2011年、東京にて結成された5人組ロック・バンド、Survive Said The Prophet。バイリンガル・ボーカリストYosh(写真左)を筆頭とするこのバンドは、多数の国内大型フェスへの出演や、幾度にもわたる海外ツアーを経験し、今やラウド・ロック・シーンの枠に収まらない活動を繰り広げている注目株である。そんな彼らが2020年1月にリリースした5thアルバム『Inside Your Head』は、メタルやエモ、スクリーモなどを土台に、シンセやリズム・マシンなどのサウンドやキャッチーなボーカル・メロディが混ざり合う幅広い作品となった。彼らはこれまでの作品をほとんど海外で録音してきたが、今作ではドラム以外のすべてのパートはYoshのスタジオと、長年バンドのエンジニアとして携わってきたスティーブ・マックネアー氏(同右)のスタジオで行われている。ここでは2人を迎えて、同作の制作について詳しく話を聞いていこう。
Text:Susumu Nakagawa Photo:Chika Suzuki
1つのアルバムに対して
いつも40曲くらいは書いています
ー普段からYoshさんは、バンドの作曲やアレンジをメインで手掛けていますが、今作ではどういった点を目指していましたか?
Yosh 曲が誰かの二番煎じにならないように気を付けました。1つのアルバムに対して、いつも40曲くらいは書いています。アレンジ面でのこだわりは、シンセやリズム・マシンなどの音をバンド・サウンドに盛り込んだところ。これらで曲に個性を出したんです。
ー「Heroine」では、ところどころにサンプルをピッチ・シフトしたような音が使われていて、耳を引かれました。
Yosh あれは僕の声です。自分のボーカル・サンプルをAPPLE Logic Pro付属のサンプラー・プラグインEXS24に入れ、そこにオクターバー・プラグインをかけて作りました。こうやって、曲ごとにキャラ付けをしていきましたね。
ー「Mukanjyo」の2番のAメロでは、ドラムがとても細かいパターンを刻んでいますが、これは打ち込みですか?
Yosh いいえ、ドラマーのShowが生でたたいています。僕がビートを作って彼に投げると、彼はそれを不可能に近いような細かさでアレンジし、自分のリフにしていくんです。
ー「3 A.M.」では、作曲家の澤野弘之さんがピアノとストリングス・アレンジで参加されていますね。
Yosh そうなんです。以前から澤野さんと何かやりたいなと思っていた矢先、ちょうど「3 A.M.」にストリングスを入れようという話が出たんですよ。それですぐにオファーしたら速攻OKをもらいました。彼の音楽性には共感できるところが多かったので、特にこちらから何かをリクエストしたりすることはありませんでしたね。
スティーブ やはり20人の規模で奏でる生のストリングス・セクションは、とても美しくて感動しました。
Yosh 実を言うと、最後に澤野さんはそこにEASTWESTのソフト音源でストリングスを薄くレイヤーしたんです。それは、バンド・サウンドとマッチさせるため。さらに彼は、ロック・バンドのラフな雰囲気を演出するために、生のストリングスのタイミングを絶妙にずらしていったそうなんです。その結果、あのようなゴージャスで厚みのあるサウンドが生まれたんだと思います。
AD/DAコンバーターの開発において
APOGEEは歴史があるので信頼できる
ーこれまでの作品は、ほとんどがアメリカでのレコーディングでしたが、今作はドラム以外、それぞれのスタジオで録音されていますね。
Yosh そうですね。やはり一番のメリットは、自分たちの環境で納得行くまで録れること。そしてベストな状態のパラデータを、僕たちが好きなプロデューサーやミックス・エンジニアに送ろうと思ったんですよ。
スティーブ 時間に縛られずに音作りができることも、大きなメリットです。これまでレコーディング中にクリエイティブなアイディアを思い付いても、結局時間のことを気にしてしまってやる余裕が無かった。だけど、プライベート・スタジオでやれば自分たちのスケジュールで進められるんです。一つ一つの機材は高価だけど、今後のことを考えると絶対こっちの方が良いと思いますね。
ーYoshさんはリード・ギターとベースのレコーディングも担当していますが、どのような機材を使いましたか?
Yosh ギター/ベースのDIは、CREATION AUDIO LABS MW1 Studio Tool。これまでのアルバムのレコーディングやミックスを手掛けてくれたエンジニア/プロデューサーのクリス・クラメットから、“これなら文句無い”とお墨付きを得ています。エンジニアに送るので、健全なシグナルが録れているかどうかがまずは大前提ですよね。次に使うのは、アンプ・プロファイラーのKEMPER Profiler Rack。たまに微調整を加えたりしますが、基本的にはクリスのスタジオでプロファイリングしたものをこっちでも使っているんです。ベースには、DI/プリアンプのTECH21 SansAmp RBIも用いて色付けしています。
ーオーディオI/Oは何を使っていますか?
Yosh APOGEE Symphony I/O MKIIです。個人的にオーディオI/Oで一番重要視するのは音質。世の中にはいろんな機能が付いたモデルがたくさんあり、以前自分はオーディオI/O選びに失敗したこともありました。もう買い直したくないと思って、10年間は使い続けられるものを探したところ、APOGEEのフラッグシップ・モデルSymphony I/O MKIIに出会ったんです。オーディオI/Oって、基本的にはオーディオ・シグナルをデジタルに変えるだけじゃないですか。そう考えたときに、APOGEEはAD/DAコンバーターの開発において歴史のあるブランドなので、一番信頼できると思ったんです。
ボーカリストのモチベーションを下げないように
レコーディングを進めていくことが大事
ースティーブさんは、ボーカルとサイド・ギターのレコーディングを担当していますね。
スティーブ はい。リード/サイド・ギターをYoshと私のスタジオに分けて録ったのは、単純にレコーディングを効率的に進めるためです。たまにギター・アンプを使うこともありますが、基本的にギターのレコーディングではKEMPERを使います。クリスがバンドのためにいろいろなプロファイルを作ってくれているので、とても早く作業ができました。ボーカルには、MANLEY Reference CardioidとNEUMANN U87AIをよく使用していましたね。Reference Cardioidは、フラットかつ高域がとても奇麗にキャプチャーできるマイクなので、そこそこ経験のあるエンジニアでないと使いこなせないと思います。U87AIは、ミックスになじみやすい音で録れますね。
ーボーカルのシグナル・チェインは、どのようになっているのですか?
スティーブ 曲にもよりますが、基本的にはこれらのマイクの後、信号はマイクプリのAPI 512CかCHANDLER LIMITED Germ 500 MKIIを通り、コンプレッサーUNIVERSAL A
UDIO 1176LN、オーディオI/OのUNIVERSAL AUDIO Apollo FireWireに入ります。マイク以降のチェインは結構ベーシックで、後から何とでもなるように録り音はなるべくいじらないようにしていますね。UAD-2プラグインで好きなのは、ルーム・モデリングのOcean Way Studios。リバーブの残響音がめちゃくちゃ奇麗なんです。
ーボーカル・レコーディングでは、どのようなところにこだわりましたか?
スティーブ ボーカリストのモチベーションをキープしたまま進めていくことです。よくやるのは2、3回自由に歌ってもらい、良ければどんどん続けます。そうじゃない場合はこちらから別のアプローチを提案し、1コーラスくらい試してフィーリングがつかめたらその方向で進めますね。Yoshの場合は長いテイクをまとめて録っておいて、後からこっそり僕が複数のテイクをつぎはぎしているんです。僕はそれを“フランケンシュタイン”と呼んでいるんですけどね(笑)。
Yosh 彼のそういった配慮のおかげで、僕は全くストレスを感じずにレコーディングができています(笑)。
日本人とアメリカ人の間では
スウィート・スポットが全然違う
ーSurvive Said The Prophetのリスナーには海外の方も多いですが、音作りにおいてはどのようなところに気を付けましたか?
スティーブ ローエンドが一番ポイント。日本だとミッドレンジ、特にボーカルを中心とした音作りで、ボーカルがうまく聴こえれば曲として完成しているというイメージが強いです。“もしベースが必要ならあとから足しましょう”というように、低域よりも中域の優先度が高いのだと思います。一方アメリカやイギリスなどでは、曲作りにしろミックスにしろ、まずはキックとベースから始めることがほとんど。特に、近年のヒップホップやポップスなどはそうだと思います。
Yosh 僕が通っていた大学の教授は、アメリカや日本にあるテーマ・パークの音響に携わっていた人なんですが、彼は“そもそも日本人とアメリカ人では、話したり聞いたりするスウィート・スポットが全然違う”と言っていました。だから、当然それがミックスやマスタリングにも影響してくるだろうし、逆に誰に届けたいのかでそれらも変わってきます。
スティーブ 僕の経験から言えることだけど、日本語と英語という言語でもボーカルのミックスは変わってくるんです。またJポップのボーカルでは、胸から鼻辺りを中心に発声する人が多く、若干迫力が足りない印象があります。
Yosh 小さいころからJポップをたくさん聴いて育った人は、“Jポップのボーカルはこういう声であるべきだ”というイメージが無意識に出来上がっているからだと思います。これはJポップにおける話です。国内の舞台とかを観ていると、しっかりお腹から発声している人が多いですね。
ー逆に英語圏のボーカリストには、どういった特徴が見られると思いますか?
スティーブ 彼らの歌声には、迫力があります。これは育った環境によって、大きく変わるのかもしれません。アメリカ人は小さいころから教会で歌ったり、家で大声を出しても許される環境なので自然と歌声も大きいです。特にゴスペルを歌ったり聴いたりした人は、普段も胸からお腹辺りを意識して発声する人が多い傾向にあります。だからそれに合わせてミックスしようとすると、どうしても中低域や低域がしっかりと出た音像になりやすいんです。
低域がとんでもなく出るけど
きちんと制御されているLAポップス
ーミックスは、パニック・アット・ザ・ディスコなどを手掛けるエリック・ロン氏が担当していますね。
Yosh はい。2007〜8年ごろ僕はLAに住んでいて、当時そこでは生楽器にシンセなどをミックスしたポップスがとても盛り上がっていたんです。やはりそのときの経験が自分の音楽性に強く影響を与えています。ですので、その辺りのサウンドについてよく分かっているエンジニアを探したところ、長年ハリウッドにスタジオを構えるエリックに行き着きました。
ーロン氏には、どのようなことを求めましたか?
スティーブ 音圧が高く、低域がとんでもなく出るけどきちんと制御されているLAポップスのサウンドです。
Yosh 楽曲のアレンジに関しても、彼なりのアドバイスを求めました。10年後にこのアルバムを聴いたときに、納得できる作品を作りたかったんです。
ー実際に「Last Dance Lullaby」では、ロン氏がコライトでも参加されていますね。
Yosh はい。エリックと一緒に日本のスタジオに入り、まず彼が言ったことは“このスピーカー、低域が出ていないよね?”でした(笑)。もちろんエンジニアによってさまざまだと思うのですが、それだけ低域に対する感覚が日本とアメリカでは違うのかと思いましたね。アレンジについても、彼が最初にチェックしたのはベースだったんです。彼はROLAND TR-808などのオリジナル・サンプルを持ってきていて、1番のAメロに入れてくれました。
ー今回の制作を振り返ってみて、どう感じますか?
Yosh 自分たちのスタジオでレコーディングしたことによって、納得できるテイクが録れ、クリエイティブな作品が完成したと思います。また、今作でチャレンジしたロックにシンセやリズム・マシンなどの音を取り入れて、よりモダンなサウンドに近付けるということも達成できたかなと感じていますね。そして一つ分かったことは、本当に“自分の音”を作りたいんだったらソフト音源ではなく、ハードに頼るべきだと思いました。ソフト音源を使うと、どれも似たようなサウンドになるんです。なので、今後はアナログ機材を使って制作をしてみたいと考えています。
スティーブ 結果だけじゃなくて、音作りのプロセスをしっかり熟知しておくことも大事だなと思いました。数年後に聴き直したときに、とても役に立つからです。
簡単に情報が手に入る時代だからこそ
体験してみることが大切
ーこれから海外進出を目指すミュージシャンにとって、何かアドバイスはありますか?
Yosh とりあえず海外に行ってこい(笑)。現地に住んで、現地の言葉や音楽、カルチャーを肌身で体験する方が、一番情報量が多くて吸収も速いです。絶対に。僕の大先輩の作家/エンジニアたちは、今でも海外のスタジオで仕事をすると学ぶことがたくさんあるって言います。違いを学び、自分はそれをどう仕事に生かすのかが大事なんです。今はインターネットで検索すれば、簡単に情報が手に入る時代。そんな時代だからこそ、体験してみることが大切だと思います。これは機材やプラグインでも同じで、気になるものがあれば実際に自分で使ってみる。もしそれで失敗しても、ちゃんとそこには“経験”という価値が残るんですよ。
ー今後、バンドではどのような活動を考えていますか?
Yosh 今の段階ではアルバムを作ってライブをするというのが基本ではあるのですが、僕はそのほかにもバンドとしていろいろなことにチャレンジしていきたいと思っています。例えば、ある映像に伴う音楽や映画の劇伴をバンドが全部担当できたら格好良いなと。日本では、映画『君の名は。』のサントラを手掛けたRADWIMPSの野田洋次郎さんみたいな。そういうふうなことを、バンド全体でできたらいいなと思っています。ロックだけじゃなくて、音楽全般に関するあらゆることができるクリエイティブ集団です。
気になる機材があれば実際に使ってみる
もし失敗してもそこには“経験”という価値が残るから ーYosh
The Hide Out Studios
Steve's Studio
『Inside Your Head』
Survive Said The Prophet
ソニー:SRCL-11382(通常版)
1.Inside
2.Your Head
3.Calm:Unison
4.Mukanjyo
5.Bridges
6.Last Dance Lullaby
7.Hero
8.Heroine
9.red
10.Never; Saying Never
11.3 A.M.
12.03:01
Musicians:Yosh(vo)、Tatsuya(g)、 Ivan(g)、Yudai(vo、b)、Show(ds)、澤野弘之(p)、他
Producer:Survive Said The Prophet
Engineer: エリック・ロン、クリス・クラメット、アンソニー・リーダー、相澤光紀、スティーブ・マックネアー、Yosh、Yohei
Studio:グレイ・エリア、インターレース・オーディオ、SIGN SOUND、The Hide Out Studios、Steve's Studio