APOGEE Clearmountain’s Phases レビュー:ボブ・クリアマウンテンのフランジャー/フェイザーを再現するプラグイン

APOGEE Clearmountain’s Phases レビュー:ボブ・クリアマウンテンのフランジャー/フェイザーを再現するプラグイン

 名だたるスーパースターがスーパースターと認めるミックス・エンジニア、ボブ・クリアマウンテン氏の名を冠したAPOGEE Clearmountain’sシリーズにClearmountain’s Phasesが追加されました。そのグラフィックを見ると、氏が所有するMXR Auto Phaser M110とAuto Flanger M111を参考にしたプラグインのよう。レアなところを突いてきたな!という第一印象です。

オリジナルの実機にBBD素子などのパラメーターを追加

 Clearmountain’s Phasesはこれまでのシリーズ同様、複合型のプラグイン。フランジャー/フェイザーの各モジュールがあり、画面左側のMODULE CONFIGセクションでは、モジュール間の接続を単体/シリアル/パラレルから選択可能です。また、LFOのテンポ・シンクはプラグインならではの機能として追加。L/Rの各方向のみにも設定できる仕様です。

 まずは濃い青色の“Auto Flanger”と記されたフランジャー・モジュールを見てみましょう。デフォルト設定での音色はとても好印象です。プラグインのフランジャーでたまにある、エフェクト成分のエッジが悪目立ちして浮いてしまうような効果ではなく、まろやかでウォーム。にじみ方はまさにアナログ・サウンドで、とても良い感じです。

 オリジナルは左側の4つのツマミだけですが、このプラグインでは右側にパラメーターが追加されています。左側は上から、ディレイ・タイムを設定するMANUAL、ディレイ・タイムの揺れ(Depth)とその周期(Range)を設定するSWEEPセクション、原音とエフェクト音のバランスを調整するMIX、そしてエフェクトのオン/オフを行うIN/OUTスイッチがあります。

 次に、プラグイン化で追加された右側です。最上部にあるBBDセクションは、フランジャーの動作原理でもあるディレイを生み出すBBD素子のエミュレート。オリジナルのTCA350のモデリングなど全部で5種類あり、それぞれディレイ・タイムの長さと幅が変わり、ひずみ感、レンジ感など音の劣化具合の変化を聴き取ることができます。SWEEPのDepthを0%、MIXを100%に設定してBBDを切り替え、ディレイ・タイムを長くすることで生まれる音の劣化具合はまさにアナログ・ディレイのそれですね。好みの質感を探してみてください。

 TAPE FLANGEは、ドライ音を数ミリ秒遅らせることでディレイ音をドライ音よりも前に出せるスイッチです。より鼻づまりでレゾナンス感のあるサウンドに変化します。

BBDセクションの下にあるTAPE FLANGEスイッチでは、2台のテープ・レコーダーを使用して作り出すフランジング効果を模した“ゼロクロス”テープ・フランジを再現するモードに切り替えることができる

BBDセクションの下にあるTAPE FLANGEスイッチでは、2台のテープ・レコーダーを使用して作り出すフランジング効果を模した“ゼロクロス”テープ・フランジを再現するモードに切り替えることができる

 FEEDBACKセクションはその名の通りディレイのフィードバック量。上のツマミは値を増やしていくとエグみが増し、10にすると金属?サイレン?のような何かが発生します。下のツマミはハイパス・フィルターでフィードバック回路に効果をもたらす緩やかなものです。LFO Øは、ステレオ・アウト使用時にRchの位相をコントロールすることによって左右の広がりを調整。180度にすると劇的でギミック的な効果になりますね。

 最下部にあるのがディレイ音のハイパス・フィルター。ドラム・バスにインサートしたけれどもエフェクト効果により位相のキャンセルが生じ、バスドラのパンチ感が物足りなくなった、などの際にはFEEDBACKのハイパス・フィルターと組み合わせて、低域のエフェクト量を減少させます。

 ここで次に取りかかろうとしたのですが、隠しコマンドのようなパラメーターがもう一つ。左側モジュールの上部にあるネジの隣に見える矢印が、オリジナルのひずみ、エイリアシングを増減できるポットとして装備されています。

各モジュールの左上にある矢印も操作可能なパラメーター。フランジャーでは、左に回すとクリーンでさわやかな印象に変化する。右に回すと、トランジェントの頭がつぶれるような雑味のあるサウンドに。フェイザーの矢印はAgeコントロールと呼ばれる、ハードウェアの経年変化をエミュレートしたパラメーター。左に振り切ると素直なサイン・スウィープで変化し、右に回すと周期変化の頂上辺りでのなまり、つぶれを生成する

各モジュールの左上にある矢印も操作可能なパラメーター。フランジャーでは、左に回すとクリーンでさわやかな印象に変化する。右に回すと、トランジェントの頭がつぶれるような雑味のあるサウンドに。フェイザーの矢印はAgeコントロールと呼ばれる、ハードウェアの経年変化をエミュレートしたパラメーター。左に振り切ると素直なサイン・スウィープで変化し、右に回すと周期変化の頂上辺りでのなまり、つぶれを生成する

1980〜90年代サウンドを再現するフェイザー

 続いて画面右側のフェイザー・モジュール。フェイザーは、オールパス・フィルターを用いて位相の変化を周期的に揺らすことにより得られる効果で、よく水っぽさと形容されますが、まさにウェットな雰囲気に。薄くかけた際の1980〜90年代ピアノ、パッドの揺らぎは、氏のミックスでよく聴いた質感です。

 基本的なパラメーターはフランジャーと似ており、その動作原理の違いがあるものを見ていきましょう。MANUALは、位相変化させる周波数の中心を選択するもので、その下はフランジャーと同様のパラメーターです。STAGESはオールパス・フィルターのノッチの数を設定でき、値を増やすとレゾナンス感のある“シュワー”という効果を生みます。ANALOGはフィードバック回路に作用し、よりハードウェアに寄せるスイッチ。ひずみが増し、設定によっては凶暴に発振します。FEEDBACKセクションはフィードバック量とポイント(TAP)を調整。ジェントルな効果からエグいギミックまで生成します。

 今回もClearmountain’sシリーズおなじみ、○○風プリセットが用意されていて、とても勉強になりました。このために買ってもよい、と思ったほどで、あらためて氏と当時のミュージシャンの独創性に感服するばかりです。

 クラシックなエフェクトとして君臨するフランジャー/フェイザー。ギミック的に曲のアクセントとして使うのはもちろんですが、お勧めはサステインのあるシンセ、リバーブなどに遅い周期でほんの薄くかける手法です。少し揺らぐことで飽きが来ず、にじみ、奥行き、広がりを表現する武器となるでしょう。若い世代がどう使うか気になりますが、1970年代後期を知るエンジニアの方々にも使ってみてほしいプラグインです。

 

星野誠
【Profile】ビクタースタジオを経てフリーで活動するエンジニア。クラムボンの楽曲を多数手掛けたことで知られ、近年もsumika、Cody・Lee(李)、ユレニワなど一線のアーティストに携わる。

 

APOGEE Clearmountain’s Phases

22,000円

APOGEE Clearmountain’s Phases

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.11以降、AAX/AU/VSTに準拠
▪Windows:Windows 10以降、AAX/VSTに準拠
▪共通項目:8GB以上のRAM、iLokアカウント

製品情報

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