2種類のサイド・チェイン・フィルターを搭載
原音とエフェクト音を混ぜるブレンド機能
Successorは、入出力段にCARNHILL製のトランスフォーマーを搭載し、ビンテージ・コンプのNEVE 2254でも採用されているダイオード・ブリッジがベースとなっています。コンプレッションは、マルチモノにはならずステレオ仕様。L/Rのいずれか大きい入力信号に対してコンプレッションが作用するオックスフォード・モードで動作します。
フロント・パネルから見ていきましょう。左端のゲイン・リダクション・メーターは、右隣のダイナミクス・イン・ボタンを押すと発光するようになっています。ちょっとしたことですが、テンションが上がる仕様です。
スレッショルド(−20~+20dBu)はステップ式で、1dB刻みの合計40ステップ。パラメーターの再現ができるステップ式で、かつこれだけ細かく調節できるのは使い勝手が良さそうです。
続いて右のレシオ(1.5:1~20:1のリミッター)からあずき色のゲイン・メイクアップ(最大10dB)までのノブは見た通りのステップ式で、NEVEらしさが感じられますね。しかし、アタック・タイム(50μs~20ms)やリリース・タイム(25ms~400ms&オート)は超高速にも設定できることや、青ノブのサイド・チェイン・フィルターなど、現代の機材ならではの機能が多く実装されています。
サイド・チェイン・フィルターは定番のハイパス・フィルター・タイプ(80Hz、160Hz、5kHz)に加え、中域のピーク・タイプ(800Hz、3kHz)も完備。ハイパス・フィルターを5kHzにすることで、ディエッサーのような使い方ができるのも面白いところです。
右端に装備されたブレンド・ノブは、外部プロセッサーを使わずにパラレル・コンプレッションが可能です。こちらもスレッショルドと同様、40ステップのノッチがあります。
リア・パネルも見ていきましょう。ステレオの入出力(XLR)と、サイド・チェイン用のセンド&リターン(フォーン)が用意されています。キックで引っかかるサイド・チェイン・コンプとして使うならリターン端子にキックの信号を送り、フロント・パネル右側のEXTサイド・チェイン・ボタンをオンにすればセッティング完了です。
電源は外付けのスイッチング・アダプターから供給されます。アダプターより先の電源ケーブルが着脱可能となっているので、お気に入りの電源ケーブルがあれば使えるところはうれしいポイントです。
低域が引き締まり中域にパンチが出る
高速設定では1176のようなニュアンスに
さて、実際にチェックしていこうと思います。このルックス故、NEVEのコンプと比べてしまいたくなるのがエンジニアの性。今回はNEVE 33609B、32264A、プラグインのUNIVERSAL AUDIO UAD-2 Neve 33609、そして筆者の定番機SSL Logic FX G384をリファレンスに比較してみました。
まずはミックス・バスに使ってみます。少しかかるくらいの設定にし、アタック・タイムはNEVEのコンプに近い5ms、リリース・タイムは100msにしてチェック。低域周りが引き締まりながら少し中域のパンチが生まれてくる感じなど、NEVEのコンプとだいぶ似ています。ただ年季の違いからか、ほかのコンプと比べて少々中高域に寄る印象です。ところがアタック・タイムを最遅(20ms)にしてみたら広がりも出て、あまり気にならなくなりました。ゆるくコンプレッションした際のグルー(まとまり)感も良いですね。
次はドラム全体に使用。今度はアタック/リリース・タイムやブレンド機能などをいじり倒してみました。アタック/リリース・タイムを高速にしていくと、UREI 1176のようなFETコンプっぽいかかり方になって驚きました。1176をNEVE系コンプの操作性で使えるのは非常に便利ですね。
そして筆者が個人的に一番良いと思ったのが、ブレンド機能。プラグインやフェーダーでパラレル・コンプレッションを行うより操作しやすく、作業スピードが圧倒的に上がります。オン/オフの調整が瞬時に行えるので、テンポ良く音作りができました。ブレンド機能は特にドラム・パーツ単体に効果的。スネアやハンド・クラップの余韻の混ぜ具合を、感覚的に作り出せます。もちろんミックス・バスやステム・トラックにもハマりました。エフェクト音を少しブレンドするだけでも、ミックスの世界が広がって感じられます。
最後に、各楽器のステム・トラックでもチェック。ボーカルにゆるくかけたときの中域の存在感が好印象で、2ミックスの中でもしっかり聴こえてきました。
もしSuccessorが単なるビンテージの再現機だったら、それなりに良いコンプ止まりだったでしょう。しかし、高速アタック/リリース・タイムやブレンド機能など、現代ならではの機能により、ビンテージ機やプラグインとはまた違った価値を持つモデルになっていると言えます。
パラレル・コンプレッションをよく使う方や広い用途で使えるコンプをお探しの方などに、ぜひ一度お試しいただきたいです。まずはミックスで使うと良さそうですが、モノラルにも使用できるので、慣れていけばレコーディングでも活躍してくれるでしょう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年12月号より)