今回登場するのはプロデューサー/ギタリストのShin Sakiura。オルタナティブなギターを軸としながらも、ヒップホップ/R&Bからインスパイアされたバウンシーなビートとムーディーなシンセが心地よく調和されたサウンドで注目を集め、これまでにSIRUPや向井太一、iri、アイナ・ジ・エンドといったアーティストの楽曲を手掛けている。今回は彼のスタジオで、音楽ツールのこだわりを中心に話を伺った。
Interview:Susumu Nakagawa Photo:AmonRyu
【Profile】東京を拠点に活動するプロデューサー/ギタリスト。バンド・サウンドからヒップホップ、R&B、エレクトロまで広い音楽性を持ち、自身の作品のほか、SIRUPやアイナ・ジ・エンドの楽曲制作、海外アーティストとのコラボなど、活動は多方面にわたる。アニメ『BNA』のエンディング曲も手掛ける。
Release
『BREAKTHROUGH』
Cosmo's Midnight、SIRUP、Shin Sakiura
(Suppage Records)
Liveで気に入っているのはイメージを音にするまでの工程が少ないところ
プライベート・スタジオ
スタジオの広さは4.5畳くらい。完全なるプライベート環境なので、とてもリラックスして音楽制作が行えます。作曲からアレンジ、ミックス、仮歌やハモり、アコギのレコーディングまで、すべてこのスタジオで行っていますね。壁にはELGATO Wave Panelsという六角形の吸音パネルを幾つか張っていますが、これらはプロデューサーのA.G.O君にお薦めしてもらったものです。
コンピューター
コンピューターは自作のWindowsマシンです。もともとAPPLE MacBookユーザーだったんですが、動画や音楽の編集時の負荷が大きくて大変だったので、メモリーやストレージなどが増設できる自作コンピューターに切り替えました。コスト・パフォーマンス的にこちらの方が優れているし、何より作業時やデータ管理の面でストレスが減りました。
DAW
DAWはABLETON Liveで、ビート・メイキングを本格的にやろうと考えた21歳のときから使っています。それまではAPPLE GarageBandやLogic Proでした。Liveに行きついた理由は、当時作りたかったある音楽のハウツー動画がYouTubeに多く上がっていたのと、周りの友達で使っている人が多かったからです。Liveはオーディオのピッチ変更が簡単に行えたり、タイムストレッチに特化したWARP、シンプルで分かりやすい画面レイアウト、一画面内で音楽制作が完結できるアレンジメントビューなど、頭に浮かんだイメージをすぐ形にできる要素がたくさん詰まっていて、とても使いやすいDAWだと思います。動作も軽く、気になったら簡単にサンプル素材を張り付けたり、プラグイン・エフェクトを挿したりでき、ひらめきやアイディアをすぐに試せるところが好きです。
オーディオ・インターフェース
RME Fireface UCXです。3〜4年くらい使っています。当時はUNIVERSAL AUDIO Apolloシリーズとめっちゃ迷っていて、Rock oN Companyで試聴したときにFireface UCXの方が音質が好みだったのでこちらを購入しました。今では仮歌からギター、ベース、シンセなどあらゆる録音に使用しています。ファン・クラブ向けの動画配信をするときは、付属のソフトウェア・ミキサーTotalMix FXを活用していて、複数ある入出力のルーティングを自由自在に組むことができるのでかなり助かっていますね。もう、Fireface UCX一つあるだけで十分です。RME最高!
Prophet-5 Vは音がとても太いので最近はこれでサブベースを鳴らしています
モニター環境
メインのモニターはADAM AUDIO A3X。Rock oN Companyでいろいろなスピーカーを聴き比べた結果、A3Xが求めている要素を一番持っていたので購入しました。自分は低域を出しすぎたりカットしすぎたりする傾向があるので、低域のバランスがちょうど良いものが欲しかったんです。A3Xは適度な低域の量感や、全体的な音の定位がよく分かります。サブウーファーのADAM AUDIO Sub7と併用していて、低域のミックスがめちゃくちゃ楽になりました。キックのディケイやベースの低域がよく見えるので助かります。
ビート・メイキングの手順
ドラムとベースから始めて上モノに移るという王道の流れなのですが、この手順の方が個人的に満足のいく楽曲が作れる気がします。自分はKポップのように“音数は少ないのに音圧は高い”というサウンドが好きなのですが、いつもアレンジでは音をたくさん足してしまい、何を聴かせたいかが分からなくなることが多いので、曲の土台となるパートから作るように心がけています。
レコーディングのこだわり
エレキギターを録るときは、Fireface UCXへダイレクトに挿していますが、エレキベースに関しては一度DI/プリアンプのMXR M80 Bass D.I.+に通してからFireface UCXへ入力しています。その理由として、ベースは一度DIに通した方がリアルなサウンドになるからです。以前はコンプ、アンプ・シミュレーター、EQ、トランジェント・シェイパーといったプラグインをかけていたんですが、普通にDIに通しただけで使用するプラグインの数が半分に減ったんですよ(笑)。“実機の力”ってすごいんだなって改めて思いましたね。
各パートに使用するソフト音源
ドラムはWebサービスのSplice、海外ビート・メイカーのサンプル・パックを使っています。シンセ・ベース/シンセにはXFER RECORDS Serum、NATIVE INSTRUMENTS Massive、ARTURIA V Collectionに収録されたProphet-5 VやMini V、Jup-8 V、DX7 Vが多いです。中でもProphet-5 Vは音がとても太いので、最近はこれでサブベースを鳴らしています。エレキベースにレイヤーするのがお勧めです
最近購入したお薦めプラグイン
普段はWAVESやLive付属プラグインをよく使っているんですが、最近購入したドラム向けマルチエフェクト・プラグインPLUGINS THAT KNOCK Knockが便利すぎるので、ぜひこれを紹介したいです。トランジェント・シェイパー、サチュレーション、サブハーモニクスを足せるエフェクトなど、ドラムの音作りに便利なパラメーターを多数備えています。最近はどの曲にもこのプラグインを使っているんです。
読者へのメッセージ
自分も昔から読者ですが、ためになる記事がたくさんあるのでサンレコを読んで勉強してください。これからはプロデュース・ワークだけでなく、ソロ活動にも力を入れていくのでぜひSNSなどをチェックしていただけたらと思います!
Shin Sakiuraを形成する3枚
『Lucky You!』
Primary & OHHYUK
(Amoeba Culture)
「ビート・メイキングと出会ったころに知り、そのクールで洗練されたアレンジに刺激を受けました。ジャジーなコード感などは、今の僕の音楽に影響を与えています」
『ステイディアム・アーケイディアム』
レッド・ホット・チリ・ペッパーズ
(ワーナーミュージック・ジャパン)
「高校生のとき、ギターでジョン・フルシアンテのプレイを何度もコピーしていました。特にこの作品はスコアを買っていたほど。ギターの音作りに影響を受けています」
『What Comes Next』
Cosmo's Midnight
(Nite High)
「彼らの曲は全部好き。オン・コードやテンション・コードを多用したコード・ワーク、生っぽさのあるビートなど、制作に詰まったらこのアルバムを聴くこともあります