この曲を誰に提供するのかということを決めずに曲を作りはじめるんだ
世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回登場するのは、ロサンゼルスを拠点にするプロデューサー/ソングライター/マルチインストゥルメンタリストのネイト・マーセローだ。ジェイ・Z、ショーン・メンデス、リゾなどの楽曲に携わり、ヒット・メーカーとして知られている。近年はアーティストとしても活動しており、アルバム『Joy Techniques』や『Sundays』をリリースしている。
キャリアのスタート
7〜8歳くらいからピアノを始め、高校でギターを演奏するようになった。学校のオーケストラとマーチング・バンドではフレンチ・ホルンも演奏していたね。大学ではジャズにフォーカスしながらも、モダン・ゴスペルのバンドで演奏することも多かったよ。音楽で生計を立てはじめた時期は、ギター・レッスンの仕事をしていた。ホテルや式場などで演奏もやったね。そうしているうちにレデシーやシーラ・Eのバンド・メンバーになり、何度も世界中をツアーで回った。それから、ほかのバンドのレコーディングにも誘われるようになったんだ。
ビート・メイキングのポリシー
曲を作りはじめるとき、誰にこの曲を提供するのかということを決めないんだ。そして、できた曲はストックしておいてあとで誰に提供するかを考える。ときには自分の作品に使うこともあれば、ほかのアーティストの作品で使うこともあるね。例えばリゾ「クライベイビー」や「ランジェリー」(『コズ・アイ・ラヴ・ユー』収録)は、ストックしていた楽曲の一つをほかのソングライターとアレンジして新しく完成させたんだ。リオン・ブリッジズ「Bet Ain’t Worth The Hand」(『Good Thing』収録)も、ストックしていた楽曲を再アレンジしたよ。
レコーディングについて
いろいろなスタジオに出入りしたり、ほかのプロデューサーのセッションに参加したりして学ぶことが多かった。特にNo I.D.からはね。一時期、自分はNo I.D.のためにサンプル・ライブラリーを作っていたことがある。彼のスタジオは博物館みたいな場所で、ビンテージのシンセやエフェクト・ペダル、ドラムがたくさん置いてあったんだ。自分はそれらを使っていろいろなサンプル素材を作っていたから、レコーディングについて学ぶことはたくさんあった。そんなことをしているうちに、ジェイ・Zのアルバム『4:44』が生まれたんだ。
機材について
常に音について学んでいると、次第にハードウェアが増えてくる。長年持っているものもあれば、入手してすぐに手放す機材もあるね。シンセのKAWAI K4は最近入手したんだけど、ニューエイジっぽいキラキラした音色が入っているからいろいろな曲に試しているよ。ギター・シンセサイザーのROLAND GR-500やGR-300も持っていて、『Joy Techniques』では全曲で使用している。カルロス・ニーニョと共同プロデュースしたアルバム『SUNDAYS』では、サンプラーのAKAI PROFESSIONAL S612を多用した。ギターを使ってサンプルをトリガーしているんだ。S612で作成したループは、USBメモリーに保存できるように改造しているよ。オーディオ・インターフェースはUNIVERSAL AUDIO Apollo 8Pを使っていて、一度プリアンプのNEVE 1073に通してレコーディングすることもある。最近は、ギター用プリアンプのROLAND SIP-300も使いはじめたね。
DAWとプラグイン
もともとIMAGE-LINE Fruity Loops(現在のFL Studio)でドラムを打ち込んでいたけど、今はABLETON Liveを使っている。ドラムは生演奏とレイヤーすることが多いね。プラグイン・エフェクトはLiveに付属するものが好きで、そのほかだとWAVESのRenaissance ReverbやDoublerなどもよく使っている。だけど、基本的にはレコーディング時に既にイメージに近いサウンドになるまで音作りしてあるから、そのあとの処理はあまりしないんだ。
若いクリエイターへのアドバイス
自分らしい音楽を作ることだ。また、常に“自分らしい表現とは何か”を探求することも大事だね。
SELECTED WORK
『SUNDAYS』
ネイト・マーセロー
(How So Records)
カルロス・ニーニョとコラボした作品。彼による即興演奏のパーカッション素材に自分の音を追加し、さらにそこにドラムとサックスを重ね、最終的に僕が編集して完成させたんだよ。