GENELEC GLM Studio〜正確なモニタリングをぐっと身近にするDSPシステム

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GENELECが2005年に発売したアクティブ・モニター、8000シリーズは、多くの革新的な技術を盛り込み、現在もなお世界中のプライベート・スタジオや商業スタジオで採用されている。その基本デザインを踏襲しながら、SAM(Smart Active Monitoring)を搭載したモデル、8300シリーズの中から、8320Aもしくは8330Aのセットをお得に入手できるパッケージ、GLM Studioが登場。各スピーカーのステレオ・ペアと、制作空間の自動キャリブレーションを可能にするGLM Kitと、ボリューム・コントローラーの9310Aがセットになっている。このパッケージの発売を機に、あらためてSAMとは何か、どんな利点があるのかを整理したい。

 

シンプルで扱いやすい測定&補正

 

 GLM Studioに含まれるGLM Kitは、ネットワーク・アダプター(8300-601)とキャリブレーション・マイク&ホルダーなどで構成。無償提供されているGLMソフトウェア(Mac/Windows)とこれらを組み合わせ、モニタリング環境に起因する不要なピークをDSPで自動補正する。
※2020年5月現在、macOS 10.15 Catalinaには未対応

 

 現在では、ソフトウェア・ベースの補正システムもあるが、これらはプラグインとしてDAWにインサートすることになるものがほとんどだ。つまり、制作時には補正後のサウンドでモニタリングできるが、リスニング時にはその補正が使えない。SAM搭載のGLM Studioならば、ハードウェア・ベースで補正が行えるので、すべての入力ソースに対し正確なモニタリングが可能。バウンス時に補正用プラグインを外し忘れるといった心配もない。

 

 また、GLMではわずか1点(各スピーカー1回ずつ)の測定で、補正が可能だ(4点平均にも対応)。スイート・スポットの拡大を狙って多点測定を求めるシステムも多いが、セッティングを変更した後など、再度測定と補正を行う際などは、この簡便さが大きなメリットとなる。測定結果に加えて、手動での微調整もGLMソフトウェアから行える。複数の設定を記録し、GLMソフトウェアのグループ(タブ)で切り替えも可能。リスニング・ポジションや、“少し低域を足したい”といったカスタム設定などを瞬時に呼び出すことができる。

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GLMソフトウェアの画面。画面左上のシステム・レイアウト名の下にある2つのグループ(タブ)はそれぞれ別の設定を保存してあり、瞬時に切り替えが可能。例えばサブウーファーを追加した2.1システムと元の2.0システムの切り替え、あるいは自分で調整を加えたカスタムEQ設定のオン/オフなどに便利。フェーダーはGLM Studioのボリューム・コントローラー9310Aと連動する

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GLM Studioにバンドルされているボリューム・コントローラー、9310A。デジタル・コントロールなのでポジションによる音質変化やガリなどにわずらわせられないのも大きなメリット

日本の音楽制作環境に最適

 

 SAMでは、測定した結果に基づき、ピークを抑えることでスピーカーが持つ本来のフラットな特性を再現する。一方、反射による逆相成分で起こることが多いディップについては、この帯域を持ち上げても逆相成分まで大きくなり問題は解決しないので、GLMではブーストしない。ただ、GLMのグラフを頼りにルーム・チューニングしていくこともできるのはメリットで、その際の再測定も瞬時に行える。

 

 特に日本のホーム・スタジオは、天井高などの影響でどうしても万全なモニタリング環境とは言えない。40年間モニター・スピーカーに対して真摯に向き合ってきたGENELECが考えたこのSAMは、そんな環境に悩むクリエイターに差し伸べられたソリューションだと言えるだろう。

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音の回折によるにごりを排除した形状と構造を持つMDEテクノロジーによるアルミ製エンクロージャー、スウィート・スポットの拡大を狙うウェーブガイド技術DCW、上下方向の角度調整が可能な専用樹脂製スタンドIso-Podなど、2005年リリースの8000シリーズで培った技術をフル投入している

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8330Aのリア・パネル。電源スイッチの横にGLM Network用のRJ-45端子×2。ACインレットと入出力端子は下向きに配されており、AES/EBUでのデジタル入出力(各XLR)とアナログ入力(XLR)を用意(8320Aはアナログ入力のみ)

IMPRESSION

部屋の広さや設置環境に余裕が無い場合ほど
SAMの効果は期待できそうです

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DORIAN

エレクトロニック・ミュージックからの影響をベースにアーバンかつエキゾチックなトラックを生み出すクリエイター/DJ。これまでに3枚のソロ・アルバムを発表するほか、七尾旅人、やけのはら、一十三十一などへのトラック提供などでも知られる

 

 僕は普段、8030Cを使っていますが、近くでモニタリングすると低域の感じがつかみにくいので、低域の確認をするときは少し離れて聴くようにしていました。また、昨年末に制作環境を移して少し部屋が狭くなったこともあり、以前のところに比べてややスピーカーでのモニターが分かりにくいと感じていたところです。


 8330 GLM Studioで計測してみると、150Hz辺りにピークが、80Hz付近にディップがあることが分かりました。GLMではディップを持ち上げる補正はしませんが、150Hzのピークが抑えられるだけで、近くでも低域の見え方が良くなりました。150Hz辺りは制作時にEQで整理することの多い帯域ですが、ひょっとしたらこれまで切り過ぎていたかもしれませんね……。

 

 部屋の広さや設置環境に余裕が無い場合ほど、この効果は期待できそうです。価格は、8030Cのペアに比べて数万円高いですが、どうせ買うなら頑張ってそれだけの投資をする価値はあると思いますね。

www.snrec.jp

 

GENELEC 8320 GLM Studio

オープン・プライス

(市場予想価格:150,000円前後+税)

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8320A(ダーク・グレー)×2基、GLM Kit、ボリューム・コントローラー9310A

 

GENELEC 8330 GLM Studio

オープン・プライス

(市場予想価格:210,000円前後+税)

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8330A(ダーク・グレー)×2基、GLM Kit、ボリューム・コントローラー9310A

 

GENELEC製品に関する問合せ:ジェネレックジャパン

www.genelec.jp