自分が関心のあることを追求すればいずれ道は開けていくんだよ
世界の各都市で活躍するビート・メイカーのスタジオを訪れ、音楽制作にまつわる話を聞く本コーナー。今回登場するのは、ロサンゼルスで活動する気鋭ジャズ・ベーシスト/プロデューサーのサム・ウィルクスだ。ノウワーやジェイコブ・コリアーのサポートだけでなく、サム・ゲンデルとのコラボなどで幅広く活躍し、近年は自身の2作目となるアルバムもリリースしている。
キャリアのスタート
もともと僕はコネチカット州の出身で、2009年の夏にロサンゼルスへ移住し、南カリフォルニア大学に入学した。大学ではポピュラー・ミュージックを専攻し、のちにジャズも勉強したんだ。そこでドラマーのレオン・ンドゥグ・チャンクラーやベーシストのアルフォンソ・ジョンソン、シンガー/ピアニストのパトリース・ラッシェン、トランペット奏者のジョン・ダヴァーサに師事したんだよ。
ベースを演奏し始めたきっかけ
最初はドラムを演奏していたんだけれど、なぜか父親がスネアをセッティングしてくれなくて、ずっと“ビートルズと同じリズムがたたけないな”と思っていたんだ(笑)。タムしかたたいていなかったから、そりゃそうだよね。ベースを始めた理由は、コントラバスがオーケストラの中で一番大きな楽器で格好良いと思ったから。高校生のころはトロンボーンも演奏していたよ。13歳のとき、インプロビゼーションをするミュージシャンになりたいと思って、ベーシストになることを決意したんだ。
機材の変遷
初期はミニマルな環境でレコーディングしていた。オーディオ・インターフェースはAPOGEE Duetで、DAWはAPPLE Logic Pro X、マイクはSHURE SM58……本当にこれらだけを使っていたんだ。その後シンセのROLAND Juno-106やアナログ・テープ・エコーの名機、ROLAND RE-201などを入手した。僕の1stアルバム『Wilkes』では2曲だけ外部のスタジオでレコーディングしたけど、それ以外の曲はすべてこの機材たちだけで録ったんだ。シンプルなセットアップだけど、インスピレーションを受けたときに、いつ、どこに居てもレコーディングできるというのが利点なんだよ。
現在使用する機材
先ほど述べた機材のほかに、シンセではYAMAHA DX7、MOOG Little Phatty Stage II、ENSONIQ ESQ-1、リズム・マシンではLINN LinnDrum LM-2、MAESTRO Rhythm King MRK-1、YAMAHA RX5を使っている。特にRhythm King MRK-1は、サム・ゲンデルとのコラボ・アルバム『Music For Saxofone & Bass Guitar』で多用したし、僕の2ndアルバム『One Theme & Subsequent Improvisation』でもよく使ったよ。ちなみに現在のオーディオ・インターフェースはAPOGEE Ensemble Thunderboltで、ラックにはプリアンプのELECTRODYNE 2501やハーモナイザーのEVENTIDE H3000なども格納している。
プリアンプについて
ビンテージ・プリアンプのLANGEVIN AM16を所有しているんだけど、これはもともとキャピトル・スタジオAのメイン・コンソールに内蔵されていたものなんだ。NEVEのコンソールが導入される前の話だから、歴史的にとても価値のあるものだよ。AM16はローミッドを豊かにしてくれるから、すごく温かみのあるサウンドになるんだ。2501はベース用、AM16はシンセやギター用というふうに使い分けている。パッシブDIのACME AUDIO Motown D.I. WB-3もお気に入りだね。皆が使っていない機材が好きだから、いつも探しているんだよ(笑)。
音楽制作者としてのポリシー
プロデューサーとしては、サウンドの質感を大事にしているよ。自分が関心のあることを追求するのが大切だと思うんだ。だから、自分が聴きたい音楽を作ることだね。たくさん楽器を練習したい人はすればいいし、したくない人はしなくていい。関心のあることを追求すれば、いずれ道は開けていくんだよ。
SELECTED WORK
『One Theme & Subsequent Improvisation』
サム・ウィルクス
(ASTROLLAGE)
タイトルがアルバム内容そのものを表現している。お気に入りのミュージシャンたちとインプロビゼーションをして、音楽的にも音響的にも、とてもユニークな作品に仕上がったよ。