C12のカプセルや回路の設計を踏襲
９種類から選択できる指向性
P-12は大きめのフライト・ケースに収納されています。ふたを開けると、マイク本体を収めた木製ケース、パワー・サプライのMX-56、専用８ピン・ケーブル、ショック・マウントが奇麗に並んでいて、必要なものを一式まとめて持ち運べるようになっています。マイク本体はシルバーを基調とし、メーカー・ロゴなどが薄く刻印されているだけの非常にシンプルなデザインで、余計な装飾を施していないのが好印象。サイズは45（φ）×240（H）mmとなっており、C12をほんの少し太く、短くした感じです。
ちなみに、C12は1953年から1963年までの10年間で数千本しか生産されておらず、非常にレアなビンテージ・マイクです。カプセルの構造に特徴があり、同じく人気のビンテージ・マイクであるNEUMANN U47などではダイアフラムのフロントとリアに電圧を与えるケーブルがダイアフラム中央にネジ止めで結線されているのに対し、C12ではカプセルの側面から結線されています。この構造により、エネルギッシュな感じや押し出し感といったものはやや弱まるものの、周波数特性がフラットかつワイド・レンジになります。P-12はこの構造を踏襲。表面に金を蒸着させた34mm径のダイアフラムの素材にも、オリジナルと同様にマイラーを採用しています。ほかにも三極真空管の6072Aを使用している点や、回路やトランスの設計、パワー・サプライに備わったツマミで感度を変えることなく指向性を無指向から双指向まで９段階で変更できるところもC12に倣っています。
飽和感や倍音が控えめで
ワイド・レンジかつ素直なサウンド
それでは、肝心の音を聴いてみましょう。マイクプリはNEVE 1073を使用し、比較対象としてAKG C12を３本と、カプセルを２つ備えたC12のステレオ・バージョンであるC24を用意しました。P-12を含め、出力レベルはすべてのマイクでほぼ同じです。
まずは単一指向性に設定して男性ボーカルに使用したところ、レンジの広さがありつつも、明るめで音像が程良く前に出てきました。高域には多少硬さがありますが、ヌケがよくクリア。低域はローエンドまでしっかりと伸びているものの、ダブつきは一切ありません。もう少しだけファットさが欲しかったので、1073のEQで110Hzを少し上げると良い感じになりました。そのほか、声を張り上げたときなどの飽和感が薄く、その辺りは現代的な音という印象です。
次に、単一指向性でアコースティック・ギターを録ってみました。トランジェント特性が良く明りょうなサウンドなので、ストローク／アルペジオ共に音数が多い曲の中でも分離良く聴こえます。低音弦から高音弦までバラつきなく収められますが、ほかの楽器との兼ね合いを考えると少し前に出過ぎているようにも感じたので、パワー・サプライの指向性ツマミを１つだけ双指向性側に動かしてみることに。するとEQでカットするのとは違った感じで自然に中域が下がり、一歩奥の方で聴こえるようなりました。
P-12は指向性の設定にかかわらず基本的に素直なキャラクターなので、ミックスでさらに追い込むときにはEQやコンプで調整しやすいサウンドです。この質感なら、ピアノやストリングスといった高域を素直に伸ばしたい楽器にも合うでしょう。モデルとなったC12は、ワイド・レンジながらも真空管による倍音が多く力強い印象ですが、P-12は周波数特性を似せつつも、飽和感や倍音感を若干抑えて今風にクリアにしていると言えます。
今回のテストでソースにしたボーカルやアコギは、レコーディング・スタジオだけでなく自宅で録る機会も多いパートだと思います。特にボーカルは自分に合ったマイクで歌うということがパフォーマンスに大きく影響するので、可能であればいろいろなマイクにトライするべきです。P-12はC12の良いところを継承しつつ、現代的なエッセンスも付加されているので、C12のサウンドに興味があるという方だけでなく、多くの方に試していただきたいと思います。
（サウンド＆レコーディング・マガジン 2014年10月号より）
