第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。D.O.I.氏の今月のセレクトは、ロスタム『Unfold You』、マシン・ガン・ケリー『Bloody Valentine』です。
懐かしさを感じる
ジャズを下敷きにしたビンテージ・ポップス
佐々木俊尚『時間とテクノロジー』(光文社)を読んでいると、郷愁や記憶といったことについて考えさせられます。例えば20代の方がリアルタイムで経験したことが無いシティ・ポップを聴いて、その質感やアレンジなどから郷愁めいた感覚になるなど“自分の記憶とは結び付かなくても、懐かしいという感情だけは喚起される”といったことは興味深いです。
ヴァンパイア・ウィークエンドの元メンバーであるロスタムのシングル「Unfold You」は、ジャズを下敷きにしたビンテージ・ポップスで懐かしさを感じる楽曲。ローファイ感のあるドラムやテナー・サックスの質感、そして空間処理多めなボーカルの浮遊感がそういった気持ちにさせるのだと思います。一方でメロディは古臭くないため、非常に良い“古新しいバランス”になっています。オリジナリティも感じられて、素晴らしいと思いました。
1980年代的な若々しい勢いを感じる
往年のパンク/ニューウェーブ路線のバンド・アレンジ
ここ数年のアメリカにおいて、ロックというジャンルは低迷してきたと思います。ヒット・チャートに登場するほとんどがヒップホップかダンス・ミュージックで、わずかなバンドもアレンジはバンド然としていない印象が強いです。
そんな中、カウンター的に現れたのがマシン・ガン・ケリー。シングル「Bloody Valentine」は、往年のパンク/ニューウェーブ路線のストレートなバンド・アレンジで、1980年代的な若々しい勢いを感じます。周りに無い方向性を、勇気を持って提示することは素晴らしいですし、センスも良いです。
D.O.I.
【Profile】Daimonion Recordingsを拠点に活動するエンジニア。ヒップホップを中心としながらも、さまざまなプロダクションに参加している
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