僕にとってビート・メイキングは瞑想と同じようなものなんだよ
世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回登場するのは、ニューヨークを拠点に活動するアーティスト/クリエイターのインストゥペンドだ。国内では、7月21日にastrollageから1stアルバム『Love Power A-to-Z』がリリース。そのメランコリックかつエレクトロニックなビート・ミュージックが話題を呼んでいる。
Interview:Keiko Tsukada Photo:Omi Tanaka
キャリアのスタート
中学生のころ、姉がよくデッドマウスやスクリレックスのコンサートに行くたびに、彼らの音楽をかけてくれた。それを聴いて、すぐにダブステップを試してみたんだ。当時はまだ、技術的な部分を理解できなかったけれど、だんだんクールなサウンドを作れるようになり、ハマっていったんだよ。
制作ツール
最初はいろいろなミュージシャンの使用機材をリサーチして、IMAGE-LINE FL Studioを使い始めた。だけど、数年後にはABLETON Liveに移行したんだ。正直、最初はDAWは全部同じだと思っていたけれど、友人から“FL Studioはある音楽ジャンルの制作に特化して作られているようだ”と聞いたからね。FL StudioからLiveへの以降は、DAWの基本操作を理解していればそんなに難しいことではなかった。Liveはすごく使いやすく、現在僕が作る音楽スタイルにも合っているから満足している。今はバージョン10を使っているけれど、早くバージョン11にアップグレードしたいね。世界中のプログラマーが開発したLive専用のプラグイン、M4Lデバイスもいろいろあって興味深いんだ。
お気に入りのソフト音源/プラグイン・エフェクト
僕はXFER RECORDS Serumでシンセ・サウンドをデザインし、それらにさまざまなLive内蔵のプラグイン・エフェクトを使っている。M4Lデバイスでは、suzuki kentaroっていう日本人プログラマーが作るプラグインがお薦め。特にParticle ReverbやHelisertが好きで、すごく特殊な効果を表現できるんだ。ほかには、IZOTOPE RX 7 Spectral De-noiseも愛用している。本来は不快なノイズを除去するためのプラグインなんだけれど、使い方によっては面白いサウンドを生み出すことができるね。
ビート・メイキングのコツ
現在は、ミックス・バランスが一番重要だと思っている。制作ではいつもメインとなるメロディから始め、ハーモニーを作り、その後リズムやボーカルを重ねていくんだけれど、すべてが調和するように調整すると、結果としてシンプルなトラックになるんだ。音を詰め込み過ぎないように心掛けているよ。
最新アルバム『Love Power A-to-Z』について
僕は音楽を視覚的に考える。だから、今作はその視覚的イメージをサウンドで表現したんだ。以前はポップ・ミュージックを作っていたんだけれど、特定の形式にとらわれたり、流行のスタイルに合わせていることに疑問を感じていた。今回は独自のアプローチで音楽を作ることができたと思う。リスナーにも、僕の頭の中で見えているイメージが伝わるといいな。
トロ・イ・モアとのエピソード
トロ・イ・モアと仕事することになったのは、高校生のころに僕と親友で作った曲がきっかけ。SoundCloudにアップしていたのを彼が聴いて僕に連絡が入り、その後僕が飛行機で彼のサンフランシスコのスタジオまで行って、一緒に何曲か作ったんだ。しばらく音沙汰無いなと思っていたら、数カ月後に、“あの曲がアルバムに入ってるぜ”って彼から連絡が来たんだよ(笑)。つい最近も、彼と仕事をしたばかりだ。
ビート・メイキングの哲学
僕にとって、ビート・メイキングは瞑想と同じようなものなんだ。“こういう曲を作ろう”って感じじゃなくて、“何が起こるか見てみよう”っていう状態で制作を始めるからね。
今後の展望
生きている限り音楽を作り続けられたらいいな。それから、またライブ自体を再開できるとうれしいね。ライブ・パフォーマンスもうまくなりたいと思っているよ。
SELECTED WORK
『Love Power A-to-Z』
インストゥペンド
(astrollage)
『Love Power A-to-Z』が僕のお気に入りだね。このアルバムで、以前から思い描いていたサウンド・テクスチャーを取り入れたポップ・ミュージックを表現することができたんだ。