
用途に合わせて取り替え可能な
指向性カプセルを付属
NEUMANNのマイクと言えば、ラージ・ダイアフラムの数々をイメージしがちだが、KM84は、20mmのスモール・ダイアフラムを有し、直径21mm、全長100mm、80gという非常にコンパクトなスタイル。1966年、世界初の“48Vファンタム電源駆動”という機能を持って発売され、1992年まで生産されたマイクである。レコーディング現場ではドラムのトップ、ハイハットなどの金物、アコースティック・ギターなどに使用されることが多い。同様の用途に使用するマイクとしてはAKG C451が挙がるが、キラキラしたキャラクターのC451に対し、KM84は特有の“中域の押しの強さ”が特徴なので、個人的には“キラッとしながらもより芯のあるしっかりした音”にしたい場合にチョイスしている。
P-84に目を移そう。こちらもダイアフラムは20mm。筐体は直径22mm、全長124mm、130gとKM84よりひと回り大きい。楕円のスリットがカプセルを取り囲むデザインが特徴的で、大きめに刻印された指向性マーク、ブランド・ロゴ、モデル名は墨入れされており、これまで発表してきたラージ・ダイアフラム系のPELUSOが持つ極めてシンプルなたたずまいとは一線を画している。
KM84には-10dBのPADスイッチがあるのだが、P-84には存在しない。SPL=142dBというカタログ値に偽りのない自信の表れであろう。同梱品として、木製マイク・ケース、デザイン構造共オリジナルそっくりに作られたショック・マウント、簡易的に使えるハード・マウントが用意され、単一指向に加えて木製ケースに入った無指向性のカプセルが付属する。マイク下部のアンプ部分はそのまま、先端のカプセルを取り替えることで指向性が変えられるので、さまざまな音源によりフレキシブルにアプローチできるのはありがたい。
ハイエンドまで伸びて
自然にロールオフしている印象
実際の音色チェックに移ろう。FOCUSRITE ISA430 MKIIのマイクプリを使い、アコースティック・ギターに立ててみる。まず気付かされるのが振る舞いの優しいハイエンドと、しっかりした中域。ギラツキの少ない高域は耳に優しく、ハイエンドまで伸びて、自然にロールオフしている印象だ。1.5kHz辺りの中域の芯がしっかりしており、KM84の音色と近いものを感じた。低域はスモール・ダイアフラム・マイクらしい挙動で、嫌なダブつきは無く、かといって物足りなさも感じないという上手な処理となっている。以上のような傾向からパッと聴きは若干おとなしい印象を抱くかもしれないが、過度な脚色を少なくし、元となるマイクにできるだけ近いナチュラルな音色を得ようとする姿勢は、PELUSO製品全般に言えることであり、同社の目指すところなのであろう。また、よりきらびやかさを求める意図から、EQで10kHz辺りからシェルビングで1dBほどブーストして聴いてみたところ、スムーズに引っかかり、ギラつくことなくより明りょう度も上がった。このように、EQフォローに対する反応の良さも、そのマイクの重要な基本性能の一部と言える。
次にカプセルを替え無指向にし、ややオフめに立てて聴いてみる。低域成分が若干削られ、より中域に寄るのは無指向全般に見られる傾向。とはいえ単一指向のときに感じたナチュラルさは十分に残っており、嫌味なピークなどが無いので、オフマイクとしても十分使える。
これらのことからP-84も、“オリジナル”のKM84同様、シンバル類の金物、アコースティック・ギターはもちろん、ウクレレ、マンドリンなどのややピーキーな弦楽器にも相性が良いと思う。特にもともとの楽器が持つ音がきらびやか過ぎてどちらかと言うとやや細く、オケに入った際になかなか前に出しづらいときなどは、P-48の持つ中域のおかげで音の芯が出て音像が明確になることを期待できる。エレアコを生で録ると細くシャリシャリしてしまう……などというときはもってこいなマイクだろう。また、ステレオ・マッチングを施した製品として、P-84 Doubleもラインナップされている。

製品サイト:https://www.electori.co.jp/peluso/p-84.html
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年10月号より)