第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。小泉由香氏の今月のセレクトは、ザ・ホワイト・ストライプス『ザ・ホワイト・ストライプス・グレイテスト・ヒッツ』、シーア『ミュージック』です。
生々しく近い音像のギター/ドラム/ボーカル
10年前とは思えない太くて“ガツン”とくるロックな1枚
ザ・ホワイト・ストライプスは、ジャック・ホワイトとメグ・ホワイトによるロック・デュオ・バンドです。バンドは2011年に惜しくも解散となりましたが、ジャック・ホワイトは現在もソロとして活躍しています。そんな彼らのベスト・アルバムが初めてリリースされました。26曲を1枚に収めており、クラシック並みの81分超え大容量アルバムになっています。
CDの収録レベルは、デジタル・メーターで見るとピークがー6dBの曲もあり、決して高くはありません。しかし生々しく近い音像のギター/ドラム/ボーカルは、音の抜けや存在感から聴感レベルが大きく聴こえます。10年前とはとても思えない、太くて“ガツン”とくるロックな1枚ですよ。
映画の場面展開のように楽曲が変化するだけでなく
曲中でも音場が変化していく
シーアの今作は、自身の監督デビュー作である映画『MUSIC』からのインスピレーション・アルバムです。プロデューサー陣はジャック・アントノフ、グレッグ・カースティン、デヴィッド・ゲッタ、ジェシー・シャトキンなどとても豪華です。ミックス・エンジニアはサーバン・ゲネアが担当しています。
アルバム『ミュージック』はまるで映画の場面展開のように、楽曲が変化するだけでなく、曲中でも音場が変化していきます。シーアのボーカルが中心となっているミックスは変わりませんが、前面に張り付くものや音場を広げたり浮遊感を持たせたりと、1枚のアルバムとしてまとめるのは大変だったかと思われます。個人的にはもう少し入れ込むレベルを下げると変化が分かりやすかったかな?と思いました。
小泉由香
【Profile】マスタリング・スタジオ、オレンジ主宰。音楽愛に裏付けられた丁寧な仕事で信頼が厚い、日本を代表するマスタリング・エンジニア