オリヴィア・ロドリゴ『サワー』、マルーン5『ジョーディ』 〜マスタリング・エンジニア小泉由香's ディスク・レビュー

 第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。小泉由香氏の今月のセレクトは、オリヴィア・ロドリゴ『サワー』、マルーン5『ジョーディ』です。

全体的にアナログ感のある温かい音質が
みずみずしい彼女の音楽をよりよく表現

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オリヴィア・ロドリゴ『サワー』(ユニバーサル)

 オリヴィア・ロドリゴは弱冠17歳ですが、俳優としてディズニー・ミュージカルの主役を務めた実力派。その彼女が今年1月、シンガー・ソングライターとしてシングル「ドライバーズ・ライセンス」を発表し大きな話題となりました。このデビュー・アルバムはシングルに引き続きプロデューサーにダン・ニグロ、ミックス・エンジニアはミッチ・マッカーシーを起用して制作。オリヴィアの歌が中心のバランスは、歌の邪魔をしない低音部分を保ちながら、ロックでは歌が少し奥に、バラードでは歌が前に来るなど、楽曲による変化が楽しいです。全体的にアナログ感のある温かい音質が、みずみずしい彼女の音楽をよりよく表現しています。

 

シンプルでありながら音像のオン/オフのバランス感覚
音域のすみ分けと音質感など勉強になる作品

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マルーン5『ジョーディ』(ユニバーサル)

 マルーン5の4年ぶり7枚目のアルバムは、急逝した彼らの幼なじみでもありマネージャーだったジョーダン・フェルドスタインの通称がタイトルの作品です。プロデューサー陣はアンドリュー・ゴールドスタインやザ・モンスターズ・アンド・ザ・ストレンジャーズなどで、ミックスはサーバン・ゲネアが担当。歌は多少エフェクトされていても前面にいて肉付きがあり、強めのキックとベースがグルーブを支えています。さらに浮遊感を持たせたギターとシンセやコーラスが飛び道具的に音場を行き来して、楽曲の世界観を構築します。両作品ともに、最近のシンプルでありながら音像のオンとオフのバランス感覚、音域のすみ分けと音質感や聴感レベルの持っていき方など、とても勉強になりました。

 

小泉由香

【Profile】マスタリング・スタジオ、オレンジ主宰。音楽愛に裏付けられた丁寧な仕事で信頼が厚い、日本を代表するマスタリング・エンジニア