The American Dream Vol.5〜コロナ禍でもできる! 音楽家のクラウドファンディング活用法

 日本人アーティストがアメリカのメインストリームで互角に勝負できるようになる秘けつを、日米の文化や考え方の違いなどを例に取り上げながら解説していく本コラム。今回は、コロナ禍でもできるWebサービスでの音楽活動/資金調達法についてお伝えしていこう。

クラウドファンディングを有効活用する
アメリカのメジャー・アーティストたち

 まずは近年、日本でもよく聞くようになったクラウドファンディング(crowdfunding)。この言葉は、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語である。インターネットを通して自分の夢や目標などを公言し、それに共感する人たちから資金を集める仕組みのことである。

 

 インターネットの普及により、2000年代からアメリカでクラウドファンディングの先駆けとなるWebサービスが続々と登場し、現在ではIndiegogoやKickstarterなどが主なクラウドファンディング企業に成長。アメリカやイギリスでは、こういったクラウドファンディングは“一般的な資金集めの方法”として近年認知されてきている。

 

 クラウドファンディングを行う側のメリットは、熱意と計画があれば誰でも資金調達ができること。また自分の夢や目標のPRにもつながる。支援者との応援メッセージなどを通して交流も深まるし、アーティストの場合はファンの獲得にもつながるだろう。

 

 一方、資金を提供する支援者側のメリットは、そのプロジェクトの達成に貢献したという満足感を得られること。場合によっては、プロジェクトに関連する物やサービスを優遇できるといったリターンもあるようだ。

 

 アメリカの音楽シーンにおいてクラウドファンディングを活用したのは、ロック・バンドのピクシーズ、R&BグループのTLC、女性ミュージシャンのアマンダ・パーマーなどが挙げられる。このように多くのメジャー・アーティストがクラウドファンディングを利用し、資金調達に成功しているのだ。

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1990年代に人気を博したアメリカの女性R&BグループTLCは、最終リリースとなる5thアルバムの制作資金をクラウドファンディング・サービスKickstarterで募集。2015年1月19日から2月20日までのわずか31日間に、4,201人の支援者から約4,545万円の資金調達に成功した

 

 支援者のほとんどはアーティストのファンで、彼らへのリターンは支援金額に応じて幾つかの段階に分かれている。例えば、楽曲のフリー・ダウンロード・パスからVIPパーティへの参加権までさまざまだ。ファンにとっても、これまでのように“ただCDを買ってコンサートに行くだけ”ではなく、“アーティストを直接的にサポートしている感じ”がよいのだそう。中には、クラウドファンディングでファン同士のチームワークが強化する、という話もあるようだ。

 

 それでは、日本の音楽/エンターテインメント・シーンはどうだろうか? 実際にクラウドファンディングははやりつつあるが、まだまだ“資金調達=嫌らしい/媚びている/恥ずかしい”というイメージも強く、メジャー・アーティストは気軽に手を出せていないのが現状だろう。

 

クラウドファンディングを成功させるために
一番大切なこととは?

 ここで一つ、筆者が実際に体験した例をお話ししよう。以前、弊社ではとある日本人バンドのアメリカ・ツアー実施にあたって、Kickstarterを利用したことがあった。そのバンドのSNSは英語にも対応していたため、ツアーが可能になるほどの資金を無事に世界中から集めることができたのだ。

 

 しかし、アメリカ・ツアー初日になんと車上荒らしに合い、機材や物販が盗まれてしまったのである! 完全にツアー中止かと思われたが、継続を願うメンバー/スタッフの強い思いからクラウドファンディング・サービスのGoFundMeで寄付金を募ることに。その結果、集まった資金で幸運にもツアーを再開でき、しかも予想以上の反響で成功に終わったのだ。このケースはまれかもしれないが、こういったこともクラウドファンディングは可能にしてくれるのだということを、身をもって体験した瞬間であった。また本件以降、バンド/スタッフ/ファンの絆がより深まったように思う。ちなみにこの話は前回お伝えした、アーティストの失敗や成功の過程を“ストーリーとしてファンと共有することが大切だ”という話につながってくるので、ぜひ読んでみてほしい。

www.snrec.jp

 

 このようにクラウドファンディングにおいては、どのような人がどのような理由で支援を求めているのか、その背景を含めたストーリーをしっかり伝えることが成功の秘けつだろう。どのような人をあなたは応援したくなるだろうか? 一度考えてみてほしい。

 

ミュージシャンから人気を集める
サブスクリプション制クラウドファンディング

 アメリカではライブ・ストリーミング配信サービスTwitchでの投げ銭システムを利用するアーティストが増えている。日本でもYouTubeのライブ配信やツイキャスでの投げ銭システムが好評だと聞く。コロナ禍でライブやイベントの規制がまだある中、今後も音楽活動を継続していくには、やはりこういった“ストリーミング配信”は見逃せないトピックだ。

 

 そのほか、現在日本では月額会員制のオンライン・サロンがブームだが、アメリカでもここ数年Ko-fiやOnlyFansなどサブスクリプションを導入したファン・クラブ的なWebサービスが注目されている。

 

 中でもミュージシャンに人気なのは、2013年設立のサブスクリプション制のクラウドファンディング・サービス、Patreon。設立者の一人はミュージシャンということもあり、音楽家や芸術家などクリエイティブなユーザーが多いのが特徴だ。グラミーを3度受賞したアカペラ・グループのペンタトニックスも、Patreonで寄付を募っている。

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ミュージシャンなどクリエイター向けのクラウドファンディング・サービス、Patreon。クリエイターは自身の支援者から定期的に、または作品ごとに寄付を募ることが可能だ。本社はサンフランシスコにあり、2013年にミュージシャンのジャック・コンテと技術者のサム・ヤムが設立した

www.patreon.com

 

 サブスクリプション制のメリットは、一時的ではなく継続的な支援というところ。これは無名のクリエイターにとってはありがたいだろう。例えばある漫画家が作品を出版社に持ち込み、採用されて本が発売される。本の売れ行き次第では将来的に生活に困る可能性も出てくるかもしれない。しかしPatreonでは、支援者がいる限りある程度の安定収入を得ながら創作活動を続けられるのである。

 

 なお、現時点でPatreonは英語版でのみ利用可能である。アメリカはもちろん世界を視野に入れて活動していくのであれば、ぜひ試していただきたい。

 

 世界のビジネス形態が急速にデジタル化していく中、新しいサービスに対しての柔軟な対応力や瞬発的な判断力、先見的な嗅覚が必要になってくるだろう。まずは頭を柔らかく、腰を軽くし、子供のような好奇心でトライしてみてはいかがだろうか? 体験しなければ何も分からないのだから。

 

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浅葉智

【Profile】ロサンゼルスを拠点に、米国内へ日本の音楽/ファッション業界などにおける優れた人材を派遣する芸能音楽事務所、FAKE STAR USAの代表。1998年からギタリストとして、愛内里菜など国内アーティストのレコーディングに携わる。2006年に渡米後、ドラマへの楽曲提供のほか、米国最大のアニメ・コンベンション“アニメ・エキスポ”や大型フェス“Bonnaroo Music and Arts Festival”などの出演、そのほか俳優/声優として幅広く活動している。

www.fakestarusa.com

 

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