第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。小泉由香氏の今月のセレクトは、フー・ファイターズ『メディスン・アット・ミッドナイト』、コモン『美しき革命-Pt.1』です。
程良い重さや湿度感、歌とオケの距離感などが気持ちよく
何度もリピートしてしまうアルバム
結成25周年を迎えたフー・ファイターズが、通算10枚目のアルバムをリリース。前作『コンクリート・アンド・ゴールド』と同様、グレッグ・カースティンとの共同プロデュースで、ミックス・エンジニアはマーク“スパイク”ステントが担当しています。
昨今はロック・バンドも歌の大きい曲が主流ですが、これは歌がオケより半歩下がったバランス。デイヴ・グロールのボーカルにリバーブをかけたり、女性コーラスを入れたりと、1980~90年代のポップ・ロックとグランジの良いところ取りをした、今までとは一味違うキャッチーさが魅力です。全長36分ほどの作品ですが、ロック・バンドらしい程良い重さや湿度感、歌とオケの距離感などが気持ちよく、何度もリピートしてしまうアルバムです!
コモンのラップとすみ分けの効いた太めのリズムは
ゲスト・ボーカルとの距離感を変えて各楽曲の熱量を面白く変化
コモンの13枚目のアルバムは、ジャズ・ドラマーでヒップホップ・プロデューサーでもあるカリーム・リギンスがメイン・プロデュースを務め、ミックス・エンジニアにはマニー・マロクィンを起用。コモンのラップとすみ分けの効いた太めのリズムは、登場するゲスト・ボーカルとの距離感を変えることで、各楽曲の熱量を面白く変化させています。
今作は“人種/社会的不公平の解決への鼓舞”という意図を、音楽に昇華させた作品。ラップ部分はもちろん、音場や音色でも感情の動きを表現しているため、ぜひ最初から順番に聴いてほしいと思います。ゲストはスティーヴィー・ワンダー、レニー・クラヴィッツ、ロバート・グラスパーなどとても豪華ですよ。
小泉由香
【Profile】マスタリング・スタジオ、オレンジ主宰。音楽愛に裏付けられた丁寧な仕事で信頼が厚い、日本を代表するマスタリング・エンジニア