楽器の製作者とミュージシャンが直接交流
レバノン人アーティスト、ラビア・ビアイニがベルリンを拠点に運営するレコード・レーベル=Morphine Recordsが、2021年にスタジオをオープンした。その名もMorphine Raum。サウンド&レコーディング・マガジン2022年1月号のP110〜115(Web版はこちら)で紹介しているように、楽器製作のワークショップとレーベル事務所、レコーディング/マスタリング・スタジオを兼ねた複合スペースとなっている。ここで“INSTRUMENTS”と題された非常にユニークなイベント・シリーズが10月8日から26日の間10回にわたって行われた。この実験的な試みは、DIY楽器の製作者と複数のミュージシャンを招聘し、製作者独自の楽器作りについての話を聞いた後にセッションを行うというもの。
筆者は最終回に参加してみた。この日のゲストであったユーリ・ランドマンはオランダの楽器開発者。ソニック・ユースのリー・ラナルドをはじめとした多数のミュージシャンにカスタム楽器を提供しているという。
セッションに参加したミュージシャンも個性的だった。1人目はシリア出身のウード/リュート奏者のハイアム・アラミ。2人目はブリュッセル出身のピアニストで実験音楽家のアナイス・トゥアィリンクス(彼女は自身の自作楽器も持参)。3人目はアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのギタリスト、ヨヘン・アルバイト。いずれも古典的な西洋音楽の演奏様式に挑戦するようなミュージシャンばかりである。前半はランドマン氏が持参した楽器の作りや演奏の仕方を説明。自身もミュージシャンとして演奏や作品のリリースをしており、最後は複数の楽器を使用した短いソロ・ライブが行われた。
後半はゲスト・ミュージシャンの一人一人へ楽器の使い方を簡単に指導しながらセッションを行っていく。どの楽器を選ぶか、どのように演奏するかにも各ミュージシャンのアプローチが違って面白い。最後に全員でセッションをして終了するという流れだったが、特に予備知識や専門知識が無くても、約3時間があっという間に過ぎる面白さだった。
ラビア・ビアイニは、楽器の製作者とミュージシャンが直接交流し、楽器に触れ、演奏することによって双方の学びの場になるだけでなく、音楽表現の可能性が広がると話す。今回の10回シリーズに手応えを感じ、今後も定期的に開催していきたいそうだ。このイベントはまた、ドイツ連邦政府によるコロナ禍における文化助成プログラム、Neustart Kulturの助成を受けて実現された。
浅沼優子/Yuko Asanuma
【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている