「APOGEE Symphony Desktop」製品レビュー:フラッグシップ機を小型化したタッチ・ディスプレイ搭載オーディオI/O

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 今年のコロナ禍で、個人の制作はもちろん、プロの現場でもスタジオを使わないレコーディングが非常に増えました。そのためには機材の小型化が必要、でもクオリティはできるだけ高くありたいというのが共通のリクエスト。そんな中、AD/DAコンバーターのトップ・ブランドAPOGEEが、フラッグシップであるSymphonyの名を冠したMac/Windows対応の小型機、Symphony Desktopをリリースしました。機能と音質の印象を見てみましょう。

独立した2つのヘッドフォン・アウトを搭載
各出力は本体から直接ルーティングの設定が可能

 まず付属ケースに言及すると、フラッグシップ機らしい高級感のあるパッケージです。フタはマグネット式でスムーズに開閉でき、持ち歩くことも考慮されています。本体は1つのノブとタッチ・スクリーンから成るシンプルで美しい外観。特別に小型/軽量化されてはいませんが、持ち運びが大変ということは全く無いでしょう。デザインや質感、ノブの感触も素晴らしく、気持ち良さを感じさせる使い心地です。

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トップ・パネルにはタッチ・ディスプレイと操作用のノブを1つ備える。また、フロント・パネルにはインストゥルメント入力(フォーン)とヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)を搭載

 入出力端子は本体前面にヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)とインストゥルメント・インを1つずつ備えています。後部には、マイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)×2、メイン・アウトL/R(TRSフォーン)、ヘッドフォン・アウト(ステレオ・ミニ)、オプティカル・イン/アウト(ADAT、S/P DIFに対応)、デバイス接続用のUSB-C端子とアップデート用のUSB-A端子、DC入力端子を搭載。カタログ上は最大10イン/14アウトとなっていますが、これはオプティカル端子でのデジタル入出力も含めた数です。アウトプットに関しては、実用に即した機能を後述します。

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リア・パネル。マイク/ライン・イン(XLR/フォーン・コンボ)、メイン・アウト(フォーンL/R)、ヘッドフォン出力(ステレオ・ミニ)、オプティカル・イン/アウト、アップデート用USB-A端子、コンピューターとの接続用USB-C端子、DC入力端子が搭載されている

 実際に使用してみると、タッチ・スクリーン上で操作したいパラメーターを選んでノブで調整する手順がうまく整備されていて、非常に直感的に操作できます。ゲインのコントロールなどはホーム画面にほぼまとめられているため、録音時に操作が煩わしく感じることはありません。ほとんど使わないような機能が無いのも個人的には好印象でした。

 

 Symphony Desktopには、録音する人と演奏する人が1対1で作業を行うシチュエーションに特化した機能が充実しています。まずアウトプットは、DAW上でPlayback1〜10の10アウトとして認識。これを本機側で各アウトプットにステレオ単位で直接割り振ることができます。例えば“メイン・アウトからPlayback1/2、ヘッドフォン・アウト1からPlayback3/4を出力”という具合です。さらに、内部にはデジタル・ミキサーが2つあり、バーチャル・キュー・ボックスのようになっているので、5つのステレオ・アウトを2通りの音量バランスで用意しておくことができます。

 

 そして、2つのヘッドフォン・アウトはそれぞれ独立。例えば、オペレーターはメイン・アウト、奏者はミキサー1をモニターするということも可能です。スピーカーが鳴らせる環境であれば、メイン・アウトはスピーカーに接続し、奏者2人はヘッドフォンを使って異なるキュー・バランスでモニターすることもできます。これは非常に便利な機能ではないでしょうか。

 

真空管やトランスのキャラクターを付加できる
クリーンでフラットなサウンドのマイクプリ

 当然、重要なのは音質ですが、ここはさすがのSymphonyクオリティ。ヘッドフォン・アウトを含めたアウトプットの音質はスタジオの各種ハイエンド・コンバーターと比較しても、ほぼ同等か上回ると感じました。解像度の高さと低音のクリア感、量感はまさにSymphonyの音で、トップ・クラスの一つとして評価して良いと思います。インプットはギター、ボーカルを録音して試してみました。こちらもまず普段の機材チェーンからライン・インしてみたところ、ADコンバーターは文句無し。内蔵マイクプリは非常にクリーンでフラットなサウンドに作られています。さらに、DSPでビンテージのマイクプリのモデリングが適用可能で、真空管やトランスのキャラクターを付加できるようになっています。こちらもうまくチューニングされており、いわゆる“使える音”になっていました。レイテンシーは、DAWのバッファー・サイズを下げて使用すればインプット・スルーでもほぼ気にならず、内蔵のルーティング機能でダイレクト・モニターもできるので、全く問題ありません。

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DSPとアナログ回路によるAlloy Mic Preampでは、NEVE 1066とAMPEX 601のサウンドを再現。今後のアップデートでAPOGEE製プラグインを内蔵DSPで動作させることも可能となる

 今回はテストできませんでしたが、APPLE Logic Pro Xとの連携もしやすくなっているようです。また、本製品にはボブ・クリアマウンテンがチューニングを施したチャンネル・ストリップなどのAPOGEEプラグインが付属。今後のアップデートでは、それらプラグインをSymphony Desktop内でDSP処理できるようになる予定です。さらに、Mac/Windows用のコンソール・ソフトウェアも提供が予定されています。

 

 駆け足でレビューしてきましたが、個人的には音質、機能ともに文句無しの一台だと感じました。小型機としては少し高価ですが、それだけの価値がある製品だと思います。

 

檜谷瞬六

【Profile】prime sound studio form、studio MSRを経て、現在はフリーランスで活動するエンジニア。ジャズを中心にアコースティック録音の名手として知られる。

 

APOGEE Symphony Desktop

150,000円

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SPECIFICATIONS
▪ビット/サンプリング・レート:最高24ビット/192kHz ▪オーディオ入出力:最大10イン/14アウト ▪ダイナミック・レンジ:123dB(A/D)、129dB(D/A) ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪入力インピーダンス:4kΩ(A/Dコンバーター)、150Ω〜4kΩ(マイクプリ) ▪外形寸法:20.5(W)×60(H)×130(D)mm ▪重量:845g

REQUIREMENTS
▪Mac:Mac OS X 13以降 ▪Windows:Windows 10 Anniversary update以降 ▪iOS:iOS 13、iPad Pro(USB-C)

 

APOGEE Symphony Desktop 製品情報

www.minet.jp

 

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