Bonobo(ボノボ)インタビュー【前編】〜最新アルバム『Fragments』のヒロイン楽器はモジュラー・シンセ

Bonobo(ボノボ)インタビュー【前編】〜最新アルバム『Fragments』のヒロイン楽器はモジュラー・シンセ

UKのDJ/エレクトロニック・プロデューサー、サイモン・グリーンことボノボがコロナ禍で傑作をドロップした。それは彼の5年ぶりのアルバム『Fragments』で、ヒロイン楽器はモジュラー・シンセ。情感たっぷりのメロディやビートがボノボらしい自然な彩度で、柔らかな曲線としてあふれてくる13曲だ。この海のように奥深い、哀愁漂うダンス・ミュージックを紐解く。

Text:Mizuki Sikano Interpretation:Yuriko Banno Photo:Grant Spanier

モジュラーで探求しながら制作をスタート

『Fragments』はパワフルなモジュラー・シンセが、生楽器の繊細さやビートと溶け合い、ボノボのエモーショナルな表現をさらに拡張している印象です。

ボノボ コロナ禍ということもあって、今回はこれまでと違って、多くのアーティストに参加してもらえなかった。人とキャッチ・ボールをしながら作るよりも、専ら一人で作るしかなかったんだよ。そういう意味で、モジュラー・シンセは制作過程を面白くしてくれたし、探究しながらの作業ができた。音楽を作る際に、新しい発見や、刺激があることが非常に重要だからね。そういった部分を担ってくれたから、モジュラー・シンセとの触れ合いからこのアルバムの制作をスタートさせた、と言えるだろう。

 

お送りいただいた写真のスタジオはLAですか?

ボノボ そうそう。もう5、6年LAに住んでいる。LAの東部にあるんだ。

 

そのスタジオで、今回はモジュラーを触る時間を多く確保できたということでしょうか。

ボノボ そうだね、今回はさまざまな制作の手法を覚えたり、探究することができた。特にいろいろな楽器をモジュラーに通して加工してみて、どんな音になるか試したりね。自然な音の減衰を使うんだけど、それをモジュラー・シンセで補充する、という。その辺は面白かったよ。

LAにあるボノボのプライベート・スタジオ

LAにあるボノボのプライベート・スタジオ。メインDAWはABLETON Live、モニター・スピーカーはADAM AUDIO A7X、MIDIキーボードはNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S49。デスク右下にOVERSTAYER NT-02Aも見える。写真手前には、RHODES Mark I Seventy Three Stage Piano 、アナログ・モノシンセのKORG MS-20が置かれている

哀愁を感じるコード、幻想的なボーカルは内省的で、楽曲の展開は劇的。全体的にテンションの高いアルバムだと感じます。この温度感はコンセプトとしてありましたか?

ボノボ じっくり時間をかけて展開するダンス・ミュージックから離れて、従来のより短い楽曲構成を意識したダンス・ミュージックにしよう、というのは頭にあった。特にアレンジに注力して、簡潔にまとめる。一つのアイディアを長く引っ張らず、短くまとめることにこだわった。

 

それはクラブでDJをする機会が少なくなったことと関係しますか?

ボノボ かもね。クラブという環境やDJを前提とした曲作りをイメージするのが難しかった。それとは違うアプローチ、つまりクラブ・ミュージックの機能性をあまり考えず、楽曲としてどう成立させるかということだけを意識したんだ。

 

そもそもモジュラー・シンセを初めて手にしたきっかけとかはあるのでしょうか?

ボノボ 最初は正直あまり好きじゃなかった。というのも、皆がやたら使うけどノイズや不協和音な無調音ばかりでどれも魅力を感じなかったから。でもメロディアスで奇麗な音を出すために使う人たちを見つけたんだ。いわゆる物理モデリングと言われるものだ。最初に目に止まったのがMUTABLE INSTRUMENTSのRingsやElements。僕が好きな、指で弾く弦や、ハープといった音色を変幻自在に加工できるというのが最初に引かれたきっかけだった。それに加えてランダム化もできる、生成的な側面も非常に気に入っている。設定次第ではある部分を完全にランダムで鳴らすこともできて、はっとするようなアイディアが飛び出してくる可能性があるのが刺激的だ。

ボノボのプライベート・スタジオに置かれたモジュラー・シンセ

ボノボのプライベート・スタジオに置かれたモジュラー・シンセ。左のラックには、MOOG Mother-32、DFAM、Subharmonicon、「Day by Day (feat. Kadhja Bonet)」のテープ・ループのように聴こえる音で使用したというMAKENOISE Morphageneなどが入っている

ちなみに、どこでモジュラーを買っていますか?

ボノボ Perfect Circuitという店がバーバンクにあって、品ぞろえがすごくいいんだよね。オンラインでも購入できるし、実店舗も商品が充実している。大手メーカーだけじゃなくて、小さいメーカーのものもあり、大体そろっていて試せるから一番のお気に入りだ。ビンテージより新しいものに力を入れている店だよ。ほとんどの機材をそこで買っている。

 

先述のRingsは、今回よく使いましたか?

ボノボ 「Counterpart」で使っている。それと「From You」でギター・ソロに聴こえるパートがあるんだけど、それはRingsだ。この曲のギターっぽく聴こえる音はすべてRingsなんだよ。

 

ほかにお気に入りのモジュールはあるのでしょうか?

ボノボ 一番活躍したものだと、クロックのALM BUSY Pamela's New Workout。これのユークリッド・アルゴリズムが最も有用で、すべてのパッチで使っている。あとはローパス・ゲートのMAKE NOISE Optomixとか。「Sapien」のメインのスタッター・パートではRHODESのエレピをOptomixに通した音を使っている。持っているフィルターの中ではよく使う方だね。ただ音を加工する作業はモジュラーだけじゃなくて、アウトボードやABLETON Live内でプラグイン・エフェクトを使ったりもしている。

 

「Otomo」のドロップで聴けるアナログ・シンセのフレーズはかなりインパクトがあります。

ボノボ それはMOOG DFAM。リズム・マシンとシンセのちょうど間に位置するような機械で、すごくよくできたハイブリッドな楽器だよね。だから、従来のリズム・マシンの用途では使わない。抽象的なリズムのシーケンサーとして使う。「Otomo」のサウンドの多くはこのDFAMなんだ。 ーあの強烈なひずみはどのように付けたものですか? ボノボ 外付けのサチュレーターを幾つも持っているんだけど、ベースや音色を大きくする場面ではもっぱらOVERSTAYER NT-02Aというラックを使ってサチュレーションや加工を行なっている。モジュラーをNT-02Aに通してレコーディングすることが多いよ。

 

 

インタビュー後編(会員限定)では、 最新アルバム『Fragments』のレコーディングやミックス工程、モジュラー・シンセの魅力について語っていただきました。

Release

『Fragments』
ボノボ
(ビート)

Musician:サイモン・グリーン(prog、syn、k)、ミゲル・アトウッド・ファーガソン(vln)、ジョーダン・ラカイ(vo)、オフリン(prog)、ララ・ソモギ(Harp)、ジャミーラ・ウッズ(vo)、ジョージ・ミラー(vo)、トーマス・リー(vln)、カディア・ボネイ(vo)
Producer:サイモン・グリーン
Engineer:サイモン・グリーン
Studio:プライベート