Berlin Calling〜第90回 差別といじめが横行する職場!? Beatportベルリン事務所の告発記事

Black Artist DatabaseがBeatportとの提携中止を発表

 先月の8月23日、ニュース・サイト“Vice”に、元社員が“Beatportは差別的で有害な職場であった”と告発する記事が突如公開された。Beatportは、米国デンバーで設立され、ロサンゼルスとベルリンに事務所を構える、ほぼDJに特化した楽曲のデジタル配信を2004年に開始した企業だ。2016年に親会社が倒産するという存続の危機を経験したものの、その後は収益を出すまでに復活し、オンラインの音楽ストアとして経営が続けられている。

 ベルリン事務所に勤務していたという匿名の黒人女性の告発によれば、社内で人種差別的、性差別的な発言が横行していたという。念入りに証言を集め、関係者に調査したと思われる長文だ。多様性や平等をアピールしている対外的なブランド・イメージとは裏腹に、職場はCEOを含む上層部のパワハラやいじめに支配されていたという。

Viceで公開され話題となった告発記事

Viceで公開され話題となった告発記事

 この記事の背景には、2020年のBLM運動再燃をきっかけに、音楽業界でも反レイシズムの動きが活発になったことがある。特にクラブ音楽産業は黒人やLGBTQコミュニティをルーツとするため、これまで白人男性中心的に商業化されてきたことへの反省や見直しが迫られている。しかし、同社の経営者たちには、そのような基本的な知識や意識が欠けていたと、複数の元社員が証言している。

 この報道を受け、翌日には黒人音楽アーティスト支援プラットフォーム、Black Artist DatabaseがBeatportとの提携中止を発表。昨年8月からBeatportのブログ、Beatportalの共同編集など、提携を本格的に進めていた。複数の音楽家やレーベルもBeatportからの撤退を発表した。

 記事公開の約1週間後に、BeatportのCEO、ロブ・マクダニエルズがこれに対する“反論”声明をBeatportalで公開。親会社倒産後の再建時期2017年にCEOに就任した同氏は、当初は確かに会社の経営状況の悪化に伴い配慮が欠ける部分があったことを認めた。しかし、その後目覚ましい進歩と成長を遂げ、会社文化も現在は大きく変わったことを強調。長い箇条書きで、過去数年の女性およびノン・バイナリー、有色人種のスタッフやアーティスト支援のための社内外の取り組みも紹介した。

告発記事を受けて、CEOのロブ・マクダニエルズが同社のブログ上で公開した“反論”声明

告発記事を受けて、CEOのロブ・マクダニエルズが同社のブログ上で公開した“反論”声明

https://www.beatportal.com/news/a-statement-from-beatports-ceo/

 今回の一件がBeatportの経営にどれほど影響を与えたかはまだ不明だが、いくらイメージ・アップのために多様性や反レイシズム、反セクシズムをうたっていても、実情が伴っていない会社には厳しい目が向けられていることを再確認させた。

 

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浅沼優子/Yuko Asanuma

【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている