サンレコのエンジニア・インタビューなどでも、たびたび登場する“パラレル・コンプ”なるテクニック。リズム隊やギターへの処理をマスターしたら、最後はボーカルを見ていきましょう。
連動音源について:各ソースの処理後の音(=“原音+パラレル処理の音”の記載がある音例)は原音と聴感上の音量をそろえ、ビフォー/アフターの差異が分かりやすいようにしています。またパラレル処理のエフェクト音は、原音に対するバランスのまま書き出しています。
ボーカルへのパラレル・コンプを解説
歌にはディストーション・ペダルのプラグイン、AVID Black OP Distortionを挿したのですが、入力音/エフェクト音の割合を設定するMIXノブを使っているので、結果としてはパラレル・ディストーションと言えます。近年はコンプにもMIXノブを備えたものが増えていて、“AUXトラックを使わなくてもパラレル・コンプできるのでは?”と思う方も居らっしゃるでしょう。でも個人的には、感覚が違うんです。MIXノブは円グラフのようで、決められた器の中でバランスを決めるものという印象。だから音を整える際に有用ですが、AUXトラックを使ったパラレル処理は円グラフの外側に欲しい要素を盛っていくイメージなので、整えるというよりは“強めたい”とか“ちょっと暴れさせたい”とか、はたまた“あえてアンバランス感を出したい”というときに使える手法だと感じています。
AVID Black OP Distortion Distortion
AVID Fairchild 660 Compressor |声の太さが立つ
このパラレル・ディストーションのほか、AUXトラックにBF76を立ち上げてゲイン・リダクション平均-2dBほどのパラレル・コンプを加えています。ちなみに歌は、AVID Fairchild 660でパラレル・コンプすることもあります。声に太さが欲しいときに使うんです。
AUDIOTHING Type A Enhancer |高域に作用
BF76に加えて、DOLBYのノイズ・リダクション・システムを再現したAUDIOTHING Type Aもパラレルでかけています。シビランスがわずかにコンプレッションされたようになるのが面白く、「Freedom Ride」など音に風合いのある曲ならパラレル処理の選択肢になり得ると思います。
パラレル・コンプは、足し過ぎると圧迫感が出たり全体がゴチャっとなりがちなので、ほどほどがお勧めです。個人的には、シンセ・パッドなど持続音系の上モノには使うことがありません。本稿で紹介したようなトラックをはじめ、マッチするソースをご自身で探してみてください!
【特集】パラレル・コンプ、炸裂!
解説:福田聡
【Profile】フリーランスのレコーディング/ミキシング・エンジニア。ファンクやR&Bといったグルーブ重視のサウンドを得意とし、堂本剛のプロジェクトENDRECHERIやK、オーサカ=モノレール、リベラル、WAY WAVE、Shunské G & The Peas、Keyco、マーサ・ハイらの作品を手掛ける。
連動音源提供アーティスト:Keyco
【Profile】本特集の連動音源にもなった「Freedom Ride」は、シンガー・ソングライターKeycoの楽曲。ネオ・ソウルを軸にさまざまなフィールドで活躍する彼女は、2020年にメジャー・デビュー20周年の記念アルバム『あいいろ』をリリース。椎名純平、COMA-CHI & CHAN-MIKA、PUSHIMなど多彩なゲストを迎え、ソウル~R&B~ダンス・ミュージックを吸収した独自の世界を作り上げている。「Freedom Ride」は『あいいろ』の2曲目に収録。
編集部便り〜パラレル・コンプT、発売中!
サンレコ編集部プロデュースの“パラレル・コンプTシャツ”(3,080円)が発売中です。これを着て音作りに励めば、パラレル・マスターになれるかも……!? 季節柄、アンダーウェアとして忍ばせるもよし、温かい季節の到来とともに全面に押し出すもよし、着こなし方はあなた次第。詳しくは、リットーミュージック“TOD”のWebサイトへ。