Official髭男dism 『HELLO EP』 〜藤原聡が語る『HELLO EP』制作とステムの公開 活動の背景に宿る“バンドのアティチュード”とは?

“ヒゲダン”の愛称でおなじみのOfficial髭男dism(オフィシャルヒゲダンディズム)
「Pretender」などの楽曲が各ストリーミング・サービスで圧倒的な再生回数をたたき出し、その名を世に知らしめたOfficial 髭男dism。彼らから4曲入りの新作『HELLO EP』が届いた。シングル『I LOVE…』を挟んでのリリースとなった本作は、バンドのエネルギーをオープンなサウンドで表現した一枚。その音像と同じく注目すべきなのは“ステムの公開”だ。楽曲のリズム隊や上モノなどをグループ単位で分解して聴けるのだが、どのような意図の下で行われたのだろう? 藤原聡(写真右から2番目)に尋ねてみると、それはバンドとしてのアティチュードにも通じるものであった。8月25日(火)に発売の本誌10月号の巻頭企画から、ステム公開に関する部分を抜粋してお伝えしよう。

Text:Tsuji. Taichi

“仮想DAW”のような画面を備えた
ストリーミングのステム・プレーヤー

ーEPのリリース後にステムを公開するというお話を伺いました。どの曲が対象になるのでしょう?

藤原  シングルで出した「I LOVE…」と今回の「HELLO」の2曲です。EPの特設サイトにドラムや打ち込みのビート、ベース、ギター、キーボードやピアノ、ボーカルなどをグループ単位で聴ける“ステム・プレーヤー”を用意します。試聴の形式はストリーミングなので、リミックスしたい人に向けたものというよりは、よりライトに接していただく形を考えているんです。僕は学生のころから音楽も演奏も大好きで、プロの楽曲に“ここはどうなっているんだろうな?”と耳を澄ましたりもしていましたが、それを分析するすべもツールも持ち合わせていなかった。だからこそ、スマートフォン1台とネット環境さえあれば曲を分解して聴けてしまうシステムって面白いと思ったし、バンドにとっても報われる部分があるなと。どんなに音量が小さくても、どれだけステレオL/Rの端っこで鳴っていても、一つ一つディスカッションして作り上げていった音なので、それらを楽しんでもらえたらうれしいわけです。メンバーそれぞれ、自分の作った音を単体に近い状態で聴いてほしいという気持ちもありますし、そういう気持ちでプロジェクトを立ち上げたところ、スタッフの方々も進んで協力してくださって。

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「HELLO」のステム・プレーヤー画面

 

ーストリーミングという形式を採ったのは、スマートフォンでも聴きやすいからでしょうか?

藤原  というよりは、ダウンロード形式にするとパソコンを持った方に限定されてしまいますし、例えば“ドラムとピアノだけを合わせて聴きたい”という場合にDAWなどのソフトが必要になってきます。もちろんダウンロードでの公開も非常に魅力的だと思っていて、それが音楽シーンの活性化につながれば最高なんですけど、僕らとしては以前から“もっと気軽に楽しめる形は無いかな? ”と考えていたんです。

 

ーステム・プレーヤーは、どのような意匠なのですか?

藤原  “仮想DAW”みたいな画面がWebブラウザーで見られるようになっています。各トラックにステムが入っているので、当然、無音の部分だってありますよ。

 

ーOfficial髭男dismを耳コピしたい人にはうってつけのツールですね。

藤原  そうですね。耳コピという目的には、すごく合っているのかなと思います。自分が学生のころに、こういうシステムがあったらうれしかっただろうなと……そして、予想をはるかに上回る完成度で展開できることになったのは、すごくありがたいと感じていますね。

 

ー各ステムは、マスタリング前の2ミックスから抽出したものですよね?

藤原  はい。ミックスを完了させたプロジェクトから書き出してもらって、それらを公開しています。

 

ーということは、エンジニア小森さんの作った音を分解して聴けるというマニアックな楽しみ方もできますね。

藤原  確かにその通りですね! “小森雅仁の手腕”というのをつぶさに聴けるというもあると思います。小森さんの奇麗かつ説得力のある音作りとか、たまにエフェクトでピリッとさせる瞬間とか、そういった部分も含め楽しんでもらえたら良いですね。“このパート、意外とリバーブが深いんだな! ”といった発見もあるでしょうし。

 

ーリスナーの音楽の聴き方や音への接し方をアップデートするような側面もあるのではないかと思います。

藤原  “実はこんな音が入っていたんだな”などという気付きから、ほかの音楽への接し方にも良い影響を与えることができれば、ステム・プレーヤー冥利に尽きますね。絶対にそういう聴き方をしてほしいとは言いませんし、それぞれの楽しみ方をしてもらえたらいいと思っているんですが、その先にもし新たな音楽への接し方へつながるようなことがあれば、すごくうれしいです。

 

ーバンドとしての今後の展望を教えてください。

藤原  『HELLO EP』では、ギターやベースといったバンドらしいサウンドをフィーチャーしているので、ピアノやキーボードを主軸にした曲も作ってみたいなと、個人的には思っています。そしてバンドとしては、引き続き“自分たちが良いと思うもの”を生み出していくこと、そしてそれをきちんと伝える/届ける方法というのを模索していきたい。今回のステム・プレーヤーはその一環なのですが、これからも新しいチャレンジをしてけたらと思っています。依然コロナ禍なので、ライブをするのが難しかったりするんですけど、自分たちなりのやり方でファンの皆さんとコミュニケーションを取っていきたいです。一方、僕のスタジオはドラム録りに対応させる予定なので、そこをめがけてエンジニアの古賀健一さんとセットアップをしているところなんですよ!

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藤原聡の新プライベート・スタジオはAPPLE Logic Pro Xを核とした環境。モニター・スピーカーはFOCAL Trio11 BE(写真奥)とGENELEC 8010Aを併用し、UNIVERSAL AUDIO Apollo Twin(同右下)をモニター・コントローラーとして使っている。マスター・キーボードはNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S88で、そばにはMaschine MK3のコントローラーもスタンバイ。壁面の液晶にはApolloのミキサー・ソフトConsole 2.0が映る

 

Release

HELLO

HELLO

  • Official髭男dism
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 『HELLO EP』
Official 髭男dism

ポニーキャニオン:PCCA.04961(CDオンリー)/PCCA.04960(CD+DVD)

CD

  1. HELLO
  2. パラボラ
  3. Laughter
  4. 夏模様の猫

DVD(ライブ・ビデオ)
“Official 髭男dism Tour 19/20 -Hall Travelers-” @パシフィコ横浜2020/02/10

  1. イエスタデイ
  2. Amazing
  3. Rowan
  4. ビンテージ
  5. 最後の恋煩い
  6. 旅は道連れ
  7. Pretender
  8. ラストソング
  9. I LOVE...
  10. 宿命

Behind The Scene from Official 髭男dism Tour 19/20-Hall Travelers-

Musicians:藤原聡(vo、p、k、prog)、小笹大輔(g、cho)、楢崎誠(b、sax、cho)、松浦匡希(ds、cho)、門脇大輔 (strings arrangement)
Producers : Official 髭男dism
Engineers : 小森雅仁、飯場大志、門脇大輔
Studios : PONYCANYON YOYOGI、ABS Recording、Bunkamura

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