スムーズに伸び上がった癖の無い音
パラメーターの心地良い反応具合
CraftSynth 2.0の大きさは150(W)×68(H)×135(D)mmで、スマートフォンを横に2台並べたくらいのコンパクト・サイズ。本体の重量はわずか278gしかありません。外見はおもちゃのようにも見えますが、中身は本格的です。
簡単にスペックを挙げると、CraftSynth 2.0は2基のオシレーター、フィルター、アンプ、3基のエンベロープ、2基のLFO、2種類のエフェクトなどを搭載しています。ちなみにエフェクトはディレイとディストーションがあり、ディストーションはよくあるビット・クラッシングでなくウェーブ・シェイピングによる仕様です。
また、CraftSynth 2.0はモノフォニック・ウェーブテーブル・シンセサイザーでありながら、最大4台までのCraftSynth 2.0と連結することができ、トータル4ボイスでの演奏も可能です。さらにアルペジエイターを備えたステップ・シーケンサーや、40種類のオシレーター波形も内蔵。同社の無料アプリやプラグインをタブレット端末やコンピューターで使用すれば、すべてのパラメーターにアクセスでき、より視覚的な操作が行えます。
さらに細かく見てみましょう。CraftSynth 2.0には、モーフィング可能な5種類の波形を格納したオシレーター・バンクが8種類用意されています。そして、2基のオシレーターにはこの中から1つをそれぞれアサインすることが可能です。5種類の波形間は、演算による32段階の補完がなされてスムーズにつながるようになっており、ユーザーはこのバンク内の波形を単独で使用するか、任意の波形間をモーフィングさせて使うか、このどちらかの方法が選べます。
ここで一言。CraftSynth 2.0のサウンドと、各パラメーターの反応の良さは特筆すべきことだと思いました。約2万円という価格帯で、スムーズに伸び上がった癖の無い音にはもう脱帽としか言いようがありません。各パラメーターの反応具合も十分です。例えばカットオフを絞っていくときの分解能や、フィルター・エンベロープのディケイをコントロールしたときのサウンドが、プレイヤーの感覚とマッチしていて実に心地良い! このためサウンド・メイクがとても楽しくなります。
ちなみにオシレーター・バンクには、標準的なシンセ波形を筆頭にMODAL ELECTRONICSのハイエンド・シンセ002に内蔵されているバンクも収められているため、いずれも耳新しく、想像力をかき立てる音色で魅力的です。
クロス・モジュレーションが可能
3つの特性を連続可変できるフィルター
もう一つの特筆すべき機能は、2基のオシレーターをクロス・モジュレーションさせるオシレーター・モディファイア。片方のオシレーターでもう一つのオシレーターを変調するという考え方を基本とするもので、全部で16種類のモディファイアが用意されています。その内容は、フェイズ・モジュレーションやリング・モジュレーションなど多岐にわたります。正直、この機能は即戦力度が高いです。モディファイアを一つ切り替えてみるだけでも使える音が次々と飛び出しますので、ぜひ試してみることをお勧めします。
フィルターは2ポールのローパスを基本としつつ、バンドパスを経由してハイパスへとモーフィングできるところがみそ。オシレーター・モディファイア同様、“音作りに行き詰まったときの打開策”となるでしょう。
変調ソースとして、エンベロープはフィルター用、アンプ用、そしてモジュレーション用の合計3基を装備。またLFOは2基あり、両者は共にテンポ・シンクが可能です。片方のLFOはさらにオシレーターのフリーケンシーに追従し、可聴範囲でも使える仕様となっています。
CraftSynth 2.0は本体だけでも十分なのですが、冒頭でも触れたように同社は無料アプリModalAppや、そのプラグイン版ModalPluginを用意しています。これらは、CraftSynth 2.0の内容を一画面で把握したり、制御することが可能です。例えば、本体だけでは行いにくいアルペジエイター・シーケンサーの入力などが一瞬で解決できるなど、使いやすさが倍増します。
ほかにも内蔵エフェクトやマトリクス・モジュレーションなど、まだまだ詳しく紹介したい部分がたくさんありますが、とにかく筆者の知る限り、この価格帯でこの音の良さは初めての体験です! 古典的なサウンドから現代的なサウンドまで、ユーザーの好みやスキルに合わせて追求できる飽きのこないシンセだと思います。非常に気に入りました!
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年12月号より)