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ダイアナ・ロス『サンキュー』、コールドプレイ『ミュージック・オブ・ザ・スフィアーズ』 〜小泉由香's ディスク・レビュー

 第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。小泉由香氏の今月のセレクトは、ダイアナ・ロス『サンキュー』、コールドプレイ『ミュージック・オブ・ザ・スフィアーズ』 です。

声をエフェクトのように使う攻めた仕上がり

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ダイアナ・ロス『サンキュー』(ユニバーサル)

 ダイアナ・ロスが22年ぶりにアルバムを発表! プロデューサーにはトロイ・ミラー、トライアングル・パーク、ジャック・アントノフと、ヒット・チャートには必ず名を連ねる売れっ子陣を起用。ミックスはマーク“スパイク”ステントが担当しています。全体的には割とソリッドでレベルも入れている今どき仕様。ダイアナ・ロス独特の声と息の混ざった硬質な部分が一種のエフェクトのように使われているなど、攻めた仕上がりになっています。個人的には、もう2dBくらい入れるレベルを下げた、ちょっと余裕を残した優しい上がりも聴いてみたい気がしています。何はともあれ、モータウン・デビュー60周年(!)で新譜を出せること自体がすごいこと。これからも健康で楽しく音楽を続けてくれることを願っています。

職人技を感じる奥行きの音像

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コールドプレイ『ミュージック・オブ・ザ・スフィアーズ』(ワーナーミュージック・ジャパン)

 コールドプレイ9枚目のアルバムは、プロデューサーにマックス・マーティンを迎え、ミックスは主にサーバン・ゲネアが担当。ジャケットのアートワークは宇宙や惑星、ブックレットには“MUSIC of the SPHERES”とあるように、空間の使い方や音の丸さを通じてアルバムの世界観を構築しています。ハイエンドが丸く収まったアナログ的で太い音質は、ある程度の抜け感とレベル感のバランスがとても難しく、加えて宇宙を感じさせる奥行きも付けてあります。空間を感じさせるエフェクトは、音像のにじみに対するコントロールも必要です。いろんな要素が重なっているにもかかわらず、よくこの点でまとめたな~!という職人技を感じる一枚でした。

 

小泉由香

【Profile】マスタリング・スタジオ、オレンジ主宰。音楽愛に裏付けられた丁寧な仕事で信頼が厚い、日本を代表するマスタリング・エンジニア