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プラグイン・エフェクト〜先進的なテクノロジーの百花繚乱
AIでインテリジェントな処理を実現
ステレオ感の調整もネクスト・レベルに
本題へ入る前に、なぜSONICWIREがプロのクリエイターにも支持されているのか考えてみたい。まずは、海外ディベロッパー(メーカー)の製品であっても日本語で検索でき、説明文を読め、購入手続きを踏めるという点が大きいだろう。クリプトン・フューチャー・メディアが輸入販売を手掛けるソフト音源やプラグイン・エフェクトは、購入者に対して日本語のインストール・ガイドやマニュアルが提供される。また、アップデート概要を和訳して知らせてくれるのもうれしいポイントだ。
製品に関する問い合わせを購入者に代わって行う“テクニカルサポート”も頼もしく、ディベロッパーに英語で直接コンタクトすることを思うと実にストレスフリーだ。まずはテクニカルサポート窓口にメッセージを送り、以降はE-Mailでやり取りしよう。そして極め付きは、良心的な価格。適正な値付けで販売できるよう、マーケットが開いているときには必ず為替レートを参照し価格を更新しているという。
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そろそろ本題へ入ろう。SONICWIREはソフト音源やライブラリーを中心に展開してきたが、今年はプラグイン・ディベロッパーの陣容がより充実し、“インテリジェントに処理するもの”がミックス・エンジニアやトラック・メイカーの間で盛り上がりを見せたそう。例えばSONIBLE Smart:Comp。独自のAI技術を備えたコンプで、入力信号を2,000以上の帯域に渡って解析し、最適な効果を自動で生み出すというものだ。そのEQ版にあたるSmart:EQ 2や両者のバンドルSmart:Bundleも発売中。このインテリジェント系プラグインには、AIによってミキシングを自動化するIZOTOPE Neutron 3なども含まれ、ユーザーが“自分の音作りのどこを補ってほしいか”によって製品を選んでいる傾向だという。
AIではないが、斬新な技術を特徴とするプラグインも注目度が高く、中でもLEAPWING AUDIO StageOneは出色。ステレオ・イメージャーに類するものの、ファンタム・センターへ悪影響を与えずサイド成分のみに働きかけるため、音像をぼかさずにステレオ感を強調できるのだ。また奥行き感を加えたり、モノラル音源を左右に広げて聴かせるような処理も可能。LEAPWING AUDIOはスライダー1つに対して100時間のリスニング・テストを行うなど音質に徹底してこだわった製品を発売しており、ほかにも左右の広がりに影響を与えることなくファンタム・センター成分の強弱を調整できるCenterOne、たった5本のフェーダーで基本的な設定が行える5バンドのマルチバンド・コンプDynOneなどがある。
“リバーブ取り”に見る除去技術の進歩
クリエイターを触発する偶然性に富む効果
技術的に斬新なプラグインと言えば、ACCUSONUSの製品もそう。オーディオ修復技術で知られるギリシャのディベロッパーで、ノイズを低減するプラグインやディエッサーなどを手掛けているが、今年特に人気だったのはリバーブ成分を除去するためのEra 4 Reverb Remover。除去できる度合いはソースによるものの、性能の高さが評価され、例えば劇伴の作家らにもユーザーが増えているのだとか。ピアノの部屋鳴りを調整したり、洞窟の中で話しているような声の残響を低減するなど、さまざまな用途に活用されている。6,000円ほどとお手ごろで、動画制作者にもファンが多いそう。
リーズナブルかつ先進的な技術を用いたプラグインとしては、AUDIONAMIX Xtrax Stems 2も人気。2ミックスをボーカル、ドラム、その他に分かつもので、非破壊編集を可能としている。つまり、分離させても元に戻せるのだ。この技術から簡易なマイナスワンなどは余裕で行え、類似プラグインが増えつつある昨今にあっても“分離系プラグインの第一人者”の風格を見せている。これを10,000円強で享受できるのだから、興味のある方はぜひチェックを。
積極的な音作りに使用するものとして、グラニュラー・エフェクトのOUTPUT Portalを紹介しておく。SONICWIRE内のランキングで上位をマークし続けた逸品で、プロ・クリエイターからの反響も大きいそうだ。グラニュラー・エフェクトと言えば、原音と似ても似つかない音を生み出すものも多いが、Portalは“かけ離れ過ぎない”ことを特徴としている。楽曲のキャラクターから大きくブレず、それでいて意外性/偶然性に富んだサウンドが得られるところに、劇伴作家やトラック・メイカーたちが触発されているようだ。
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ソフト音源〜ユーザーや用途に応じて特徴を強化
各社の個性が際立つストリングス音源
ギター/ベース系は演奏性重視の傾向
続いては注目のソフト音源について見ていこう。まずは2019年も伸びを示したというSPITFIRE AUDIOの製品から。ストリングス音源のSpitfire Chamber Stringsなどが現在もヒット中だが、コンスタントに新製品がリリースされており、なおかつ各製品で操作系がほぼ共通の仕様のため、安心して使えるのが支持される理由の一つだろう。そして何よりクオリティ。共同経営者のクリスチャン・ヘンソン氏はもともと映画音楽の作家で、仲間とともに“自分たちが一番使いやすい音源を作ろう”という気持ちで立ち上げたのがSPITFIRE AUDIOだ。だからこそクリエイターの目線に立った製品作りができているのだろう。
オーケストラ系ではVIENNA SYMPHONIC LIBRARYも健在で、とりわけSynchron-ized Special Editionシリーズが人気だという。フル・オーケストラ音源や特定のパートにフォーカスしたものなど、さまざまな製品をそろえており、サンプルは自社の大規模スタジオでレコーディング。いずれもSynchron Playerという新開発のエンジンで運用し、リバーブや響きの特性を楽器ごとに調整できる。ミキシング&ホスティング・ツールのVienna Ensemble Pro 7も今年に発売された製品で、ミキサーにエフェクトを追加したりと前バージョンからアップデートを図っている。
次にギター/ベース音源を見ていこう。楽器特有のフレーズをキー・スイッチなどで簡単に演奏できるUJAM Virtual GuitaristシリーズやVirtual Bassistシリーズをはじめ、MUSIC LAB Real Strat 5やVIR2 Electri6ityなど演奏性重視の製品が人気だそう。その一方で音の良さにフォーカスして評価されているものもあり、AMPLE SOUND Ample Guitar M IIIが代表例とのことだ。
著名エンジニアが開発に携わるドラム音源
シンセは音楽ジャンルの細分化とリンク
ここで変わり種を一つ。和太鼓音源IN SESSION AUDIO Taiko Creatorだ。劇伴で使われるような迫力のある音色が特徴で、映画音楽などにも採用されている。ディベロッパーはサンプリングCDの時代から和楽器音源を手掛けており、制作のノウハウを蓄積していることがうかがえる。
打楽器つながりで、ドラム音源TOONTRACK Superior Drummer 3もピックアップしておきたい。サンプルはイチから作られたもので、何と巨匠ジョージ・マッセンバーグがエンジニアリングを担当している。そのサウンドはもちろんのこと、スタジオをイメージした操作画面や多彩なバリエーションを持つキットも魅力。ゲーム音楽のクリエイターなどには生ドラムと混在させて使う人も居るそうで、デジタルとアナログの旨味を融合させるのが昨今のトレンドだ。拡張音源も興味深く、例えば9月に発売されたSDX – Decadesはアル・シュミットが録音したもの。マッセンバーグのサンプルと併せて持っておけば、向かうところ敵無しか!?
SONICWIREにはいわゆるソフト・シンセも充実しており、昨今のランキングで首位独走状態なのがXFER RECORDS Serumだ。2016年の発売当初から大人気で、各社からプリセット集が続々登場。それもあって、細分化を続けるダンス・ミュージックの諸ジャンルに柔軟に対応でき、ついにはひとつのプラットフォームと化した感がある。KV331 SynthmasterやVENGEANCE SOUND Avengerといったシンセも売れ行き好調とのことなので、“最近Serum一辺倒だった!”という人にこそ目を向けていただきたい。
SONICWIRE User’s Comment ① 本間昭光
<Profile>作編曲家/キーボーディスト/プロデューサー。槇原敬之のバンマス、ポルノグラフィティへの楽曲提供、いきものがかりのライブ・サウンド・プロデュースなどを手掛けてきた。テレビや劇伴でも活躍。
丁寧なアフター・ケアが魅力です
SONICWIREを使い始めてから、どことなく“冷たくドライなイメージ”を持ち続けていた音源のダウンロード販売に対する意識が変わりました。膨大かつユーザー・フレンドリーな取り扱い製品内容も当然ですが、一番の理由はアフター・ケアの丁寧さです。さらに言うと、僕たちプロの現場だと情報収集に一刻を争うような事案が多いのですが、そこにも迅速に対応してもらえるので非常に助かっています。
今年入手したソフトではSPITFIRE AUDIO Spitfire Studio Strings Professional(ストリングス音源) とTOONTRACK Superior Drummer 3(ドラム音源)を特に愛用しています。Studio Strings Professionalはサンプルが出色で、アレンジ後にパート分けしてエクスプレッション・データなどでニュアンスを付けると、生音に引けを取らないイメージのサウンドが出来上がります。さらにSpitfire Symphonic Stringsと合わせ技でゴージャスに仕上がります。
Superior Drummer 3は、やはり進化したドラム音源です。音色の豊富さももちろん驚きですが、特に“位相”への配慮が抜群で、僕たちがずっと感じてきた自然なスタジオの“鳴り”を再現してくれています。なので生ドラムを録り慣れたエンジニアの方と組むときは、このソフトでデータ制作してスタジオに行くと、プロデュース・サイドのイメージも伝わりやすく重宝しています。
SONICWIRE User’s Comment ② 青木征洋
<Profile>カプコンを経て、フリーの作編曲家に。『ストリートファイターV』の作曲のほか、アジアや欧州のタイトルも手掛ける。ギタリストでもあり、レーベルViViXを主宰しつつギター・インストの流布に努める。
シリアル発行やセールへの対応が迅速
海外製品をダウンロード購入する際は、すぐに使いたくてもシリアル・ナンバーが届くのに待ち時間が発生するのが僕の中でネックなのですが、SONICWIREの場合は独自のシステムによってリアルタイムにシリアルが発行されるのが非常にありがたいです。また、本国の急なセールに迅速に対応してくれるのもうれしいポイント。あとはブログやメーリング・リストを使ったり、本国の開発者を招致して製品の詳細をユーザーに伝えてくれるのもうれしいですね。
最近買ったプロダクトとしては、TOONTRACKのSuperior Drummer 3とその拡張ライブラリーは本当に品質が高くて安心して使えます。僕は1999年に発売されたDrumkit From Hell SuperiorからずっとTOONTRACK製品を使い続けているのですが、まずサンプル収録におけるプロデューサーとプレイヤーの選定が絶妙で、収録されたサンプルをライブラリーにするノウハウも業界トップだと思います。最近の拡張音源は特にクオリティが高くて、SDX - The Progressive FoundryやSDX - The Rock Foundryのほか、23のグラミー賞を獲得した巨匠アル・シュミットがプロデュースしたSDX - Decadesは常に僕のテンプレート・セッションに入っています。
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ライブラリー〜製品の多様化ゆえ“探し方”が肝に
近ごろは一口に“ライブラリー”と言っても、オーディオのワンショットやループを収めたものからソフト・サンプラーに読み込んで使用するパッチ、先述のようなシンセ用のプリセット、そしてMIDIパターン集などまでを指し多義性を帯びている。またリリース総量も膨大なので、注目すべき製品がめまぐるしく変化するマーケットである。そうした中でも目当てのものを探しやすいのがSONICWIREで、音楽ジャンルやメーカー、楽器、フォーマット、価格帯などでの絞り込み検索はもちろん、他カテゴリーと同じくランキングが出ているので、そこからたどることも可能だ。
また、ページ遷移をしても各製品のデモ・ソングが途切れずに再生される。ある製品のデモを聴きながら、ほかに気になるものを探すことができるのだ。さらに、再生したものがプレイリストとして自動的に蓄積されていくので、“さっきデモを聴いたライブラリーを再チェックしたい”と思ったときなどスムーズに戻れるのがうれしい。
駆け足になったが、SONICWIREをベースに今年の注目製品を振り返ってみた。冒頭で述べた通り、ブラック・フライデーのセールも始まっているので、気になる製品がある方はこの機会に手に入れてみてはいかがだろう。