トニー・ベネット&レディー・ガガ『ラヴ・フォー・セール』、V.A.『ベスト・オブ・ボンド』 〜小泉由香's ディスク・レビュー

 第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。小泉由香氏の今月のセレクトは、トニー・ベネット&レディー・ガガ『ラヴ・フォー・セール』、V.A.『ベスト・オブ・ボンド』 です。

曲を飛ばさずに聴くと一層味わい深い作品

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トニー・ベネット&レディー・ガガ『ラヴ・フォー・セール』(ユニバーサル)

 トニー・ベネット&レディー・ガガ名義でファースト・ジャズ・アルバムを発表してから早7年。待望の2作目は、コール・ポーターの楽曲で2人の世界観を表現しています。前作『チーク・トゥ・チーク』同様、トニー・ベネットの息子であるダエ・ベネットがプロデュース/エンジニアを担当。オーケストラやビッグ・バンドの前で歌っているのが目に見えるバランスは、ハイエンドとローエンドを強調し過ぎないレトロ感に加え、今どきの抜け感も保った落としどころが見事です。曲によってオケの編成が変わるので、曲を飛ばさずに流れで聴くと味わいが一層深くなります。このアルバム発売を記念して行われた8月5日のニューヨーク・ライブが、トニー・ベネット最後のステージ活動となりました。

『007』を軸にアーティストごとの違いを楽しめる

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V.A.『ベスト・オブ・ボンド』(ユニバーサル)

 世界的パンデミックによりたくさんの映画が公開延期されましたが、今秋やっと『007』シリーズの最新作がスクリーンに戻ってきました。その公開に合わせてリリースされたベスト盤です。2枚組で全26曲が収められたアルバムは、1960年代の作品からビリー・アイリッシュが歌う最新曲「ノー・タイム・トゥ・ダイ」まで盛りだくさん。聴感レベルは今どきになっていますが、その時代の音質や『007』というくくりの中でのアーティストごとの違いがとても面白いです。テーマ曲は基本オーケストラをバックしつつ、各アーティストに寄せたスタイルになっている点も大いに楽しめますよ。今回は生楽器で大きな編成のアルバムを選んでみました!

 

小泉由香

【Profile】マスタリング・スタジオ、オレンジ主宰。音楽愛に裏付けられた丁寧な仕事で信頼が厚い、日本を代表するマスタリング・エンジニア