評価される/されないに関係無く音楽を作ることは一生続けていく
世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回登場するシアラ・ブラックは、ニュージャージー出身で3年前からベルリンを拠点に活動するDJ兼プロデューサーだ。昨年レーベルPendulum Recordingsを立ち上げ、EP『Stasis』を発表。疾走感あふれるテクノと実験音楽の境界で続ける独自の音作りについて聞いてみよう。
Interview:Yuko Asanuma Photo:Maylis Sanchez
キャリアのスタート
子供のころはピアノのレッスンを受けていました。大学時代にはパンク・バンドでドラムをやりたくて、ジャズ・ドラマーの友人に2年間ほどドラムを教わっていたんです。この2つの経験が、ビート・メイキングをする上で確実に土台となっています。
また、同じ時期にテクノやノイズ/実験音楽にも出会いました。バイト先にテクノDJが居たことがきっかけでシンセを触り、“これが私のやりたいことだ!”と確信したんです。そのころはテクノのクラブでDJをしながら、DIYのノイズ/実験音楽のシーンにも出入りしていましたね。
大学卒業後はニューヨークに引っ越し、“No-Tech”というイベントを友人たちと始めたんです。そうしたら結構話題になり、そのままレーベルに発展してカセット・テープを出したりしていました。私にはDIYの精神が核にあるんだと思います。
制作ツール
初めて買ったサンプラーはKORG ElectribeのES-1 MKIIで、今も使い続けています。その後、ELEKTRON Machinedrumも使用するようになりました。1台目のシンセはROLAND Juno-106で、現在はKORG MS-20 MiniやMOOG Mother-32にハマっています。DAWはこれらを録音するために使っており、最初はAPPLE GarageBandを試し、Logic Proを経て、現在はABLETON Liveを用いていますね。
ライブではソフト・シンセやプラグイン・エフェクトなども使いますが、基本的にはハードウェアが中心です。もともとバンドをやっていたので、フィジカルな方がなじむんだと思います。最近は、ELEKTRONのリズム・マシン/サンプラーのDigitaktとシンセのDigitoneが好きです。実はニューヨークからベルリンに引っ越す際、それまで持っていた機材のほとんどを売り払い、代わりに購入したのがDigitaktでした。なので、ひたすらDigitaktを使い倒し、今ではだいぶマスターできたと思います。
サンプル素材について
リズム・マシンやシンセのほかに、サンプル素材を加工して使うことが多いです。ただし、ほかのプロデューサーが作ったものは使いません。唯一の例外が、レゴウェルトのサンプル。彼は、1990年代から自身のWebサイトで膨大な量の無料サンプルを提供しています。最高なのでぜひ見てみてください!
ビート・メイキングの醍醐味
私が音楽を作る理由は、作らないと爆発してしまいそうだから(笑)。音楽は“私”という人間の延長であって、もはや作らずにはいられないという感じです。例えば辛いことがあったとき、しばらくスタジオで音楽制作に没頭すると、その後気分がずっと良くなります。私にとってビート・メイキングはセラピー的な要素もあるんです。作品になる/ならないや、評価される/されないに関係無く、私は一生続けていくと思います。私にとって何ものにも代えがたい瞬間は、自分が苦労して作った音楽をライブで披露し、それがオーディエンスにも伝わったときですね。
読者へのビート・メイキング・アドバイス
まずは一通り機材と“格闘”してみること。人に教えてもらうにしても、自分である程度努力した上で詳しい人に聞く方が、相手も熱心に教えてくれると思います。もう一つは、機材を触り始めた初期の試行錯誤をなるべく記録しておくこと。わけが分からない中でいろいろ試してみたことが、後々思い付かないアイディアだったりするからです。何でも実験してみることがお勧めですね。“間違った使い方”で作った方が、後で聴いてみると、とてもユニークで面白かったりしますよ!
SELECTED WORK
『Stasis』
シアラ・ブラック
(Pendulum Recordings)
昨年11月に発売したEP。ベルリンに越してきたばかりで機材がほとんど無く、ELEKTRON Digitaktのみで制作しました。ニューヨーク時代の友人たちも参加しています。