どうすれば日本人アーティストがアメリカのメイン・ストリームで互角に勝負できるのか。そのポイントや戦略などについて、両国の文化や考え方の違いなどを取り上げながら解説していく本コラム。第2回では、グローバル化する社会や音楽シーンの中で求められる対応策、改善すべきところなどについて話していきたい。
音楽は“所有”するものから“共有”するものへ
“買われた枚数”から“聴かれた回数”へと変化
近年、ようやく日本社会において“グローバル化”を感じてきた人は少なくないだろう。しかし、日本は島国ということもあり、世界から見るとかなりの遅れを取っているということに気付いていない。多民族国家であり、世界でもいち早くグローバル化社会をけん引してきたアメリカと比べ、日本は島国のためか閉鎖的になりがちな傾向がある。
このグローバル化する社会の動きは、日本の音楽ビジネス界でも大きな変化をもたらしている。1990年代にはCD販売を中心とした“パッケージ・ビジネス”で、レコード会社は売上を大きく伸ばしたが、インターネットが発達してきた2000年代に入ると下り坂に。違法ダウンロードによる楽曲データの権利侵害も大きな問題となった。
そこでより合法的かつ便利な音楽サービスの提供によってこういった問題を解決するため、2006年にスウェーデンでSPOTIFY TECHNOLOGYが誕生。2008年から音楽ストリーミング配信サービスSpotifyがスタートした。これを皮切りに、音楽は“所有”するものから“共有”するものへ、あるいは“買われた枚数”から“聴かれた回数”へと徐々に変わっていったのだ。世界の音楽ビジネス・スタイルは、インターネットを活用した新しいマネタイズ・システムを取り入れたのである。
アメリカ・レコード協会(Recording Industry Association of America)の調査によると、2009年にはアメリカでの音楽ストリーミング配信サービスの売上は5%だったが、2019年には79%にまで拡大したという。これは、スマートフォンの進化と普及も大きくかかわっているのだろう。
このようにアメリカを中心とした音楽市場は、時を経るにつれて新しい音楽ビジネス形態へと変化。日本ではCD販売を重要視する一部の企業が反発することもあったが、2016年には国内でもSpotifyがスタートした。2020年の6月時点では大手レコード会社のほとんどが、SpotifyやApple Music、YouTube Music、Amazon Musicなどの各音楽ストリーミング配信サービスに対応しているが、今後ますますこういった新しいサービスに順応できる、柔軟な姿勢が求められることだろう。
幾つかの日本の音楽事務所は
海外の印税収入に手を付けていない
インターネットを介した音楽ビジネスという意味では、これは単純にグローバル化ということなり、国内市場から世界市場に参入するということになる。すなわち、ここでは英語や中国語、スペイン語などの語学力があるとよい。新しいリスナー獲得には外国語を使ったプロモーションも必須になってくるし、インターネット検索への対応を考えると、アーティスト名/曲名は英語などでの表記統一化が望ましい。
日本で配信されているYouTube動画に関して言うと、中には権利問題を理由に国内のみでしか閲覧できないようなものもあり、“なぜせっかくのチャンスを無くしているのか……”と疑問が湧くことがある。アーティストの音楽に触れる機会を少しでもリスナーに提供した方が将来につながる可能性があるし、何より市場自体を拡大できる。現代におけるこのような保守的な考え方は、今後の日本の音楽産業にダメージを与える可能性が高いと言えるだろう。
“権利問題”と言えば、これは海外におけるライセンシング獲得の話にもつながる。近年アメリカでは、スマートフォンで手軽にポッドキャストや音楽ストリーミング配信サービスが楽しめるアプリケーション、Pandoraが人気だ。日本の音楽はここでも聴くことが可能であり、もちろんロイヤリティが発生している。しかし多くの日本の音楽事務所やアーティストは、ここで発生する印税収入に手を付けていないケースが多い。英語での対応になるのでよく分からないところも多いのかもしれないが、やはり現地の代行会社などを使えば十分に改善できる余地があるのだ。
IT周りの状況も把握しつつ対策を練ることが
グローバル化する音楽シーンで生き残る道
またSNSを使ったプロモーションなど、現代には欠かせない“音楽×IT”というビジネス・スタイルについても考えてみたい。“IT業界の中心はアメリカ”と言っても過言ではない。それは、トップ企業の多くがアメリカに拠点を置いていることからも説明できる。ITビッグ・ファイブと言われるGAFMA(GOOGLE/APPLE/FACEBOOK/MICROSOFT/AMAZON)のほか、Twitter、IBM、Yahooなど名のあるIT企業のほとんどがアメリカに集まっている。今後もアメリカの音楽シーンのみならず、IT業界の動きにもアンテナを張りつつ対策を練ることが、グローバル化する音楽シーンで生き残る道なのだろう。分からないことには手を付けないのではなく、現地の専門家に任せればいいのだ。
グローバル化にあたって求められることはここに述べたようなことになるが、“鎖国的”な考えを捨てろと言っているのではないので誤解しないでいただきたい。日本のオリジナリティや良い部分は残しつつ、“開国的”な考えを取り入れることが大切になってくる。このことが、今後の日本の音楽業界やアーティストにとって、アメリカまたは世界での成功へとつながるのだから。
浅葉智
【Profile】ロサンゼルスを拠点に、米国内へ日本の音楽/ファンション業界などにおける優れた人材を派遣する芸能音楽事務所、FAKE STAR USAの代表。1998年からギタリストとして、愛内里菜など国内アーティストのレコーディングに携わる。2006年に渡米後、ドラマへの楽曲提供のほか、米国最大のアニメ・コンベンション“アニメ・エキスポ”や大型フェス“Bonnaroo Music and Arts Festival”などの出演、そのほか俳優/声優として幅広く活動している。
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