インスピレーションを形にするシンセ群に触れながら、楽曲のアレンジとミックスを追求するための基地
the telephonesの初期から現在まで、長年宅録を行なってきたという石毛輝。この物件に引っ越して以来の約10年間で、電子音楽ユニットYap!!!とソロ名義での楽曲制作/ライブ演奏や、バンドPanorama Panama Townのプロデュースなど、活動の幅を着実に広げてきた。それらに伴い、機材をそろえて、作曲/録音/ミックスまで行える環境へと進化したRomantic Studio。ここでどのようなプロダクションを実践しているか話を聞く。
Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki
複数のビンテージ・シンセをMIDIで一括操作できるシステムを構築
デスクを取り囲むように何台ものシンセが置かれ、幾つかのビンテージ・シンセは壁に立てかけられている。
「この10年で実機のシンセがどんどん増え続けています。最初は11年前にミニ・アルバム『A.B.C.D.e.p.』をプロデュースしてもらって以来、僕が勝手に師匠と呼んでいるナカコー(Koji Nakamura)さんからビンテージ・シンセを譲り受けたのが始まりなんです。ROLAND Jupiter-6、JUNO-60、SH-101、KORG Polysixなど、いろいろといただきました。JUNO-60などはDCB機器なのでMIDI操作するためにコンバーターKENTON Pro-DCB MK3を活用しています。ソフトを使っていたときはシンセの構造的なことを理解できなかったんです。でも実機を知ると、音色の適材適所を細かく見極められるようになったり、バリエーションも出せるようになって、表現にオリジナリティが増したと感じています」
多くのシンセを使い分ける際に大切なのは、エモーショナルなノイズの質感だという。
「個性は演奏のフレーズよりもノイズに宿ると思っているので、僕はノイズの生成に一番時間をかけるんです。そしてノイズの音質は、主にシンセそれぞれのフィルターのかかり具合によって変わります。DAVE SMITH INSTRUMENTS Prophet '08は粘りがあって一番コシが強いノイズが作れるので……麺で例えるならば讃岐うどんみたいな感じですね。SH-101は細くて繊細な稲庭うどん、ウェーブテーブル・シンセのKORG ModWaveはデジタルでキレがあるので、アルデンテのパスタみたいなノイズが作れます」
また、デスク脇に設置されているミキサーについて尋ねると、スタンド上のシンセはAPPLE Logic Proから送られるMIDIですべて操作できるようにしているという。
「僕は面倒くさがりなので、機材のセッティングに時間をかけたくないんですよ。なので、MIDIコントローラーのARTURIA KeyStep Proを弾けば、どのシンセも鳴るんです。デスクのサイドはもちろん後ろの棚に並ぶELEKTRON Digitoneなども含めて、すべてのシンセはアナログ・ミキサーのYAMAHA MG16/4に集め、オーディオ・インターフェースのRME Fireface UFXへと入力します。Logic Pro上ではそうして録音したシンセを過度に加工することは少なくて、基本的にドラムのノリに合わせるためにアタックを少し遅らせたりなどの処理をしています」
一方で、ボーカル、ギター、ベース、サンプラーの演奏を録音する際には別の方法でDAWへ録音するという。
「アナログ・ミキサーのSSL Sixをチャンネル・ストリップとしても使い、Fireface UFXへ接続して録音します。Sixのマイクプリは色付けが少なくて、バス・コンプもかなり優秀です。シンセにいろいろ加工を加える場合はFireface UFXからSixへと送り、さらにグラニュラー/ディレイのCHASE BLISS AUDIO Moodを通してみたりもします」
録音現場の環境を再現するためにSOFTUBE Console 1を通す
そうして録音した素材で自分好みの音色を追求するべく、全体のラフ・ミックスにも身を入れているという。
「ミックスを追い込むために、まずはSOFTUBE Console 1を全トラックに挿してSSLのコンソールをシミュレートします。普段の録音現場で聴くアナログ卓を通った音が、僕にとってテンションの上がる音なんです。その環境を擬似的に作りたいのでConsole 1を通します。モニターのFOCAL CMS50は、奥行きが奇麗に見えるスピーカーなので、リバーブのかけ過ぎを防げるんです。ただ自宅環境であること、ミックス経験がまだ浅いことなどがあるので、アナライザーのTC ELECTRONIC Clarity M Stereoで楽曲とリファレンスそれぞれの周波数を見ながら調整します。その後、オープン型ヘッドフォンFOCAL Clear Professionalで50Hz以下などを含む、全体の細かい調整をしていく流れです」
最後にthe telephones / Yap!!!以外のバンドのプロデュースも手掛ける石毛に、ミックスのこだわりを尋ねた。
「僕は長年シンセとギターを弾いてきたので、上モノの音色加工が得意だと思います。変態エフェクトをポップ・ミュージックに落とし込むのが楽しいですよね。それに良い音には演奏者の性格が見えると思っているので、演奏者の意図を汲んで人間味を生かす音作りがしたいんです。エンジニアと円滑に交流するために、ミックスを勉強し始めたんですよ。音はとても抽象的なものだから……僕はリスナーでありプレイヤーで、エンジニアリングもするので、プロデュースでもミックスでも、人と音をリンクさせる役割を果たしたいです」
Equipment
DAW System
Computer:APPLE Mac Mini
DAW:APPLE Logic Pro、PRESONUS Studio One
Audio I/O:RME Fireface UFX
Outboard & Effects
Mic Preamp:FOCUSRITE ISA One
Compressor:DBX 1066
Amp Simulator:KEMPER Profiler Rack
Others:CHASE BLISS AUDIO Mood(Granular Effect & Delay)、STRYMON BigSky(Reverb)、El Capistan(Tremolo & Reverb)、etc.
Recording & Monitoring
Mixer:YAMAHA MG16/4、SSL Six、MACKIE. 802-VLZ3
Monitor Speaker:FOCAL CMS50
Dynamic Microphone:SHURE SM7B、Beta 57A、etc.
Headphone:FOCAL Clear Professional
Instruments
Keyboard & Synthesizer:DAVE SMITH INSTRUMENTS Prophet '08、MAKE NOISE 0-Coast、MOOG Subsequent 25、KORG MS-20 Mini、ModWave、Polysix、Minilogue XD、ROLAND JUNO-60、SH-101、Jupiter-6、TEENAGE ENGINEERING OP-1、BEHRINGER TD-3-AM、Crave、ELEKTRON Digitone、etc.
Controller:SOFTUBE Console 1、ARTURIA KeyStep Pro、NOVATION Launchpad、etc.
Guitar:FENDER Johnny Marr Jaguar Olympic White、IBANEZ RG、FENDER Custom Shop P-90 Telecaster、etc.
Rhythm Machine:ELEKTRON Digitakt、ROLAND MC-707
Sampler:ELEKTRON Octatrack MKII、ROLAND SPD-SX
石毛輝
2005年に地元埼玉県北浦和にてthe telephonesを結成。2017年にはエレクトロニック・バンドYap!!!を結成し、2つのバンドのコンポーザー、ボーカル、ギター、シンセを担当。ほかにもソロやDJ、楽曲提供、サウンド・プロデュースなど、多岐にわたりミュージック・ラバーらしいさまざまな活動を行っている。
Recent Work
『Yellow Panda』
the telephones
(DAIZAWA RECORDS / UK.PROJECT)
12月8日発売