第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。小泉由香氏の今月のセレクトは、シルク・ソニック『アン・イヴニング・ウィズ・シルク・ソニック』、ロバート・プラント&アリソン・クラウス『Raise The Roof』です。
録音レベルに余裕を残した優しい仕上がり
シルク・ソニックは、ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークによるプロジェクトで、そのデビュー・アルバムが発売されました。主にブルーノ・マーズとD・エミールの共同プロデュースで、ミックスはサーバン・ゲネアが担当しています。このアルバムはアナログ・テープ・レコーダー全盛期のテープを通したように、なだらかに丸められたハイ/ローエンドの音色と、録音レベルに余裕を残して聴感レベルが大き過ぎないようにした優しい仕上がりが特徴です。1970年代のスウィート・ソウルを現代に再現した感じなので、再生音量を上げても痛くないハートフルな音楽を、大音量でも楽しんでみてください。
そこに居る感がとても強く生々しい
ロバート・プラント&アリソン・クラウスが、14年ぶりにアルバムをリリースしました。前作『レイジング・サンド』からの続投で、プロデューサーに巨匠T・ボーン・バーネット、ミックスはマイク・ピエルサンテが担当。エフェクト処理の薄い2人の歌が前面に居て、周りを豪華なミュージシャン(ビル・フリーゼル、マーク・リボー、ジェイ・ベルローズなど)がエッジの効いた音色と演奏で囲んでいます。過剰なエフェクトや空間処理がほぼ無いこのプロジェクトは、肉厚でローエンドも自然な伸びをしているのに、音像も演奏もクッキリしていて“そこに居る感”がとても強い。生々しい楽器の音と演奏によるいぶし銀のうまさが堪能できます。今回は無理やり感の無い、楽しく癒し効果もある2枚をご紹介しました!
小泉由香
【Profile】マスタリング・スタジオ、オレンジ主宰。音楽愛に裏付けられた丁寧な仕事で信頼が厚い、日本を代表するマスタリング・エンジニア