ジョン・メイヤー『ソブ・ロック』、ビリー・アイリッシュ『ハピアー・ザン・エヴァー』 〜小泉由香's ディスク・レビュー

 第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。小泉由香氏の今月のセレクトは、ジョン・メイヤー『ソブ・ロック』、ビリー・アイリッシュ『ハピアー・ザン・エヴァー』です。

強調し過ぎず絶妙に抜け感のあるサウンド

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ジョン・メイヤー『ソブ・ロック』(ソニー)

 ジョン・メイヤーが、8枚目のアルバムをリリースしました。今作は名プロデューサーであるドン・ウォズとの共同プロデュースで、ミックス・エンジニアにマーク“スパイク”ステントを起用しています。アルバム・ジャケットからも感じられますが、1980年代の雰囲気漂う楽曲が満載です。各パートの音像は高域~低域まで強調し過ぎずにスッと縦に伸びているのですが、音の芯や肉付きがとても豊かにキープされています。耳に付く音色も少ないので人によっては丸く感じるかもしれませんが、エンジニア的には絶妙な抜け感。曲はもちろん、音源やエフェクトなども1980年代の流行をさらっと取り入れているのがさすがです!

メーター上オーバーなどチャンレンジを感じる作品

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ビリー・アイリッシュ『ハピアー・ザン・エヴァー』(ユニバーサル)

 ビリー・アイリッシュ2枚目のアルバムは、デビュー・アルバム『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』と同じく実兄のフィネアス・オコネルがプロデュースし、ミックス・エンジニアはロブ・キネルスキーが担当。前面に居るアイリッシュの歌が、少しドライな処理や深いリバーブで表情を変えていきます。一方オケはサステインが長く音圧のあるベースやバスドラが土台を支え、その上に浮遊感のあるシンセやアコースティック・ギターを乗せて曲が展開されるような作りです。メーター上ではオーバーがずっと点灯している曲もあるため、もう少しレベルを下げた余裕のあるものを聴いてみたい気もしますが、制作側の狙いもあるので一つのチャレンジとして受け止めています。

 

小泉由香

【Profile】マスタリング・スタジオ、オレンジ主宰。音楽愛に裏付けられた丁寧な仕事で信頼が厚い、日本を代表するマスタリング・エンジニア