ポップ・スモーク『Shoot For The Stars, Aim For The Moon』 〜夭逝したラッパーのデビュー作を手掛けたエンジニアが非対称性の美学を追求したアナログ的な制作手法を語る

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今年2月に、銃撃事件により20歳の若さで惜しくも命を落としたアメリカのラッパー、ポップ・スモーク。彼の亡き後、デビュー作となるアルバム『Shoot For The Stars, Aim For The Moon』が発売され、作品は大きな功績を収めた。中でも50セント、ロディ・リッチをフィーチャリングした収録曲「The Woo」はシングルとしても大ヒットを記録した。このアルバムのリリースに欠かせなかったのが、本作のほぼ全曲でミックス、共同プロデュースを手掛けたエンジニア、ジェス・ジャクソン氏。ここでは、「The Woo」の制作を中心に、現代のエンジニアとしては特異なジャクソン氏の制作手法に迫る。

Text:Paul Tingen Translation:Takuto Kaneko Photo:Jauris Bardoux(メイン・カット)

 

3分割法をミキシングにも当てはめて
各パートを視覚的に分割して配置していく

 「人間の脳は左右対称のものを好みません。完全な対称構造を美しいと思わないようにできていて、その代わりに不完全なものを良いと感じるんです。“3分割”も同じように美しく感じますね。なので私はスピーカーを単純に左右のペアとはとらえないようにしているんです。時には左右で全く違うリバーブやEQのセッティングを使ったりもします。すべてのパートをステレオ・スペースに均等/対称に配置はしません」

 

 こう語るのはジェス・ジャクソン氏。彼は“人の感性を研究し、何が好まれて何が好まれないのかを分析する”のが趣味だという。それ故に彼の話はまるで形而上音楽学の講義を聴いているように感じることもある。3分割を好むのがどう音楽に関係するのかを聞くと、彼はこう答えた。

 

 「写真や絵画の3分割法をミキシングにも当てはめることができるんですよ。私は音楽を耳で聴くのではなく視覚的にとらえています。各パートを視覚的に分割し、幅や奥行を3つのエリアに分けて配置していくんです」

 

 ジャクソン氏はまた、アナログへのこだわりも3分割法や不完全さの重視といった彼自身の手法に関連するという。

 

 「アナログ・コンソールでパンを左右に振ると、左に振ったときと右に振ったときで100%同じにはならないんです。チャンネルごとに電気的な特性が異なるので、左と右でほんの少しだけ違うサウンドをもたらしてくれる。つまりアナログだと完全なステレオになることはあり得ず、常に不完全な状態なのです。デジタルの問題点はこれで、不完全さを出そうと思ったら意識して特別なことをしないといけないんですよ。ところがアナログなら偶然この不完全性を得ることができ、しかも人間の耳はこちらの方を好むことが多いんです」

 

 ジャクソン氏の顔写真を見ずにここまで読んだ方は、彼について、何十年も前の古いエンジニアのイメージや、頭でっかちで理詰めのイメージを持つかもしれない。だがこれは全くの見当違いだ。39歳になる彼はまさに脂の乗り切った絶頂期に居ると言ってよく、2020年下半期で大きな成功を収めているポップ・スモークのアルバム『Shoot For The Stars, Aim For The Moon』で32曲をミックス。共同プロデュースに至ってはなんと34曲すべてを担当した人物だ。

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『Shoot For The Stars, Aim For The Moon』でミックスと共同プロデュースを手掛けたジェス・ジャクソン氏。エンジニアやプロデューサーとしてナックスやタイガ、クリス・ブラウン、ニッキー・ミナージュらの作品にかかわる。さらに、音楽出版社やレコード会社の設立にも関与。Auto-Tuneで名高いANTARESの共同オーナーを務め、技術開発にも深く関与している

ビンテージのサンプラーに取り込むことで
追加の処理無しでも統一感のあるサウンドに

 ポップ・スモークとして知られるバシャー・ジャクソンが悲運にも銃撃事件によって20歳という若さで命を落としたのは今年2月19日のことである。この悲劇を乗り越えてどうやってこのアルバムが形となったのかということも興味深いが、ジャクソン氏はまず、彼自身のある意味特殊な手法や音楽制作への姿勢、LAにある自身のスタジオについて説明してくれた。

 

 「AVID Pro Tools|HDXシステムと、サミング・ミキサーのSOLID STATE LOGIC Sigma Deltaを組み合わせています。モニターはAMPHION Two18とBaseTwo25のペア、それに同軸スピーカーのTANNOY System 10 DMT2を使っていますね。位相には特にシビアで、何かしらおかしいと思ったら大体はIZOTOPE RXのAzimuthを使って即座に修正します。オーディオI/OはANTELOPE Goliathを2台使い、片方はSSLミキサー用、もう片方はアウトボード用です。すべてのアウトボードはPro Toolsにハードウェア・インサートしてすぐに使えるようにしているので、プラグイン感覚で扱えるんですよ。狙っているサウンドができたら即座にオーディオ化します。プラグインはそこまで多用せず、アナログ機材を使うことがほとんどですね」

 

 『Shoot For The Stars, Aim For The Moon』は、多数の素材がそれぞれ異なるスタジオやプロデューサーから来たため、統一感を出すことが重要だったという。そこに一役買ったのがビンテージのサンプラーだ。

 

 「今回はアシスタントのセージ・スコフィールドと一緒にポップ・スモークのアルバムのすべてのサウンドをビンテージのサンプラーに取り込みました。Pro Toolsのインサート・エフェクトとして使い、リターンの信号をコミットしてミックス済の素材のように扱うんです。何か追加で処理する必要はあまり無いですからね。どの機種も違ったサウンドを持っていて、それぞれ異なる彩りやひずみ、トランジェントやレベルをもたらしてくれます。こうすることでアナログのような変化を出せますし、まるで全部が単一のソースから作られたように統一感のある音になるんです。ビンテージ・リズム・マシンについては友人であり師でもあるマイク・ディーンとの仕事から多くを学びました。中でも特に重要なことが、何かしら音量を下げる必要が出てきた場合、むしろ丸ごとカットする、ということです。曲中では存在するかしないかどちらかにして、隠してまで足す必要のあるものなんて無いと学びました」

 

 アルバムでのアプローチについては次のようにも語った。

 

 「もし楽曲がヘビーにドラム中心で組み立てられていた場合、慎重になる必要があるのでしょうか? ち密な絵画を描いているわけじゃないんです。かつてピカソの制作の映像を見る機会があったのですが、彼は小さな筆など使わず、幅広の筆を3本持ち、キャンバスから離れた位置に立って大きなイメージを描き出していました。これと同じコンセプトを当てはめるんです。結果として個々のトラックをソロで聴くことはほとんどなく、元の状態を確認するときや、ボーカルのブレスなどの処理をするときだけですね。ソロで聴いてもどういった状況や文脈でそのサウンドが使われているのか理解できませんし、曲の全体像も見ることができないんですよ」

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ジェス・ジャクソン氏のスタジオ。モニターはAMPHION Two18、TANNOY System 10 DMT2、YAMAHA NS-10Mを設置。写真では隠れているが、AMPHION BaseTwo25も使用しているという。デスクにはアナログ・シンセのBEHRINGER Poly-D、KORG Monologue、ラウドネス・メーターのTC ELECTRONIC Clarity M、モニター・コントローラーのGRACE DESIGN M905などが置かれている

キックやスネアのサウンドを変更したり
プロダクション・レベルの変更をすることもあった

 ジャクソン氏の特異な才能と、ヒップホップやポップスなどでイギリスからアメリカにまたがる活躍をする彼のポジションが、ポップ・スモークにかかわるきっかけにもなった。ジャクソン氏はまず今年の2月7日にリリースされたポップ・スモークの2ndミックス・テープ『Meet the Woo 2』を手掛け、その月のうちにポップ・スモークはNYからLAへと飛び、1stアルバムについての相談をすることとなった。ポップ・スモークが強盗事件の被害者として悲劇的な死を遂げたのはその直後だった。その後ポップ・スモークが所属していたレーベルVictor Victor WorldwideのCEOであるスティーブン・ビクターとラッパーの50セントがエグゼクティブ・プロデューサーとして、彼を祈念する意味も込めてこのアルバムを完成させることを決めた。最終的に完成まではさらに4カ月を要した。「もともとは10曲だけ収録する予定でした」とジャクソン氏は説明する。

 

 「最初は何枚かのアルバムに分けて今年中にリリースするはずだったんです。けれど彼が亡くなった後、代わりにすべての曲をまとめ、1つのまとまったアルバムとしてリリースすることが決まりました。最終的にアルバムには34曲も収録されることになったんです」

 

 ジャクソン氏がポップ・スモークの作品に深くかかわることになったのは、ポップ・スモークのサウンドが基本的にUKドリルだったのが理由だと明かす。

 

 「私はUKガラージとドラムンベース出身なので、UKドリルやラップのことはよく知っていますし、アメリカのラップについてもよく知っています。なのでビクターたちは私がちょうど良い人材だと思ったんでしょうね。『Meet the Woo 2』のときはほぼ毎日ビクターとオジゼリー・ロス、ポップと作業をしていましたよ。ポップが亡くなってからは基本的に私のスタジオで、セージと2人だけで作業をしました。これはCOVID-19に伴うロックダウンが理由ですが。多くの曲は未完成なデモの状態で、ほとんどが誰かの家でラフに録音されたものでした。本来ならポップと一緒に再レコーディングから始める状態だったと思います。中には3割程度しかでき上がっていない曲もあったんですよ。私のアルバム・クレジットは主にミキシング・エンジニアですが、キックやスネアのサウンドを変更したり、プロダクション・レベルの変更をすることも多くありました。ミックス段階で何かしら足りない、もしくは正しくないと感じることが多かったのです。制作の最終段階に至るとそれぞれのパート間でうまく組み合わないと感じ始めることがあります。そういうときには不要なものをカットしたり、アレンジを変えたりしていきました」

「The Woo」は密度感を保ちつつ
重要なものとそうでないものを区別した

 こうしたプロダクション工程を受け、最終的に彼はプロデュース・クレジットを4曲追加で得ることになった。その中には、50セントとロディ・リッチがフィーチャーされ、アルバム中で最も成功したシングルの「The Woo」も含まれる。「The Woo」の制作はまずイギリスのビート・メイカー808メロによるトラップ・ビートをベースに、スパニッシュ・ギターを元にしたプロダクションからスタートした。

 

 「最初に曲を受け取ったときはポップによるサビと808メロによるビートだけの状態で、全部で50秒しかありませんでした。まだ50セントもロディ・リッチもかかわっていませんでしたね。その後私とA&Rの人間がポップのハード・ディスクからこの曲の別バージョンを見付けたのですが、そこには平歌も収録されていました。一見するとデモ・バージョンとフィットする様子でしたが、キーが違ったため、うまくいかなかったんです。セージがいろいろな手段を試してくれて、時にはCELEMONY Melodyneを使ってピッチ変更などもしたのですが、それでもうまくいきませんでした。そこで、マイク・ディーンに相談したところ、“転調するのはどうか”とアドバイスをもらったんです。うまくいくか不安でしたが、実際には素晴らしい仕上がりになりました。曲中の57小節目がこの転調をしている部分です」

 

 「The Woo」では、曲の持つ高い密度感を保ちつつ、重要なものとそうではないものを区別するのが重要だったとジャクソン氏は語る。

 

 「音響的な観点からは、「The Woo」はもともとかなり曇ったサウンドで、加えてだいぶせわしない感じでした。音の密度がかなり高かったんです。なので、密度感を保ちつつ、重要な要素をしっかりと際立つようにし、そうでない要素をどうにかして隠す方法を見付けていきました。この曲の場合、一番重要な要素はギターでした。ドラムを全部ミュートしてギターだけにしたとしても、「The Woo」はヒット・ソングたり得たと思いますよ」

 

 ジャクソン氏による「The Woo」のPro Toolsのミックス・セッションは約90trから成っている。2ミックスのトラックとマスター・トラックからはじまり、Sigma Deltaへのセンド用の16trを設定。内訳はキック、ROLAND TR-808系サウンド、リム、スネア、スナップ、ハイハット&シェイカー&ボンゴ、もう一つのボンゴ、リード・シンセ、ギター、ボーカル・サンプル、ARPシンセ、リード・ボーカル、アドリブA、アドリブB、ディレイ/ダブラー、そしてリバーブとなっている。その下部にあるオーディオ・トラック類もほぼ同じ順番で並び、フォルダー・トラックやグループAuxトラックでまとめられている。セッション下部には14のエフェクトAUXがあり、そのうち最後の1つはハードウェアのYAMAHA SPX90へのセンドだ。そう、1980年代の機材である。そのほかに特筆する事項を挙げるならば全体にわたってプラグインの使用が非常に少ないことだろう。例外がサビのバック・ボーカルと50セントのボーカル・トラックだ。対照的にボーカル・トラックには大量のセンドが設けられ、その行き先のエフェクト・トラックにはハードウェア・インサートとしてアウトボードが使用されている。少々時代遅れで非実用的にも見える手法だが、「アナログ・サウンドには“何か”があるんです」とジャクソン氏は語る。

 

 「DAW内で完結した場合、ミックスはクリアでシャープになり、結果も即座に得られます。けれど最終的にはどうしてか完成品から少し離れたサウンドに成ってしまうんです。そういう純粋なサウンドよりも、よりバイブスに満ちた完成品のサウンドを作りたいんですよ」

 

「The Woo」Pro Tools Session

 『Shoot For The Stars, Aim For The Moon』に収録の50セント、ロディ・リッチとのコラボ曲「The Woo」のPro Toolsセッションの一部を紹介しよう。

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ミックス・セッションは約90trから構成される。画面内のピンク色の5トラックがポップ・スモーク自身によるボーカル。Auto-Tune使用後に、上から2段目のPOP VSと書かれたverseトラックと、hookトラックに送られる。verseのグループ・トラックでは、MCDSP AE4000とYAMAHA SPX90が使用される

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hookトラックでは、BEHRINGER V-Verb Pro REV2496やYAMAHA REV7など、リバーブやディレイへのセンドが多数用意されている

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SSL INというトラックではSigma Deltaのコントロールに使うSigma Delta Control 16とSigma Delta Control Mix Busがインサートされている

YAMAHA REV7は
短くメタリックなリバーブ音を出してくれる

 「The Woo」のミックスの話に戻ろう。ジャクソン氏は楽曲中の重要な要素をどのように処理していったのか話してくれた。まずはギターだ。

 

 「私の耳にはダイナミック過ぎるように聴こえました。よりポップなスペースに収めようと思ったので、まずピークやシャープ過ぎるトランジェントを抑えたんです。SSL SL4000G+コンソールから抜き出したチャンネル・ストリップを通してPro Toolsに録り、それからタイミングを修正するためにエディットをいくらか施しました。その後UNIVERSAL AUDIO UAD-2 1176 Classic Limiter Collectionでコンプをかけてスペースを作り、BRAINWORX BX_soloを使って少しだけワイドにしたんです。位相がずれていたので、それも修正してあります」

 

 Pro Toolsのセッション中段に見られるピンク色のトラックはポップ・スモーク自身によるボーカルで、ANTARES Auto-Tune Liveの使用後に黄色のhookトラックと暗赤色のverseトラックに送られている。hookのグループ・トラックには大量のリバーブやディレイへのセンドがあり、verseのグループ・トラックには MCDSP AE400と前述のSPX90が使われている。

 

 「サビのセクションはPro Toolsのセッションで届いたのでプラグイン類を必要に応じて好きなように変更できました。ボーカルにはもともとAuto-Tune Proが使われていたのですが、Auto-Tune Liveに変更しました。少し動作が軽いというのもありますが、ほかの曲にAuto-Tune Liveが使われていたので、アルバム全体で統一感を出すためというのが大きな理由ですね。ディレイはハードウェアのEVENTIDE H9000。V-VerbというセンドはBEHRINGER V-Verb Pro REV2496へのセンドで、プレート・リバーブを使っています。SPX90は、2000年代初頭のラップでよく使われていた1980年代風のリバーブを得るために使いました。よく知られたリバーブ・サウンドで、リード・ボーカルのメイン・リバーブになります。一方、YAMAHA REV7はより短くメタリックなリバーブ音を出してくれるんですが、これは今どきのプラグインでは作れないサウンドなんです」

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ジャクソン氏のスタジオ内のアウトボード。SSL SL4000G+から抜き出したチャンネル・ストリップ、UREI 1176LNのコピーと見られるコンプ、TUBE-TECH CL-1B、AVALON DESIGN VT-737SP、BEHRINGER V-Verb Pro REV2496、YAMAHA SPX90、EVENTIDE H9000、YAMAHA REV7が並ぶ

MCDSP AE400をアクティブEQとして多用
自作のハーモニック・ディストーションで色付け

 ジャクソン氏はバック・ボーカルで使用したプラグインについて、次のように語った。

 

 「プラグイン類はどれも薄くかけています。後の段階で足したり、もしくは微調整をしたりするために使うことがほとんどです。AE400は特定の周波数を削るためのもので、アクティブEQとしてカットする用途で多用します。バック・ボーカルのサビの終わり辺りで使っているのは SOUNDTOYS MicroShiftで、平歌に戻った際に余韻を残したかったので使いました。MicroShiftでは少しだけピッチをいじる処理もしています。ROLAND Dimension D SDD-320が非常に好きな機材で、実機も持っているので通常はそちらを使うのですが、ちょっとだけサッとかけたい場合にはMicroShiftを使うこともあります。位相をめちゃくちゃにすることなくワイドにしてくれる素晴らしいエフェクトです」

 

 ジャクソン氏は「アレンジや各パートは最後の段階、マスタリングの段階まで変更を重ねていた」と制作を振り返る。また、興味深いことに彼はマスター・バスに全くプラグインを使っていない。

 

 「マスタリングをする前には何もしないんです。Sigma Deltaのアウトは-8dBにしておき、リミッターやエンハンサーの類については全く気にしないようにしています。このトラックのマスタリングはマイク・ディーンに手伝ってもらいながら私が行いましたが、私はマスタリングについて深く語ることはできませんね。リミッティングと、EQ、M/S処理が基本的な作業です」

 

 最後にジャクソン氏は、マスター・バスで特殊なことをしなくてもレベルを稼ぐことができるという“秘密の処理”について語ってくれた。

 

 「SSL INというトラックで2つインサートを使っているのですが、これはちょっとした秘密の処理でしてね。Sigma Deltaには2つのパラレルなミックス・バスがあって……それぞれMix AとMix Bというんですが、Mix Bを好みに応じてMix Aに混ぜることができるんです。Mix Bのインサートには私が自作したハーモニック・ディストーションを使っていて、必要に応じてパラレルで使うことで色付けとして活用しています。こうすることでマスター・バスで特殊なことをせずにレベルを稼げるんですよ。クリッピングやわざとらしいエフェクトを使うことなくマスタリング・エンジニア・レベルのラウドネスを得ることができる素晴らしい手法なんです」

 

 こうしたアナログ機材の使い方や非対称性、3分割法や常道から外れた数々の手法によって行われたジャクソンによる“フィニッシャー”としての仕事の成果は『Shoot for the Stars, Aim for the Moon』の大成功が証明している。ここから学ぶことは大いにあるだろう。

 

Release

Shoot For The Stars Aim For The Moon

Shoot For The Stars Aim For The Moon

  • Pop Smoke
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1935

『shoot for the stars aim for the moon』
ポップ・スモーク
republic records(輸入盤)

  1. Bad Bitch From Tokyo(Intro)
  2. Aim For The Moon
  3. For The Night
  4. 44 BullDog
  5. Gangstas
  6. Yea Yea
  7. Creature
  8. Snitching - w/o Polo G
  9. Make It Rain
  10. The Woo
  11. West Coast Shit
  12. Enjoy Yourself
  13. Mood Swings
  14. Something Special
  15. What You Know Bout Love
  16. Diana
  17. Got It On Me
  18. Tunnel Vision(Outro)
  19. Dior

*Deluxeエディションには全34曲収録

Musician:ポップ・スモーク(rap)、クエイヴォ(rap)、リル・ベイビー(rap)、ダベイビー(rap)、スウェイ・リー(rap)、フューチャー(rap)、リル・ティージェイ(rap)、50セント(rap)、ロディ・リッチ(rap)、タイガ(rap)、他
Producer:バシャー・ジャクソン、808メロ、ワンダガール、キャッシュマネーAP、他
Engineer:ジェス・ジャクソン、セージ・スコフィールド、コーリー“カッツ”ニュティル、他
Studio:イースト・ウェスト、マッド・モンキー、ロンドン・タウン、クアッド・レコーディング、他

 

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