モンスター・シンセのOmnisphereをはじめ、キーボード音源のKeyscape、ベース音源のTrilian、リズム&グルーブ音源のStylus RMXを生み出してきたソフトウェア・メーカー、SPECTRASONICS。多くのソフトウェアをリリースするのではなく、少数精鋭のラインナップでそのサウンドのクオリティに磨きをかけ続けるスタイルは、まさに音の匠と言える存在だ。2020年8月号掲載の特別企画では、4名のクリエイターにSPECTRASONICSのソフトウェアの解説とともに、その魅力が伝わる音例も作成いただいた。ここではYANAGIMANにStylus RMXについてを語っていただく。
Stylus RMX
多種多様なループ・ライブラリーを元に
リズム・パターンを生成するグルーブ音源
Spectrasonics Advanced Groove Engine(S.A.G.E.)テクノロジー搭載のグルーブ・プロダクション&パフォーマンス・モジュール。コア・ライブラリーには、ドラム/パーカッションのサウンドやグルーブ(リズム・パターン)を数千種類収録し、前身のStylusライブラリーもすべて含まれる。
また、オーディオ・グルーブをリアルタイムで任意の拍子、フィール、パターンに変更できるTIME DESIGNER機能と、シンプルな操作でグルーブに変化をもたらすことのできるCHAOS DESIGNER機能を搭載。作成したデータはMIDIファイルとしてホストとなるDAW上に書き出し、編集することも可能だ。拡張音源S.A.G.E. Xpandersのほか、サードパーティ製のライブラリーやREXファイルにも対応。S.A.G.E.環境内で独自のオーディオ・ループを利用することができる。
●REQUIREMENTS
Mac:OS X 10.10以降(32ビット/64ビット両方に対応)、AAX/AU/VST対応のホスト・アプリケーション(スタンドアローンにも対応、AUでの使用時は要Cocoa対応)、INTELのプロセッサー
Windows:Windows 7以降(32ビット/64ビット両対応)、AAX/VST対応のホスト・アプリケーション(スタンドアローンにも対応)
共通:クロック周波数が2.0GHz以上のプロセッサー、2GB以上のRAM(4GB以上を推奨)、15GB以上の空きディスク容量
YANAGIMANが解説! Stylus RMXが愛される理由
Release
細かなグルーブの調整ができる
S.A.G.E.エンジンを搭載
SPECTRASONICSからStylus RMXが発売されたのは2004年。それから16年間、いまだにソフトウェア・グルーブ音源の第一線として活躍しているモンスター・マシンです。僕もずっと使い続けている音源の一つで、そして無くてはならない存在になっています。とにかく非常に便利なグルーブ制作の音源で、やりたいことがすぐにできてしまいます。音楽を作る際はすごく重要なことですね。アイディアは時間がたつとすぐ逃げてしまいますから。昔のサンプラーでは音をアサインしたり、テンポにループを合わせるだけでもなかなか大変でした。しかもテンポを変えるとピッチも変わるので、かなり苦労していた方もいらっしゃるでしょう。それを一気に解決してくれたのがStylus RMX専用エンジンS.A.G.E.(Spectrasonics Advanced Groove Engine)でした。このエンジンにより自在にループのテンポを変えることができ、ピッチ調整、さらにループの中身の組み替えや細かいグルーブの調整、エフェクト処理などもできる上に、Stylus RM
Xは8パートのマルチティンバーです。“なんて便利なんだ!”と購入したときに心の底から思いました。付属しているサウンドだけでも膨大な量で、導入当時はいろいろ試聴しながら何時間も触っていたのを覚えています。今回、あらためてCore Libraryからチェックしてみたのですが、今聴いてもかなり使える音が満載です。
ではStylus RMXがどのような音源なのか、使用手順を追って説明していきましょう。まずは音色選びです。画面中央のプリセット名が表示される枠……立ち上げた状態だと“Sound Check”と書いてある部分を押すとブラウザー画面に切り替わります。左上のDIRECTORYは音色を選ぶ場所で、Core Library/EXP Libraries/User Libraries/User Favoritesという4つに分かれています。Core Libraryはもともと付属しているサウンドで、EXP Librariesは5つの専用ライブラリーを収録(BackBeat/Retro Funk/Liquid Grooves/Burning Grooves/Metamorphosis)。この2つのカテゴリーで、サウンドの総数はなんと約10,000種類に。また、REXファイルをS.A.G.E.エンジン用に変換してUser Librariesとして保存でき、好きなプリセットはUser Favoritesで管理することができます。
ブラウザー画面ではSuitesとElementsというセクションがあります。ループのカテゴリーがSuitesとして、各ループがElementsに保存されているのです。ブラウザー画面左側にあるSPEEDは、テンポに対してループの速度をハーフ/ダブルにすることができます。また、その下のMIDI FILEでは表示されているループ名をDAWにドラッグ&ドロップしてループのMIDIデータを配置することが可能です。
試しにCore LibraryのSuites“RMX Grooves 68-Small Blocks”を読み込んでみましょう。Elementsにある“68- Small Blocks Combo”は各ループを合わせた音で、その下に“68-Small Blocks Beat”“68-Small Blocks BendingBass”など、それぞれのパーツとなるループが並びます。ループを選択し、サウンドをロードしているパートの再生ボタンを押すと音が鳴り始めます。
ループに即興性を加える
CHAOS DESIGNER
Stylus RMXでは、DAWのテンポに合った状態でループを鳴らすことができるので便利です。こんなに手軽にテンポに合った状態で再生されるのは非常にありがたいのですが、さらにすごいのが画面下部に並ぶEDIT/FX/CHAOS/TIME/MIXERのセクション・ボタン。これらを活用することで、1つのループでもかなり音の幅を広げることができます。
EDITの画面では、ループの音量やパン、ピッチの変更、リバース、フィルターのほか、LFOやエンベロープによるモジュレーションをかけることが可能。これだけでもループに変化を加えられますが、FXではTube LimiterやModern Compressor、Vintage 3-Band EQ、Retro-Phaserなど、33種類ものエフェクトがそろっています。ループのスライスの一部を別系統の出力にアサインできるEDIT GROUPを併用すれば、2拍目と4拍目のスネアのみにエフェクトを適用するなど、複雑なエディットも可能になります。
次に紹介するCHAOS DESIGNERは面白い機能です。ループのスライスをランダムに再生したり、繰り返したり、リバースするなど、即興性を加えられるので音のバリエーションをかなり増やすことができます。CHAOS DESIGNER画面の右側にあるBUZZではスタッターのような効果が得られ、トラップ的なサウンドに。CHAOS DESIGNERはランダムに変化が起きるので予測不能です。そこが面白いポイントになっています。
TIMEでは、ループを細かくクオンタイズしてグルーブを変えることが可能。そして最後のMIXERではStylus RMXから出る8パート分の最終的なコントロールを行います。このように説明し切れないほどたくさんの機能があり、いろんな可能性を持っているStylus RMX。このソフトウェアだけでも1曲を作り上げることができるほどです。SPECTRASONICSのWebサイトではチュートリアルのビデオがたくさん出ていますので、使い方で困ることはないでしょう。ぜひ制作に活用してみてください。
YANAGIMANが実践! Stylus RMXでのサウンド・メイク
ループを元に複雑なグルーブを作り出すことができるStylus RMX。その真価を音例でチェックしてみよう。
①ランダム要素を加えたエレクトロニックなビート
この音例では、エレクトロニックなリズムを作成しました。複数のループを組み合わせ、CHAOS DESIGNERによるランダム性を取り入れたビートです。まずは“54-Eclipse Atoms”に少しフィルターをかけて中低域をカット。さらに、CHAOS DESIGNERを活用してPATTERN、REPEAT、REVERSE、BUZZによる変化を少し加えます。まずはトラックのフレーバーとなる部分を作りました。
次に、マルチティンバーであることを活用してパート2へキックを入れます。キックは“114-Defender Kick”です。また、パート3でスネアの“86-YoHo Snare”をロード。スネアにはFXでリバーブを少し加えます。パート4にはハイハットの“93-Scramble HiHats”を読み込み、CHAOS DESIGNERでPATTERN、REPEAT、REVERSE、BUZZの変化を追加しました。パート5はShakerで、“93-Shaker”を選んでいます。最後はパート6に“All cymbals Hi-Fi”を入れ、シンバルが必要な場所にMIDIで打ち込みました。
②拡張ライブラリーを使った生々しいドラム
次はStylus RMXの拡張ライブラリーを使った、生ドラム系パターンです。現在のStylus RMXはS.A.G.E. Xpanderというもともと別売りされていたライブラリーを統合しています。今回はビンテージ・アコースティック・ドラムとパーカッションに特化したRetro Funkというライブラリーのサウンドを使いました。かなり生々しい音で、生との区別が付かないのではないかと思います。 今回の使う音色はドラム・フィルがすごくかっこいいので、ドラムとパーカッションの16小節のセッションみたいなものを作ってみました。使ったサウンドはRetro Funk内の“098-AttiTUDE”に入っているループがほとんどで、コア・ライブラリーのシンバルやシェイカーも重ねています。内蔵されているライブラリーだけでなく、後からお気に入りのサウンドを追加できるのも魅力的です。
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