iPhoneのボイスメモだけを使って録音した曲もあるんだよ
世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、トラック制作にまつわる話を聞いていく本コーナー。今回登場するのは、ロサンゼルスを拠点に活動する新進気鋭のプロデューサー/シンガー・ソングライター、サム・ゲンデル。サックスやギター、ピアノもこなすマルチ奏者でもあり、ジャズに電子音楽などを取り入れたサウンドスケープやビート・ミュージックを得意としている。
Interview & Photo:Hashim Bharoocha
キャリアのスタート
僕は子どものころから音楽が大好きだった。3歳くらいから歌を始め、13歳からくらいから父親の影響でジャズが好きになりサックスを演奏するようになったんだ。ジャズの知識はレコードや仲間のミュージシャン、そして大学の先生たちから学んだよ。影響を受けたミュージシャンにはローランド・カーク、レスター・ヤング、ウェイン・ショーターなどが居る。最近はマリオン・ブラウンなんかも好きだよ。新しい音を探求したり、実験していくうちに、自然と電子音を取り入れたトラックを作るようになったんだ。最初に買った機材はボーカル用のマルチエフェクターで、よくサックスをそれに通して演奏していた。このときの経験が、今のサウンドの土台になっているのかもしれないね。
使用機材について
オーディオI/OはAPOGEE Quartetで、DAWはAPPLE Logic Pro。メイン・モニターはBAREFOOT SOUND MicroMain45で、すごく透明度の高い音だ。Quartetの下にあるのは真空管プリアンプのINWARD CONNECTIONS MP 820が4台と、Limiter 820が2台、Equalizer 820が2台。すべての楽器は一度これらを通過した後、Quartetに入るようになっている。こうすることで独特のサウンド・キャラクターを生み出すことができるんだよ。
エフェクト・ペダルについて
エフェクト・ペダルはいろいろ持っている。中でも友達と作ったピッチ・シフターは、サックスでハーモニーを演奏するときによく使うんだ。STRYMONのリバーブBlueSkyもいいね。BOSS SG-1 Slow Gearはあまり生産されなかったレア物で、アタックを消す機能があるんだよ。BOSS RC-30 Loop Stationはビート・メイキング用ではなく、アブストラクトなサウンドを作るために使っている。GRACE DESIGN BixはEQ搭載のプリアンプ・ペダルで、まずはここにサックスを通しているんだ。
そのほかにも、デジタル管楽器のROLAND Aerophone Pro AE-30を使っている。表現力がとても高くて気に入っている。サックスとAerophoneはそれぞれ得意分野が違うから、僕はこの2つが融合したものがあればいいなと思っているよ(笑)。
ビート・メイキングの手順
本当に何も決まっていないんだ(笑)。自分の曲を作るときは、手順など一切考えずにひたすら音作りをしていく。リミックスやカバーなど誰かに依頼されて曲を作ることもあるけれど、それも同じやり方だね。
最新アルバム『Fresh Bread』について
ライブ演奏を収録している曲もあれば、自分でホーム・レコーディングした曲もある。中にはAPPLE iPhoneのボイスメモだけを使って録音した曲もあるんだけれど、その音がとてもいいんだ。特にナイロン弦ギターとの相性は抜群で、独特の雰囲気を演出できる。今度はボイスメモだけで録音したアルバムを作りたいとも思っているよ。
ミックスについて
以前はブレイク・ミルズやディーン・ハーリーにミックスを頼んでいた。自分では出せないような素晴らしい音に仕上げてくれるからね。最近は自分自身でレコーディングとミックスをやることが多くて、プラグインはLogic Pro付属のものやオーディオ・リペア・ツールのIZOTOPE RX8をよく使っている。自分でミックスをすると、イメージ通りのサウンドにできるから好きだね。
読者へのメッセージ
“直感を信じろ”っていうことくらいしか言えないよ(笑)。
SELECTED WORK
『フレッシュ・ブレッド』
サム・ゲンデル
(ASTROLLAGE)
スタジオやライブ会場での演奏を収録した52曲入りのアルバムなんだ。マスタリングは、Leaving Recordsを率いるプロデューサーのマシューデイヴィッドが担当しているよ。