The American Dream Vol.3〜日米におけるSNSプロモーションやライブ・ハウスの違いに迫る

 どうすれば日本人アーティストがアメリカのメイン・ストリームで互角に勝負できるのか。そのポイントや戦略などについて、日米の文化や考え方の違いなどを取り上げながら解説していく本コラム。先月はグローバル化する音楽シーンに関してお話ししたが、今回はそんな中でのSNSを使ったプロモーション方法、そして日米のライブ・ハウスの違いなどについて触れてみよう。

ファンによる撮影がOKなアメリカのコンサート事情

 グローバル化する音楽シーンでは、もはやSNSを使ったプロモーションが必要不可欠だろう。従来は費用を払って雑誌やテレビ、屋外にある大型ビジョンなどで宣伝するのが主流となっていたが、近年ではTikTok/Twitter/Instagram/Facebookなどでのプロモーションに力を入れるアーティストも増えている。SNSを使えば、フォロワーをたくさん持つアカウント=インフルエンサーが投稿/拡散することで、一度に何千、何万人に宣伝ができるからだ。

 

 こういったSNSを使ったプロモーション方法を日本以上にうまく利用しているのが、アメリカの音楽シーンだろう。日本では、一般のファンがアーティストのライブやコンサートを撮影するのはNGな場合が多いが、これはアメリカではとても珍しい。アメリカではファンによるカメラやスマートフォンを使ったコンサート写真や動画の撮影はOKで、それらはすぐにSNSを通して世界中に拡散されている。そして、ファンたちによるSNS投稿が一つ一つ重なれば、アーティストの認知度が高まるだけでなく、それは新しいファンを獲得する機会にもつながるだろう。

 

 また、コンサート会場での“撮影OK”はファンたちの欲求を満たせる上、彼らの投稿によってアーティストの魅力が広まるので、アメリカに居るアーティスト本人はもちろん、音楽事務所もとてもメリットになると考えている。

 

 さらにSNS上では、ファンがアーティストのオフィシャル・アカウントをタグ付けすることも可能だ。アーティスト本人がそれを見て“いいね”を押したり、リポストする場合もあるので、ファンはアーティストをもっと応援したい気持ちになるだろう。

 

 ほかに日本とアメリカのプロモーションで異なることと言えば、アメリカではコンサートの前後に特別なファンのみがアーティストと近くで会うことができる、“VIPイベント”が開催されること。ここでもファンは、アーティストとの個人撮影やSNSへのシェアが許されている。

 

 日本ではインストア・イベントがよく行われているが、アメリカでは国土面積が広く、各都市への移動時間が日本よりも長いため、簡単にそれを行うことが難しい。よって、コンサートで現地へ訪れるタイミングでVIPイベントを行い、熱心なファンたちとの交流の機会を作ることが大切なのである。

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あるコンサート会場で演奏するアーティストのステージ風景を、デジタル・カメラやスマートフォンで撮影するファンたち。アメリカではファンによるSNS投稿がアーティストの認知度を高めると考えるため、アーティストや音楽事務所はそれをプロモーションに活用している
撮影:筆者

アメリカのライブ・ハウスには置いていない
ギター/ベース・アンプやドラム・セット

 アメリカと日本のライブ・ハウスの違いについても触れてみたい。ここで言うライブ・ハウスとは、大きなコンサート・ホールやスタジアムではなく、数百人を収容するイベント会場のことを指す。まず、アメリカと比べて日本のライブ・ハウスは素晴らしい。なぜならミュージシャンは最低限の音響/照明設備はもちろん、ギター/ベース・アンプ、ドラム・セットまで利用できるからだ。また私が日本で音楽活動をしていたときは、どのライブ・ハウスでも事前に音源やセット・リストをPAや照明スタッフへ渡しておけば、彼らはほぼ完ぺきに曲を把握してオペレーションしてくれた。このように、日本ではお金の無い若手ミュージシャンでも、ある程度のライブ活動が行える環境が整っているのだ。また日本のライブ・ハウスのスタッフには、基本的に“タイム・テーブル通りに進めよう”という意識があるように思える。

 

 一方アメリカのほとんどのライブ・ハウスには、アンプはもちろんドラム・セットも無い。従って、それらの購入資金とライブ会場までの運送費用は出演者の負担となるのだ。そのためなのか、土地柄で異なる場合もあるが、アメリカのライブ・ハウスで演奏しているミュージシャンは大体30歳以上の人たちが多い。またタイム・テーブルが時間通りに進まないことはよくあり、イベントによってはヘッド・ライナー以外のサウンド・チェックが行われない場合もある。

 

 アメリカのライブ・ハウスの良い点を挙げるとすれば、チケット代が約1,000円〜と日本と比べて安いことだろう。主な理由は、バーでの収益をメインに営業しているところがほどんどだから。そしてバーテンダーたちの収入源は、労働賃金のほかにチップもあるため、日本のようにチケット代を高く設定する必要もない。

 

 ちなみに日本ではチケット代と別で、入場時に1ドリンク分の料金を払うシステムがあるが、アメリカではそれも無いのだ。また“ライブ=アルコールは必要不可欠”という考え方が一般的なため、ライブ・ハウスに入場できるのは基本的にアメリカでは21歳以上となっている。

 

筆者がアメリカに来て必要だと感じた“3つのA”とは

 それではアメリカに住む21歳以下のアーティストは、どこでライブをしているのだろうか? 答えはホーム・パーティである。アメリカのドラマなどで登場するかと思うが、アメリカの若者たちは週末によく友達の家でパーティを開く。そしてアメリカの家は日本と比べて大きく、車庫も広いため、お金持ちの家ではドラム・セットやアンプをガレージに設置し、そこでバンド練習やライブをすることが多いのだ。これが俗に言う“ガレージ・バンド”なのである。

 

 ここまで日米におけるライブ・ハウスの違いを述べてきたが、分かりやすく言うと、日本はライブそのものを楽しむことに、アメリカはお酒と音楽の両方を楽しむことにフォーカスしているように感じる。また演奏者の視点では、日本のライブ・ハウスは練習の成果を“発表する場”、アメリカではその空間に居る人たちと共に“パーティする場”という傾向がある。このように、ライブに対する考え方や環境の違いをしっかりと心得ていれば、日本のアーティストがアメリカでパフォーマンスする際に行うべき準備や対策が十分可能となるだろう。

 

 最後に、日本人である私がアメリカに来て必要だと感じた“3つのA”についてお伝えしたい。1つ目のAは“Accept”で、文化や考え方の違いを受け入れること。2つ目のAは“Adapt”で、自分自身の価値観を環境に応じて調整することだ。最後のAは“Accommodate”。これは現地の状況に柔軟に対応して行動することである。これら3つのAを肝に銘じておけば、アメリカだけでなく世界中のいかなる国でも現地に根付いた音楽活動が行えるだろう。

 

 アメリカ・ツアーを経験した日本のアーティストが一回りも二回りも大きく成長して帰国するのは、アメリカという異国を体感し、そこでしか得られない貴重な経験をしたからかもしれない。その経験は後に日米にとって、音楽シーンを成長させる糧になるのは間違いないだろう。

 

浅葉智

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【Profile】ロサンゼルスを拠点に、米国内へ日本の音楽/ファッション業界などにおける優れた人材を派遣する芸能音楽事務所、FAKE STAR USAの代表。1998年からギタリストとして、愛内里菜など国内アーティストのレコーディングに携わる。2006年に渡米後、ドラマへの楽曲提供のほか、米国最大のアニメ・コンベンション“アニメ・エキスポ”や大型フェス“Bonnaroo Music and Arts Festival”などの出演、そのほか俳優/声優として幅広く活動している。

www.fakestarusa.com

 

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