クリス・コーネル『ノー・ワン・シングス・ライク・ユー・エニモア』、モグワイ『アズ・ザ・ラヴ・コンティニューズ』 〜マスタリング・エンジニア小泉由香's ディスク・レビュー

 第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。小泉由香氏の今月のセレクトは、クリス・コーネル『ノー・ワン・シングス・ライク・ユー・エニモア』、モグワイ『アズ・ザ・ラヴ・コンティニューズ』です。

センターで生々しく響く独特なハスキー・ボイスを
アナログ感ある楽器パートがセパレーションを保ち支える

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クリス・コーネル『ノー・ワン・シングス・ライク・ユー・エニモア』(ユニバーサル)

 クリス・コーネルはボーカリストとしてサウンドガーデンやオーディオスレイヴで活躍後、ソロでも精力的な活動をしてきました。惜しくも2017年5月に他界してしまいますが、生前に録音された彼の最後のアルバムが本作。プロデューサー兼ミックス・エンジニアは、バンド時代から縁の深いブレンダン・オブライエンが担当。

 CDの内容はジャニス・ジョプリンやジョン・レノンなど、本人が影響を受けた楽曲のカバーを収録。独特なハスキー・ボイスがセンターで生々しく響き、それを囲むように本人やオブライエンの演奏する各パートがセパレーションを保ちつつ支えています。楽器の音にはアナログ感があるのも特徴。オリジナルより少しオルタナっぽいアレンジなので、初めて知る方も楽しく聴けるでしょう。

 

ひずみそうなパートがあってもひずまない
エンジニアなら手に汗握るさすがのコントロール感覚

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モグワイ『アズ・ザ・ラヴ・コンティニューズ』(ビッグ・ナッシング / ウルトラ・ヴァイヴ)

 モグワイの10thアルバムは、プロデューサー兼ミックス・エンジニアにロック界の巨匠デイヴ・フリッドマンを起用して制作されました。フリッドマンの居るアメリカでレコーディングを行う予定でしたが、コロナ禍のためイングランドへ変更になったようです。

 その影響が多少あるのか、いつもより音質がちょっとだけ温かめな気がします。ずっと轟音ではなく、静かな部分もある“侘び寂び”が特徴の彼ら。ゴーッと鳴っているときにひずみそうなパートがあってもおかしくないですが、ひずみそうでひずみません。エンジニアなら手に汗握るコントロール感覚はさすが(笑)。とはいえ轟音なので、モニター音量には気を付けながら聴いてみてください。

 

小泉由香

【Profile】マスタリング・スタジオ、オレンジ主宰。音楽愛に裏付けられた丁寧な仕事で信頼が厚い、日本を代表するマスタリング・エンジニア