The American Dream Vol.6〜ウィズ・コロナ時代でのライブ対策とストリーミング配信における4つのポイント

 日本人アーティストがアメリカのメインストリームで互角に勝負できるようになる秘けつを、日米の文化や考え方の違いなどを例に挙げながら解説していく本コラム。最終回では、コロナ禍から今後を見据えたアメリカのアーティストたちのライブ対策のほか、ストリーミング配信のポイントなどをまとめてみよう。

オンライン・ゲームとライブ配信の
コラボレーションが若いリスナーに人気

 アメリカを中心とする世界の音楽ビジネス・モデルから遅れがちだった日本。今年に入ってようやく重い腰を動かしたように思える。1990〜2000年代を軸とした音楽ビジネス・モデルの脆さが、コロナ禍でより明るみに出たためだろう。日本はCD/コンサート/グッズ/ファン・クラブといったパッケージ・ビジネスに頼り過ぎていた印象がある。この突破口の一つとして、やはりアメリカの音楽ビジネス・モデルにも目を向けることが大切だろう。

 

 現在アメリカでは、コロナ禍でもできるコンサートに関していろいろなアイディアが出てきている。中でもインパクトがあったのは、アメリカのロック・バンド、ザ・フレーミング・リップスが10月にオクラホマ州で行ったコンサート。これは、演奏者も観客も全員バブル・ボールに入って参加するというスタイルで、ウィズ・コロナ時代にライブを安全に楽しむための一つの方法との意見もある。バンドは今後もこのコンサート・スタイルを続けるのかは分からないが、その発想力の高さという意味では話題となった。

f:id:rittor_snrec:20201116205932j:plain

ザ・フレーミング・リップスのYouTubeチャンネルには、10月にオクラホマ州で行ったライブから「Assassins of Youth」の映像が投稿されている。会場では、演奏者と観客が全員バブル・ボールに入ってコンサートに参加しているのが分かる
https://youtu.be/8j28LZbD_7A

 全体的な動きとしては、開催予定であった大型フェスやコンサートはほぼライブ・ストリーミング配信に切り替わり、もはや配信ライブをすることは音楽ジャンルを問わず、世界的に当たり前となってきた感じを受ける。例えば、メタリカは11月14日にアコースティック・ライブのストリーミング配信を開催。チケットは4種類から選べ、ライブ内容を収録した音声データやTシャツなど、特典によって異なっている。

 

 配信についてより言及するならば、オンライン・ゲーム内のバーチャル空間における演出が挙げられる。映像面での演出にこだわるアーティストは、本人がアバターとなってゲーム内のバーチャル空間でパフォーマンスを行うのだ。オーディエンスもアバターとしてバーチャル空間に参加することで、その場の一体感を味わうことができる。

 

 こういったコンテンツは、主にリスナー層が若いヒップホップやEDMなどの音楽ジャンルで人気がある。この“オンライン・ゲーム×ライブ配信”のコラボレーションにおいてアメリカで話題となったのは、オンライン・ゲーム『フォートナイト』のバーチャル空間におけるトラヴィス・スコットのパフォーマンス。本人を模した巨大な3Dアバターによるライブを見ようと、約1,200万人が参加し話題となった。

f:id:rittor_snrec:20201116210155j:plain

4月にトラヴィス・スコットがオンライン・ゲームの『フォートナイト』とコラボレーションしたバーチャル・ライブ“アストロノミカル”のパフォーマンス動画。本人を模した3Dアバターによるライブを見ようと約1,200万人が参加した
https://youtu.be/wYeFAlVC8qU

現実では体験できない
ストリーミング配信ならではの演出が大切

 ライブ・ストリーミング配信では、ライブに行けなくなった反動もあるためか、初期はある程度の興行収入を上げたアーティストも多かった。しかし、会場の雰囲気や熱気、スピーカーの音圧などは画面越しでは伝わらないため、2〜3カ月しないうちに飽きてしまうリスナーもアメリカでは増えてきているという。これからの時代においてライブ・ストリーミング配信は欠かせないものになってくるだろうが、その上で“4つのポイント”を挙げてみたい。

 

 まずは、単調なライブ映像を流さない、ということ。視聴者が飽きてしまうような単調な映像は、アーティストにマイナス・イメージを付けてしまう恐れがある。ストリーミング配信の流れに乗ったつもりが、これでは逆効果になるだろう。数台のカメラを切り替えるなどして変化を加えたい。

 

 次に、ライブ・ストリーミング配信では現実のコンサートでは体験できないことを付加価値としなければいけないということ。例えばバーチャル空間やイメージ画像を背景と合成するなど、一般的なコンサートでは見られない特別な演出が大切になってくるだろう。

 

 現在は“コロナ禍で急に対応した配信”という見方がファンやアーティストにもあるため、ただライブ映像を配信するだけでもある程度成り立っていると思うが、今後これが当たり前となったときに、ファンはまだ見続けてくれるのだろうか? コロナ禍が終わっても以前の形に戻ることは無いと思うので、オンラインとオフラインの差別化をしっかり付け、新規ファンの獲得を目指して工夫していくことが重要だろう。

 

 3つ目は、アーティストの強みを理解してインターネット上でしっかりとしたポジションを築くこと。配信をするということは、YouTuberなどを含めたライバルが圧倒的に増えるということだ。アーティスト自身の“強み”を明確に理解することで、ターゲットをどこに設定すればよいかが分かり、この配信“戦国”時代でも勝ち残ることができるだろう。

 

 最後は、日本市場のみでなく世界市場に向けた配信を意識すること。ストリーミング配信では、ライブ・ハウスの収容数のような物理的な限界は無い。よってワールド・ワイドに集客でき、視聴者数も未知の可能性を秘めている。前回までの連載で数々の具体的な対策を述べてきたので、ぜひ参考にして世界に向けた配信を試みてほしい。

 

コロナ騒動は一つの転換期であり
逆にチャンスだと考える

 筆者としては、今回のコロナ騒動は一つの転換期であり、逆にチャンスだと考えている。これまでの音楽ビジネスのスタイルが一気に通用しなくなり、新しいスタイルをアーティストや事務所、そしてファンも交えて考えるときなのではないだろうか? そしてストリーミング配信がやっと市民権を得た日本では、まだアメリカと比べてチャンスはたくさん転がっているはずである。

 

 筆者がアメリカで初めてライブをしたのは2005年。そのとき感じたのは、“音楽に国境はない”ということだった。そして、もっと日本の音楽を世界中の人々に届けられる環境があれば、よりその価値を上げられるだろうとも思った。FAKE STAR USAを作ったのは、筆者が日本とアメリカをつなぐ架け橋となり、会社を通して日本の音楽を世界中に知ってもらうためである。ストリーミング配信が主流になりつつある今、日本のアーティストは将来の日本の音楽シーンのためにどんどん世界に向けて配信してほしいと思う。受け入れるか入れないかの判断をするのは、アーティストでもレーベルでもなく、世界中のリスナーなのだから。

 

 

f:id:rittor_snrec:20200626220952j:plain

浅葉智

【Profile】LAを拠点に、米国内へ日本の音楽/ファッション業界などにおける優れた人材を派遣する芸能音楽事務所、FAKE STAR USAの代表。1998年からギタリストとして、愛内里菜など国内アーティストのレコーディングに携わる。2006年に渡米後、ドラマへの楽曲提供のほか、米国最大のアニメ・コンベンション“アニメ・エキスポ”や大型フェス“Bonnaroo Music and Arts Festival”などの出演、俳優/声優としても広く活動中。

www.fakestarusa.com

 

関連記事

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp