The American Dream Vol.1〜アメリカ進出の勧めと現地シーンへのアプローチ方法

 私は日本で約10年間音楽活動した後、2006年にアメリカに拠点を移し、現在では日本の優れたミュージシャン/モデルなどを現地へ派遣する芸能事務所FAKE STAR USAを経営している。そのほかバンドでは、アメリカ3大野外フェスの一つ“Bonnaroo Music and Arts Festival”への出演など、音楽活動も行っている。
 本コラムでは、これまでアメリカで培ってきた自身の経験をもとに、どうしたら日本人アーティストがアメリカのメイン・ストリームで互角に勝負できるのか、そのポイントや戦略などについて、両国の文化や考え方の違いなどを取り上げながら解説していきたい。これからアメリカ進出を考えている日本のミュージシャンや、業界の方々へのヒントとしてお役に立てれば幸いだ。

アメリカへの進出は世界への進出
より広い市場を求めるべき

 そもそも、なぜアメリカへの進出を勧めるのか? それは、“アメリカ進出=世界進出”と言っても過言ではないからだ。なんだかんだ言ってアメリカは現在も世界の音楽市場のトップに君臨しており、USのヒット・チャート上位に入るということは、必然的にヨーロッパ諸国やブラジル、カナダ、メキシコなど世界各国のチャートにもランク・インするということを意味するのである。よって、アメリカ進出は確実に自身の市場を拡大し、リスナーを増やすことにつながるのだ。

 

 2つ目の理由は、日本の少子化問題。音楽シーンを支える若者の数が減ってきているため、今後確実に日本の音楽市場は縮小していくだろう。最近、日本の大手音楽事務所の方と話したとき、“今のところ何とか回せている”という言葉を聞いたのだが、私は厳しい状況なのだなあという印象を受けた。この事務所は規模を縮小していくようだ。また、ストリーミング配信の拡大によってCDの売れ行きはますます落ち込み、さらにはスマホ・アプリなどで誰でも簡単に音楽が作れるような時代になっている。これは、小さな市場において競争率がどんどん高くなっているということを表す。こういった状況から脱出するためにも、日本人アーティストはアメリカ進出を狙ってみてほしいと思う。

現地でも十分に通用する
日本のアーティストの音楽

 進出にあたってまず脳裏に浮かぶのは、“日本の音楽はアメリカでも通用するのか?”ということだろう。答えは“YES”。例えばONE OK ROCKやBABYMETAL、ELLEGARDENなどが良い例だ。彼らはアメリカをはじめ世界中にファンが居る。また現在アメリカだけでなく世界各地では、日本アニメを中心としたコンベンションがほぼ毎週のように開催され、アニソンを中心とする多くの日本の音楽が流れている。日本人による現地パフォーマンスには数千人のファンが集まることもよくあり、このことからも日本の音楽はアメリカでも十分通用するポテンシャルを持っていると言えよう。

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日本屈指の人気を誇るロック・バンド、ONE OK ROCK。2007年にデビューして以来、日本武道館や野外スタジアムでの公演、全国アリーナ・ツアーなどを成功させる。海外レーベルとも契約し、2019年2月にはアルバム『Eye of the Storm』を全世界でリリース後、ワールド・ツアーを完遂。またリンキン・パークのマイク・シノダや、エド・シーランとの共演も果たしている

 さらに2019年のアニー賞では、TVアニメ『キャロル&チューズデイ』の総監督=渡辺信一郎氏がベスト・ストーリーボーディング部門にノミネートされ、同作品の音楽も高く評価された。楽曲提供者には、コーネリアスや☆Taku Takahashi、banvox、yahyel、D.A.N.、Cero、Nulbarichなど多くの日本人アーティストが名を連ねている。

 

 しかしながら、日本ではなかなかアメリカ進出に踏み出せないアーティストも見受けられる。最初に考えられる原因は“英語力の欠如”だろう。学校で身に付ける英語力には限界があるのが現実だ。相手がネイティブ圏の英語を話すとなれば、なおさらニュアンスなどの理解に苦しむことになるだろう。読者の中にはアメリカで仕事をした経験のある方も居るだろうが、同国では予定が時間通りに始まらなかったり、注文とは違う機材が届いたり、とにかく日本では考えられないような事態が起こる。こういったとき、大体の日本人は自国のやり方や考え方を押し付けてしまう傾向にあるのだが、それがアメリカ人には好まれず、次の仕事につながらないといったケースが多発している。

 

 しかし、こういった問題は日本とアメリカ間のやりとりを円滑に進めてくれる現地在住の日本人スタッフが居ると回避できることが多い。現に私は、日本人アーティストがアメリカ進出する際の手助けになれればと思い、2016年にFAKE STAR USAを設立した。ありがたいことに、現在では北米だけでなくヨーロッパや南米圏まで事業は拡大している。

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2016年ロサンゼルスにて筆者が設立したFAKE STAR USAのWebサイト。現地在住の日本人とアメリカ人のスタッフを抱え、MIYAVIなどの日本人アーティストやモデルのアメリカ進出を手助けしている。提携しているコンベンションでは、基本的に出演料/交通費/宿泊費/食費はすべて無償とのこと
www.fakestarusa.com

 アメリカ進出にあたってのもう一つの問題は、やはり活動資金だろう。韓国では、BTSやBLACKPINKなどアメリカ進出に積極的なアーティストも多く、彼らがここまで現地で成功できた理由の一つには、国からの資金援助が関係している。実は日本にも助成金システムがあるのだが、これがどうも手続きが細かいのだ。ほかにも資金を集める方法がいろいろとあるのだが、これはまたの機会にでも紹介したい。

英語表記でのSNSプロモーションや
アニメ・ソングのタイアップが鍵

 ここまでの話をまとめると、アメリカ進出には“言語の壁”と“活動資金”の問題をクリアすれば、いつでも可能となる。それでは、次はどのようにアメリカの音楽市場にアプローチすればいいのだろうか? ただ闇雲に行っても仕方がない。そこで一番手っ取り早い方法がSpotifyなどのストリーミング配信を始めたり、SNSの投稿を英語で記載することだろう。まずは自分を知ってもらうために、日本に居ながら英語圏へアプローチできる最善のプロモーション方法とも言える。SNSを通してアメリカのイベント・プロモーターや音楽関係者とつながりを作って行くのもよいだろう。

 

 ほかにも、もしアニメ・ソングのタイアップ曲があれば、現地でのアニメ・コンベンションのゲストとして呼ばれやすくなる。実際に私自身がアメリカで演奏するきっかけとなったのもこれであった。そこで生まれたコネクションを頼りに現地の映画祭/テレビ/フェスなどへ出演する機会をつかむことができたのだ。近年は日本の映画やTVドラマの需要も増えており、これらのタイアップ曲を手掛けるのもよいだろう。ここ数年、アジア人に対する全体的な評価が上がってきているのは確かで、現にアカデミー賞やグラミー賞でも年々アジア人の顔を見る機会が増えているように思う。

 

 しかし覚えておいてほしいのは、これらはただの入り口にしか過ぎないということ。どれだけ日本で売れていても、アメリカでは“ゼロからの挑戦”ということを忘れてはいけないのだ。時代はどんどん変化している。ビジネス・スタイルも時代に柔軟に、かつ合理的に対応していかなければならない。既に“地方から東京へ”の時代から、“日本からアメリカへ、そして世界へ”の時代へと変わっているのだから。

 

浅葉智

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【Profile】ロサンゼルスを拠点に、米国内へ日本の音楽/ファンション業界などにおける優れた人材を派遣する芸能音楽事務所、FAKE STAR USAの代表。1998年からギタリストとして、愛内里菜など国内アーティストのレコーディングに携わる。2006年に渡米後、ドラマへの楽曲提供のほか、米国最大のアニメ・コンベンション“アニメ・エキスポ”や大型フェス“Bonnaroo Music and Arts Festival”などの出演、そのほか俳優/声優として幅広く活動している。

www.fakestarusa.com