必要があるでしょう。

 

 やはり特筆すべきポイントは、リコーラブルなアナログ・コンプレッサーであるという点です。WaveLab 10のマスター・セクション・プリセットを保存しておけば、後でロードするだけで専用プラグインの設定が呼び出され、同時にNGBusComp本体の設定もリコールされます。昨今の制作現場ではリコール機能は必須となっていますが、DAWプロジェクトから瞬時に設定を呼び出せるアナログ・ハードウェアは多くありません。この機能はミキシングやマスタリングにとどまらず、ツアーPAの現場でも重宝されると思います。

 

中村フミト
【Profile】Endhits Studioを拠点に録音からミックス、マスタリングまでを手掛けるエンジニア。直近では、にしな、GOOD BYE APRIL、DEAN FUJIOKA、一寸先闇バンド、杏沙子らの作品に携わる。

 

WESAUDIO NGBusComp

362,000円

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SPECIFICATIONS
▪周波数特性:0Hz~300kHz ▪THD+N:0dBu<0.006%(20Hz〜20kHz) ▪インピーダンス:10kΩ以上(入力)、50Ω以下(出力) ▪ダイナミック・レンジ:120dB以上 ▪外形寸法:480(W)×135(H)×252(D)mm(実寸値) ▪重量:7.8kg(実寸値)

REQUREMENTS
▪Mac:OS X 10.9以降、INTEL製デュアル・コア以上のプロセッサー、4GB以上のRAM ▪Windows:7以上、INTEL製もしくはAMDのデュアル・コア以上のプロセッサー、4GB以上のRAM

 

WESAUDIO NGBusComp 製品情報

 

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