聴いた瞬間に鳥肌が立つようなサウンドを作ることを心掛けています
世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回登場するのは、南アフリカ共和国で生まれた近年注目のダンス・ミュージック、ゴム(Gqom)の先駆者の一人であり、DJ兼プロデューサーのメンジーだ。デーモン・アルバーンなどのメジャー作品にも携わりながら、レーベルNyege Nyege Tapesの作品も手掛けている。
Interview:Yuko Asanuma Photo:Sanele Mkhize & Lindani Ngcobo
キャリアのスタート
ビート・メイキングは完全に独学です。音楽プロデューサーの友人が居たので、彼を見て“自分で音楽が作り出せる”ということにとてもワクワクしたのを覚えています。最初は何を作ったらいいのか分かりませんでしたが、ラップをしていた時期もあったので、ヒップホップ・ビートから作り始めました。もともと地元ダーバンにはアンダーグラウンドなパーティ・シーンがありましたが、そこで流れていたのはすべてよその国で作られた音楽だったんです。それであるとき、“自分らのカルチャーを反映した、独自の音楽があるべきだ”と思い立ち、IMAGE-LINE FL Studioのデモ版を使ってそういったサウンドを追求するようになりました。
ゴム(Gqom)が生まれるまで
できた楽曲をWebサイトにアップしていたら、偶然同じようなビート・メイカーを見つけたんです。彼と情報交換したり、YouTubeのチュートリアル動画を見たりしているうちに、エレクトロニックなトラックを作る方法についてだんだん詳しくなっていきました。ここで苦労したのが、どうやって自分たちが親しんできたパーカッション楽器やリズムを取り込むのか、ということ。あいにく当時の自分らは良い音で録音できる機材を持っていなかったので、手持ちのサンプル素材から最もそのパーカッション楽器に近い音を探して使っていました。こうして試行錯誤した結果生まれたのが、ゴムだったんです。
機材の変遷
FL Studioで作曲を始めたのが2009年。やはり最初は“無いよりあった方がいい”と思って、手当たり次第プラグインに手を出していましたが、今は“自分が最も必要とするものだけ”に絞るようになりました。そして、最近はMIDIの打ち込みも含めて“録音すること”が多くなったので、必需品はNATIVE INSTRUMENTS Maschine MK3とKORG MicroKey、ギター、シェイカーなどです。こうなった理由として、音楽にはフィーリングや感触といったものが大事だと考えるようになったから。それに、同じサンプル素材を使い続けていると、どうしても同じような曲になってしまいます。また最近では自分と似たスタイルの音楽を作るプロデューサーも増えたので、独自のサウンドで個性を出す必要も出てきました。
モニター環境
ビート・メイキングにはモニター・スピーカー、仕上げの作業にはヘッドフォンを使います。スピーカーはPRESONUS Eris E3.5です。ミックスやボーカルの確認をしたいときはBEYERDYNAMIC DT 770 Proを使用しますが、これだと低域が分かりにくいのでSENNHEISER HD 25-13-IIでも聴きます。自分の音楽は低音の鳴りが非常に重要なので、必ず両方で聴き比べますね。そして、最後に自分の車のカー・ステレオでも聴くんです。これが最終チェックですね(笑)。
ビート・メイキングのこだわり
音楽というのはフィーリングだと思うので、メロディやシンセの質感を作り込むことに一番時間をかけています。自分がやっているような音楽は聴いた瞬間に鳥肌が立たないとだめなので、常に鳥肌が立つようなサウンドを作ることを心掛けているんです。逆にクオンタイズには時間をかけません。多少のズレがあったほうが、実は自然に聴こえるんです。
ビート・メイキングの醍醐味
僕にとって、音楽は心を満たしてくれるもの。そうでなければ10年以上も続けていないと思います。利益になるかとか、売れるかどうかは関係ありません。自分が音楽を作ることでハッピーになれて、さらにほかの誰かにも喜びをもたらせられるのなら、続ける理由はそれだけで十分なんです。
SELECTED WORK
『Drmtrk Re:clarted』
スクラッチャDVA & メンジー
(DRMTRK)
Boiler Roomの企画『Third Space: Beyond Grime & Gqom』でコラボレーションしたスクラッチャDVAとの共作EP。グライムとゴムの融合を試みるというコンセプトなんだ。