その場の雰囲気をパッケージするのが
トラップの面白さな気がしますね
編集部は、トラップの聖地アトランタに福岡出身のトラップ・メイカーが居るという情報をキャッチ。彼の名はYung Xanseiといい、近年ではサブリナ・クラウディオ&ワーレイ「All My Love」、国内ではKOHH「2 Cars」などの楽曲を手掛けている。早速、彼に音楽制作や本場アトランタのトラップ・シーンについてインタビューを行った。
RECENT WORK
『Kiki(feat. Semaj & Reddo)』
Xansei
(Xansei)
“ギターを弾きに来てよ”と声をかけられた
ー渡米されたのは、どのような経緯があったのですか?
Yung Xansei もともとは留学がきっかけでロサンゼルスに住んでいたんです。一度帰国した後、2013年ごろからまたロサンゼルスに戻りました。
ー当時、ロサンゼルスでは何を?
Yung Xansei シンガーのバック・ミュージシャンとして、カフェなどでアコギを演奏していました。ギターを習っていて、ポップスやR&Bなどのジャンルをやっていましたね。
ービート・メイキングを始めたきっかけは?
Yung Xansei ロサンゼルスに居たとき、たまたま友だちと行った小さなイベントでトラップ・アーティストのライブを見たのですが、それがめちゃくちゃ格好良かったんです。それでトラップを作りたい!と思いました。そしたらちょうど同じタイミングで、ヒップホップ・プロデューサーの人から“ギターを弾きに来てよ”と声をかけられたんです。それで彼のスタジオに行き、一緒にビートを作ったのが最初でした。これが2016〜17年くらいの話です。
ーそのころはどのような機材を使っていたのでしょうか?
Yung Xansei もともとAPPLE GarageBandを使っていたのでLogic Proを購入したのですが、すぐにABLETON Liveに切り替えました。理由は、アーティスト/プロデューサーのムラ・マサがLiveを使っていたからです。それで今でもLiveを使っています。オーディオI/Oは持っていなくて、APPLE MacBook Proに直接ヘッドフォンを挿してモニタリングしていました。
ー現在はどのような機材がありますか?
Yung Xansei オーディオI/Oは、UNIVERSAL AUDIO Apollo Twin Xです。ギターやボーカルを録るときにUADプラグインのNeve 1073やTeletronix LA-2Aを使ってかけ録りしています。モニターはYAMAHA HS5を持っていましたが、今はJBL PROFESSIONAL 104-BTを置いています。低域も出るし、持ち運びも便利です。
トラップは固定観念を破壊する音楽
ーアトランタに引っ越したのはいつごろですか?
Yung Xansei 約4年前です。友だちから“今アトランタはヒップホップが熱いからおいでよ”と言われて。
ーアトランタにはスタジオがたくさんあると聞きましたが、そこで作業することは?
Yung Xansei 最近ちょこちょこ行きます。ただ、自分は大きいスタジオだとプレッシャーを感じるので好きじゃないです。家やカフェでヘッドフォンして一人でやりたいですね。ピエール・ボーンは車の中でビート・メイキングしていたし、ラップトップがあればどこでもできます。大きなスタジオに行くのはテンションを上げるためにあるような感じがしますね。以前、XXXテンタシオンやポップ・スモークを手掛けるプロデューサーのロニーJと話したんですが、彼はこれまでモニター・スピーカーを使ったことがなく、ラップトップのスピーカーのみでモニタリングしているらしいです。
ー衝撃ですね。サブベースは聴こえるのでしょうか。
Yung Xansei ラップトップのスピーカーでサブベースやTR-808系キック・ベースがちゃんと鳴っていれば、モニターで聴いても必ずヤバい音になるって言ってました。
ーそういったプロデューサーやビート・メイカー、アーティストに直接会えるのは、現地ならではですね。
Yung Xansei そうですね。レコーディングとかも面白くて、こっちのラッパーはスタジオでラップを考えるんです。その場でフリー・スタイルしていく感じ。
ーレコーディングはどのくらい時間がかかるのですか?
Yung Xansei 人によりますけど、1〜2時間あればできちゃいます。ビート・メイカーもスタジオに入って曲を作るケースが多く、それも10分〜1時間くらい。ビートができたらステレオ・トラックに書き出して、そこにラッパーがフリー・スタイルでレコーディングする感じです。終わったら、そのままボーカルとステレオ・トラックをエンジニアがミックスして完成します。その場の雰囲気をパッケージするのがトラップの面白さな気がしますね。
ービートのミックスは、ステム・データやパラデータではないのでしょうか?
Yung Xansei はい。アトランタの音楽家はほとんどやらないみたいです。メジャーの作品でも、このやり方が最近多いと聞いたことがあります。トラップは固定観念を破壊する音楽ですよね(笑)
ー日本のトラップ・シーンについて、何か思うことはありますか?
Yung Xansei 職人気質なビート・メイカーが多いイメージ。こっちで一般的なコライトやソングライティング・キャンプが、もっと日本でも盛んになると楽しいんじゃないかなって思います。あと、インターネットのおかげでこっちのやり方をまねする日本のビート・メイカーも増え、若い子たちも普通にクオリティの高いビートが作れるようになってきていると感じますね。今後、日本のトラップが楽しみです。