スペインを拠点にするHERITAGE AUDIO。ブリティッシュ・サウンドを連想させるビジュアルのアウトボードやモニター・コントローラーを手掛けているメーカーだ。数々のブランドから名機の再現を狙ったモデルが登場しているが、同社の製品はその中でもどういった特徴を持っているのだろうか? HERITAGE AUDIO創業者のピーター・ロドリゲス氏に製造における理念を伺っていく。
Photo:Takashi Yashima(Except*)
創業者ピーター・ロドリゲス氏が語るアウトボード開発の哲学
近年日本でも購入できるようになったことで、ブリティッシュ・サウンドを狙う際の選択肢の一つになったHERITAGE AUDIOの製品群。いったいどのような理念の下、製品を開発/製造しているのだろうか? 同社代表を務めるピーター・ロドリゲス氏に、E-Mailインタビューでそのこだわりについて伺った。
箱を開封したときの感動を守るために
スペイン国内で製造を行っています
ーHERITAGE AUDIOを設立するまでに、どのようなキャリアを歩んできたのですか?
ロドリゲス 8歳からギターを弾き始め、早くからプロのセッション/ツアー・ミュージシャンになりました。ミュージシャンとしての活動と並行して、エンジニアリングと通信技術の学位も取得したんです。その後、1990年代から2000年代初頭にかけてアレンジャーやプロデューサー、エンジニアとしても活動し、メジャー・レーベルからリリースされる作品に数多く携わってきました。ビンテージ・ギアに興味を持ち始めたのは、スタジオ・ワークが増えてきたころのこと。私はアウトボードの回路やパーツの品質に夢中になって、趣味で自分や友人のためにアウトボードを作っていました。2007年に子供が生まれたのを機に、フルタイムでのツアーやレコーディングから離れて、自分でHERITAGE AUDIOを立ち上げることにしたのです。
ー現在HERITAGE AUDIOは何人のスタッフで運営しているのでしょうか?
ロドリゲス 組織全体をしっかり見渡せるよう、20人以内に収めるようにしています。生産工場やエンジニアリング・チーム、物流など、すべての工程を内製化しているんです。まだ小さな会社ではありますが、約40種類の製品ラインナップがあり、40カ国以上に製品を送り届けています。
ースペインで製造する理由を教えてください。
ロドリゲス 最高の製品をお客様に届けたいからです。シャーシやフロント・パネルなどの重要な部品はすべて私がチェックし、不完全なものは不合格にすることも少なくありません。例えばノブに傷が付いていたり、ほこりだらけのパネルがあったりすると、箱を開封したときの感動を台無しにしてしまいますよね? スペインで製造していれば、そういったクオリティ・コントロールを私のデスクからが行えるわけです。私たちはトヨタ生産方式やリーン生産方式を早くから取り入れ、国際的な厳しい品質基準も採用しています。
ーどのような点にこだわって製造していますか?
ロドリゲス 19インチ・ラック仕様のEliteシリーズは昔ながらのハンド・ワイアード製法を採りつつ、サウンドに妥協が出ない範囲で現代の大量生産技術も用いています。そして節約したコストの分をお客様のポケットに入れることを可能としているのです。パーツ選定で重視しているのは、オンラインのトレンドではなくお客様の満足度。パーツというのは非常に厄介な話題なので、ネット上のコメントをうのみにしないことをお勧めします。トランスのように重要な部品もあれば、そうでない部品もあるんです。
ーやはりトランスはアウトボードの要なのですね。
ロドリゲス 現代ではノイズレスかつハイゲインなプリアンプは非常に安価に作ることができます。しかし、そのサウンドは退屈に聴こえることでしょう。往年のデザインとトランスの高調波ひずみ率、そして理想的ではない過渡応答は、音楽的な要素を生み出します。そして、私たちが愛するすべての偉大なレコードを想起させるサウンドを与えてくれるのです。
製品情報
CARNHILL製トランスを搭載したマイクプリ+EQ
HA73EQ Elite
オープン・プライス(市場予想価格:115,000円前後)
CARNHILL製トランスを搭載する、1chのマイクプリ+4バンドEQ。入力は48Vファンタム電源の供給に対応するマイク(XLR)、ライン(XLR)、D(I フォーン)を装備。出力はXLR端子を採用している。入力ゲインは30~80dBの5dBステップで、出力部には連続可変のアッテネーターを備える。EQはハイシェルフ、ミッドピーク、ローシェルフ、ハイパス・フィルターがスタンバイ。PAD(-20dB)とインピーダンス切り替え(1.2kΩ/300Ω)、PHASEといった機能を配する。
SPECIFICATIONS
■入力インピーダンス:1.2kΩ/300Ω(マイク)、10kΩ(ライン) ■出力インピーダンス:75Ω以下 ■最大出力レベル:+26.5dBu 以上@600Ω ■全高調波ひずみ率:0.025%以下@1kHz ■周波数特性:20Hz~20kHz@EQオフ ■最大ゲイン:80dB 以上
HERITAGE AUDIO HA73EQ Elite
オープン・プライス(市場予想価格:115,000円前後)
ダイオード・ブリッジ方式のステレオ・バス・コンプレッサー
Successor
オープン・プライス(市場予想価格:189,000円前後)
ダイオード・ブリッジ方式の、ディスクリート・クラスA設計ステレオ・バス・コンプレッサー。入出力L/R(XLR)と、外部サイド・チェイン用のセンド&リターン(フォーン)をそれぞれ1系統搭載する。ゲイン・リダクション・メーターを装備。スレッショルドやレシオ、アタック/リリース・タイムといったコンプレッサーの一般的なパラメーター、5種類の特性を選択可能な内部サイド・チェイン・フィルターや原音とエフェクト音を混ぜるブレンドといった機能も備える。
SPECIFICATIONS
■最大入力レベル:+22dBu 以上 ■最大出力レベル:+25.5dBu 以上@600Ω ■セルフ・ノイズ:-75dBu 以下 ■全高調波ひずみ率:0.07% @20dBu ■周波数特性:15Hz~30kHz(± 0.5dB) ■入力インピーダンス:10kΩ ■出力インピーダンス:75Ω以下
HERITAGE AUDIO Successor
オープン・プライス(市場予想価格:189,000円前後)
ステレオ入出力×3とサブローを接続できるモニター・コントローラー
RAM System 2000
オープン・プライス(市場予想価格:100,000円前後)
モニター・コントローラーに求められるニーズを満たす、スタジオ・オーディオ・モニタリング・システム。メインのアナログ入出力(TRSフォーン)を各3系統設け、ヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン)も2つ搭載する。そのほかサブウーファー用出力(TRSフォーン)や、プリフェーダー出力(TRSフォーン)、キュー/トークバック(TRSフォーン)出力も実装する。デジタル入力はS/P DIF(コアキシャル)とBluetoothに対応。大型コンソールに使われる、金メッキのリレー・ラダー・アッテネーター(64ステップ)が採用されている。
SPECIFICATIONS
■最大入力レベル:+27.5dBu 以上 ■デジタル入力:最大24ビット/96kHz ■ Bluetooth 入力:AAC、aptX、SBC ■ DIM:-20dB ■最大出力レベル:+27dBu 以上@600Ω ■ノイズ:-99dBu 以下 ■全高調波ひずみ率:0.001% 以下@1kHz
HERITAGE AUDIO RAM System 2000
オープン・プライス(市場予想価格:100,000円前後)
COMING SOON!
HA-609A
ダイオード・ブリッジ・コンプレッサーの名機を現代的に改良したステレオ・コンプレッサーが、まもなく日本で発売される。元となったモデルはICチップとクラスA/Bのアンプ・ステージが用いられていたが、HA-609Aではディスクリート・クラスAに。各チャンネルには3つのCARNHILL製トランスを実装。入出力にはXLR端子が用いられている。リミッターとコンプレッサーの2セクションで分けられており、リミッター部にはリミット・レベルとリリース・タイム・ノブ、アタック・ファスト・ボタンを用意。コンプ部にはスレッショルドとレシオ、リリース、ゲイン・メイクアップのノブ、アタック・ファスト・ボタンを配する。トゥルー・バイパスやステレオ・リンクといった機能が実装されている。
SPECIFICATIONS
■最大入力レベル:+22dBu 以上 ■最大入力レベル:+26.5dBu 以上@600Ω ■セルフ・ノイズ:-75dBu 以下(20Hz~20kHz、-80dBu) ■周波数特性:15Hz~30kHz ■全高調波ひずみ率:0.07% 以下@+20dBu ■入力インピーダンス:10kΩ ■出力インピーダンス:75Ω以下